[ザ・プロジェクト]

5社の基幹系と情報系を1年強で統合─LIXIL

2012年8月22日(水)田口 潤(IT Leaders編集部)

トステムやINAXなど5社が合併し、2011年4月に誕生した建材・住宅設備最大手のLIXIL(リクシル)。会計システムはERPパッケージやメインフレーム上のスクラッチ開発版が混在し、グループウェアも3種類あるなど、情報システムの整理、統合は待ったなしだった。新会社発足の期日が迫る中、難問だらけのシステム統合にどう取り組んだのか。責任者に話を聞いた。(聞き手は本誌編集長・田口 潤 写真:陶山 勉)

藤原浩氏
藤原 浩氏
LIXILインフォメーションシステムズ プロジェクト開発部 部長 兼 海外開発グループ グループリーダー
1980年4月、トステムに入社。ホストコンピュータの導入やアプリケーションの運用、ネットワークの構築などに従事する。2000年以降はWEB開発室室長や営業システム開発部部長として、システム開発を率いてきた。2011年9月から現職。LIXILのIT推進本部海外企画リーダーと、LIXILグローバルカンパニー海外IT推進部長を兼任し、グループのIT化をけん引している

 

─トステムやINAXなど5社が統合してLIXILが発足したのは2011年4月。それから1年後の2012年4月に基幹系や情報系のシステムの統合プロジェクトが大よそ決着したと聞いています。規模が大きな5社のシステムを1つにするのは、さぞかし大変だったでしょう。

藤原:それはもう大変でした(笑)。

─5社の統合プロジェクトとなるとスコープが広いので、何からうかがうべきか迷ってしまいます。まずは全体像をつかむうえで大よそのスケジュールから教えてください。

藤原:システム統合の話が最初に出たのは2010年春のことですが、本当に慌て始めたのは2010年7月頃からです。

─ん、慌て始めた?

藤原:ご存じかと思いますが、当初は比較的緩い格好の事業統合を予定していました。アルミサッシをはじめ金属建材を取り扱うトステムと新日軽、東洋エクステリアの3社で編成する「金属セグメント」、衛生陶器やキッチンなど水回り建材を扱うINAXとサンウェーブ工業の2社からなる「水回りセグメント」といった具合に、大ぐくりの商材ごとに事業会社が業務を遂行するイメージです。

─ところが、一転してトステムを存続会社として各社を吸収合併する方針に変わった。

藤原:おっしゃる通りです。1社にするとなれば当然、システムは緩い連携ではなく、文字通り統合しなければならない。2010年7月にそういう方針になりましたので、大きく舵を切る必要がありました。常に400人から500人がプロジェクトに入っている状態でした。

統合作業を改めて洗い出し全体スケジュールを線引き

─LIXILの設立が2011年4月なので、プロジェクトに許された猶予は1年もない。まずは何から着手したんですか。

藤原:各社のシステム責任者に集まってもらい、改めて作業を洗い出したうえで、統合の全体スケジュールを線引きし直しました。元々、金属セグメントと水回りセグメントに関しては、セグメントごとに決算できるようにする作業が進んでいましたので、それを生かしつつ、新たに必要になる作業をプロジェクトとして一斉に発足させる形です。

─新規に加わったプロジェクトの例を挙げていただくと?。

藤原:たくさんあります。統合会計や営業、人事・給与、購買・物流のシステムはもちろんのこと、LIXILとしてのWebサイトを整備したり、メールやグループウェアなど情報系の共通インフラを統合するプロジェクトもあります。結果として、2010年春に金属セグメントと水回りセグメントの大きく2つだったプロジェクトが7月には7つに増え、並行して走らせることになっていました。

─随分あっさりとおっしゃいますが、どんなに頑張っても新会社の誕生までにプロジェクトを終えられるとは思えません。

藤原:もちろんその通りです(笑)。ですから2011年4月までに何が何でも間に合わせなければならないものを先行して進め、本格的なシステム統合は2011年度中、つまり2012年3月末に終えるスケジュールを策定しました。

旧システムを生かしながら営業や経理の処理を統合

─何を先行させたのでしょう?

藤原:1つは、営業から5社の商品を横断的に取り扱えるようにして商品のカバー範囲を広げたいというニーズが上がってきていたので、その対応です。

─システム面では具体的に何を?

藤原:失礼しました。ちょっと分かりにくいですね。住宅向けの製品を例にすると、トステムにはアルミ製の階段はありませんが、新日軽にはある。逆に新日軽には、トステムにあった寒冷地仕様のカーポートがありません。こんな具合に各社の商品群は相互に補完できるんです。でもシステム側の処理を含めて、これで完全にできるようにするには時間がかかります。

そこで当面の策として、注文は実際には旧トステムや旧新日軽のシステムでそれぞれ処理するけれど、売上伝票や請求書などお客様にお渡しする帳票類に印字するロゴや社名は、LIXILの発足と同時に統一する。そのために帳票や印刷などに関わるシステムを整備したんです。

─確かに、それは何をさておいてもやる必要がありますね。内部的には別々のシステムで処理していても、対外的には1つの会社に見えないといけませんので。

藤原:ええ。それから割と苦労したのが、経理の仕分けデータを会計システムをまたがってクロスできるようにする仕組みです。

─仕分けをクロスする?どういう意味ですか。

藤原:事業統合に伴い、旧トステムの社員が旧INAXの事業所の所属になるといったケースが出てきます。ちょうど会社を超えて人事異動するようなイメージです。

─そこまでは分かります。

藤原:そのように異動した社員の人件費や交通費、出張旅費などの経理データは、いったん所属する事業所の会計システムに登録し、最終的に(元の所属である)旧トステムや旧INAXの会計システムに相互に振り分けます。

─ちょっと待ってください。どうしてそんな面倒なことを考えたのですか?会計システムを一本化すれば済みそうですが。

藤原:人事に関わる諸制度の整備が、2011年4月にはとても間に合わなかったんです。システムの構築以前に、各社で異なっている出張手当などの各種社内規定を労働組合と調整しながら統一する必要があるんですが、そのための時間も足りませんでした。でも人の異動はあるので、対応しなければなりません。

─なるほど。一挙に5社を統合するとなると、そういったシステム以外の調整の量が半端ではないわけですね。多少遠回りになっても、システム側は当面の課題に対応する必要があると。

旧5社の会計システムをオラクル製ERPで一本化

─会計システムについて、もう少しお聞きします。現在はどんな状況ですか?

藤原:日本オラクルのERPパッケージ「Oracle E-Business Suite(EBS)」を使って、統合会計システムを構築しました。

─自社開発など複数の旧システムがある中で、なぜOracle ?

藤原:西暦2000年問題の対応を終えた後から、トステムが基幹系でオラクル製品を利用していたんです。金属セグメントの会計にEBSを使うことも2010年夏前に決まっていました。

─そこに水回りセグメントのINAXやサンウェーブ工業などの会計システムを寄せた?

藤原:そうです。EBSの採用については、誰からも特に異論なく決まりましたよ。

─EBSの導入はいかがでした。すんなりと進んだ?

藤原:水回りセグメントにまで会計システムの対象を広げたので、サーバーの性能要件など見直す点はありました。それでも2012年4月に計画通りカットオーバーしました。会計システムで残すは現在、並行運用している旧5社のシステムを年内に停止することです。

─システム更新時に問題になりがちのデータ移行は、どうでしたか。

藤原:支払先のマスターだけでも2万件ほど移行しましたが、特に問題は出ませんでした。口座番号や口座名が正しいかどうかを銀行に有償でチェックしてもらうなど、事前にやれることはすべてやっていましたから。それよりも業務の慣習と言いますか、金属セグメントと水回りセグメントの会計システムの設計思想が違っていたので、統合に当たって検討する必要がありました。

─計上のタイミングとか、そういったことですか。

藤原:そうではなくて、金属セグメントの会計システムは、ある程度の会計知識を前提にしたものだったのに対し、水回りセグメントは誰でも簡単に使えるようになっていたんですよ。例えば、筆記用具を購入したとき、金属セグメントのシステムは、社員が事務用品費という勘定科目を指定して登録する仕組みでした。水回りセグメントのシステムは「鉛筆」のように費目を登録すると、裏で科目が連動していて所定の勘定として登録されるんです。

─水回りセグメントの方が便利そうですね。

藤原:費目と科目のマスターが完全に整っていれば、そうです。でも対応関係を維持し続けるのは容易ではないので、経理部門の担当者と相談して金属セグメントの方式に合わせることにしました。

─水回りセグメントからは「藤原さん、考え直してくれ」という話になったでしょう。

藤原:なりました(笑)。でも、どちらにも一長一短があるようなこの種の選択は、最後は「決め」なんです。あとは新しいシステムに慣れてもらうしかありません。

図1 LIXILにおける情報システム統合の全体スケジュールの概略
図1 LIXILにおける情報システム統合の全体スケジュールの概略
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