[市場動向]

クラウドや運用管理にまでOSS勢力圏が拡大─鳥瞰図で見るOSSのカバー範囲

企業ITに浸透するオープンソースソフト Part3

2012年5月15日(火)IT Leaders編集部

LinuxやWeb/アプリケーションサーバーから企業に浸透してきたOSS。 最近では、クラウドやビッグデータなどのオープンソースソフトウェア(OSS)発の新技術はもちろん、 データベースや運用管理などにも活躍の範囲を拡大し続けている。 各企業への取材から見えてきたOSSの動向をまとめた。

 オープンソースソフトウェア(OSS)と言えば、OSやミドルウェアが真っ先に思い浮かぶが、企業ITで利用可能な範囲はさらに広がり続けている。動向に詳しい複数のベンダーの協力を得て、主要なOSSをピックアップ、ジャンル別に整理したものが18ページの図3-1である。大量データの処理基盤「Apache Hadoop(詳しくは弊誌2012年3月号参照)」や、スマートフォン向けOS「Android(同2012年1月号参照)」などの新技術から、統合運用監視やセキュリティなど、企業ITの安定稼働に欠かせない技術まで、さまざまな分野にOSSが進出していることがわかる。

 OSSに関する社内SEからの問い合わせに対応する富士通の吉田正敏チーフストラテジストは、「従来は、TomcatやMySQLなどの定番に問い合わせが集中していたが、最近は業務アプリからクラウドまで多岐にわたっている。OSSの裾野は確実に広がった」と述べる。以下、最近の動向を見ていく。

Linux
企業ITを支えるインフラに基幹システムでの導入事例も

 “無料で利用できるが、性能面や品質面は高くない”というイメージが強いOSS。しかし、商用製品に肩を並べるまでに成長した分野もある。その筆頭がLinuxである。「信頼性やスケーラビリティに課題があるとされた時代もあったが、最近は性能面を疑問視する声を聞かなくなった」(ノベルの山崎正弘シニアマネージャー)。

 金融系の基幹システムでもLinuxの採用が増えている。例えば、東京証券取引所が2010年から運用を開始した株式売買システム「arrowhead」ではレッドハットのLinuxディストリビューション「Red Hat Enterprise Linux」を選択。2011年11月には、東京三菱UFJ銀行がSOA基盤のOSとしてノベルの「SUSE Linux Enterprise Server」を採用したと発表した。

 各ディストリビューターも製品の強化に余念がない。ノベルは2012年3月に最新版の「SUSE Linux Enterprise 11 Service Pack 2」をリリース。OS上で動くアプリケーションの安定性を維持したまま、カーネルを更新する開発手法「Forward Looking Development Model」を採用した。ノベルが互換性を保証するサービスパックでカーネルを更新し、新機能を取り込むことが可能になる。また、レッドハットは2012年4月に基幹システム向けのサポート強化を発表。Red Hat Enterprise Linux 5と6の標準サポート期間を従来の7年から10年に延長した。

PostgreSQL
ベンダー・ロックイン回避策として注目度が急上昇

 特定のベンダーによるロックインを回避できる。言い古されたOSSのメリットの1つだが、データベースの分野ではようやく現実味を帯びてきたようだ。きっかけは、2011年11月にオラクルが実施した保守サポート料金の改定。代替案を備えておくことが必要と感じた企業が、特定企業に依存しないRDBMS製品として「PostgreSQL」に注目する動きが活発化した。「この1年で問い合わせがとにかく増えた。自社でPostgreSQLを適用できる範囲を把握したいという要望が多い」(NECの井上浩弓事業部長代理)。

 ここ数年で、PostgreSQLの性能が大幅に向上したことも、周囲の期待を高めることに一役買っている。例えば、2008年2月リリースのバージョン8.3では「オートバキューム機能」を追加。処理性能維持のために不要になった更新履歴のレコードを定期的に削除する、PostgreSQL固有の「バキューム」作業を自動化した。また、2011年9月リリースのバージョン9.1では、データの保護機能を強化した。「オラクルのように“痒いところに手が届く”とまではいかないが、基本機能やパフォーマンスは遜色のない水準に到達している」(アシストの加藤義和部長)。

 2011年4月には、NTTや日立製作所、富士通、NECなど10社が「PostgreSQLエンタープライズコンソーシアム」を設立。啓蒙活動などを通して企業利用を後押しする。

SugarCRM
他のシステムと組み合わせて使う開発の手間とコストを削減

 OSやミドルウェアと比較すると、業務アプリケーションの分野では、OSSの普及にまだ時間が掛かりそうだ。例えば、国内で比較的知名度の高い顧客管理ソフトウェア「SugarCRM」も、2008年にIHIが全社導入して以降は、表立って大きな事例は発表されていない。ただし、水面下では少し変わった形での利用が増えてきている。ソフトウェア単体ではなく、他のシステムに機能を提供するモジュールとして使うというものだ。

 例えば、コンシューマ向けWebサービスでは、顧客の個人情報や問い合わせの管理するための機能が必要となる。これらを独自に実装する代わりに、SugarCRMなどのOSSをシステムに組み込む。SugarCRMは、取引先管理や商談管理、キャンペーン管理などの機能を備えており、SOAPやRESTなどのインターフェースを使って、データを登録したり閲覧したりすることもできる。すでに完成したソフトウェア使えば、データモデルの設計やコーディングに頭を悩ませなくてもすむ。

 「商用製品と違ってコストが掛からず、改変が自由なのでモジュールとして使い勝手がよい。スクラッチ開発を効率化する手段として利用するケースが増えた」(野村総合研究所の寺田雄一グループマネージャー)。

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