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[技術解説]

減らないスパム、不要なCC、膨れ上がるメールボックス…メールに“使われない”働き方を考える

仕事のツールを見直す Part1

2012年8月6日(月)力竹 尚子、折川 忠弘(IT Leaders編集部)

企業におけるコミュニケーションの中核がメールであることに異論はないだろう。だが、果たしてそれだけでよいのか。メールの弱みを補完し、社員同士や取引先との情報共有や協働作業をさらなる高みに引き上げるポテンシャルを持つ技術が続々と現れている。 力竹 尚子/折川 忠弘(編集部)

「自分は、3年も電子メールを使っていない。電子メールのスピード感、CC(カーボンコピー)機能が仕事に合わないからだ」。仏IT大手であるAtos Originのティエリー・ブルトンCEOは、2011年11月28日付けの米Wall Street Journal紙でこう述べた。

同じくIT企業の米IBM。今年1月、同社初の女性CEOに就いたバージニア・ロメッティ氏は就任直後、前任のサミュエル・パルミサーノ氏と違うことをして話題をまいた。パルミサーノ氏は全社員に一斉同報メールを送ることで知られていたが、ロメッティ氏は自らが語るビデオを撮影し、それを社内のソーシャルネットワーク「Connections」で公開したのだ。

さて、こうしたトップ2人の行動を、あなたはどう思うか。

メールが登場したのは1990年代初頭のこと。「電話と異なり、相手の仕事や思考を中断させない。受け手は自分の都合のよいときに読み、返信できる」という非同期型ならではの特性と、同じ非同期型コミュニケーションであるファクシミリよりも手軽な点が受け、一気に普及した。以来、企業におけるコミュニケーションの中核を担うツールであり続けてきた。こんなことを言うまでもなく、今や企業にとって、そこで働く人々にとって、欠かせない道具になった。いささか大げさにいえば、日常業務の土台であり、基盤になっている。

毎朝、出社してまず取りかかるのはメールのチェック。帰宅間際も同様だ─。こんなビジネスパーソンは、決して少数派といえないのではないだろうか。そればかりか、外出先で気軽にメールをチェックするためにスマートフォンの購入に踏み切った人も多いだろう。

その一方で、こんな疑問を持つことはないだろうか。「自分はメールを活用しているのか、それともメールに使われているのだろうか?」という疑問である。

減らないスパム、不要なCC…
膨れ上がるメールボックス

「なんで毎日こんなに届くんだ」。メールボックスを開き、ため息をついたことがある人は少なくないと思う。人によって異なるが、1日に数十〜数百通が届くことも珍しくはない。仕事に直接関係するものだけならまだしも、スパムメールが混在することもままある。フィルタリング技術は日々進化しているが、一方でスパム業者の手口も巧妙化。網の目をかいくぐって到達する迷惑メールはなかなか減らない。

このほか、メールを水増ししている原因に「CC文化」がある。決して多数派ではないかも知れないが、メールをやりとりする際に必ず管理職をCCに含めるという企業や組織は確実に存在する。悪気はない。だが、「本文を開いてざっと目を通してみたものの、なぜ自分がCCに入っているのかさっぱり分からない」と首をかしげる管理職もいる。

一方、組織によっては“メール依存症”とも呼ぶべき現象が長年続いている(図1-1)。なんでもかんでもメールで済ませようとするユーザーの存在である。社内の他部門に、内線電話をかければものの1分もかからず済むような要件をいちいちメールで問い合わせる。極端なケースでは、同じフロアで働く同僚へのちょっとした要件、例えば取引先担当者の連絡先を尋ねるといったことにメールを使う。ほんの数歩先に相手がいるにもかかわらず、だ。

図1-1 メール中心の情報伝達・共有が限界を迎えつつある
図1-1 メール中心の情報伝達・共有が限界を迎えつつある。事業のグローバル化やスピードアップが必然である今、コミュニケーション基盤の刷新は喫緊の課題だ

本来は1:1のツール
協働作業は実は向かない

使い慣れるに従って、メールのカバー領域がむやみに広がったことも挙げたい。具体的には、チームで1つの成果物を作り上げていくコラボレーションへの利用である。ガートナー ジャパン リサーチ部門インフォメーション・コラボレーションの志賀嘉津士リサーチ・ディレクターは「メールはそもそも、1:1で私信をやりとりするためのテクノロジ。それを、コラボレーション用途に使うと、混乱や作業効率の低下が生じることがある」と指摘する(図1-2)。

図1-2 かえって生産性を低下させてしまうメールの使用例
図1-2 かえって生産性を低下させてしまうメールの使用例。特に、複数メンバーによるコラボレーション作業にメールはそぐわない

例えば、複数ユーザーが1つの結論に向けて合意形成していくディスカッション。これをメールで実施すると、「返信」「返信への返信」という形式で議論が進み、そのたびに引用部分が増えていく。そうした過程を最初から見ていればよいが、途中から加わったメンバーは経緯を追いづらい。引用の仕方も人によってまちまちで、誰がどのメールに対して返信しているか送信時間からだけでは判断できない。いきさつを正確に知るためには、すべてのメールを開封して読み直す必要がある。これは結構な労力だ。シグマクシスの戸田輝信パートナーは、「メールをディスカッションに使ってはいけない」とまで言い切る。

もう1つ、メールを使ったコラボレーションの典型例に、添付機能によるファイル共有がある。論文や提案資料などを共同で作成する際、添付ファイルによるドキュメント共有は最もポピュラーなやり方である。日ごろ当然のように行われているだけにちょっと意外かも知れないが、実はここにも一考の余地がある。

添付ファイルによるコラボレーションを円滑に進めるには、いちいちダウンロードする手間に加えて、修正履歴を後から確実に追跡するためのバージョン管理を徹底する必要がある。慣れればそうした作業も苦にならなくなるが、それでも「何度か修正を重ねるうちに、最新版がどれか分からなくなってしまった」「途中、あるメンバーが誤って古いバージョンに手を加えたものを送信してしまったため、ドキュメントが初期の状態に“先祖返り”してしまった」といったことが起こり得る。

グループウェアの掲示板機能や、オンラインストレージサービスを利用したドキュメント共有など、コラボレーション用途に向いたツールはすでにあり、使われている。しかし、使い方を工夫しながらメールでなんとかやりくりしているケースも多い。それだけメールの利便性が高く、ユーザーが慣れ親しんでいるということだろう。もっと言えば、上で述べたような不便さを含めたメールの使用感は「そういうもの」と当然視され、これまで問題意識を向けられたことがなかった。

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