[シリコンバレー最前線]

30歳代半ばのCIOが率いた米国政府のクラウド化

2012年8月27日(月)山谷 正己(米Just Skill 社長)

2012年11月に大統領選を控えている米国。現政権に対する評価は様々で、その行方は分からない。しかし、オバマ氏とその若い腹心たちが成し遂げたITマネジメント改革は、高い評価に値する。

画面1 DATA.govのWebサイト。米国以外に、30カ国の政府が参加している
画面1 DATA.govのWebサイト。米国以外に、30カ国の政府が参加している

再選を狙う民主党のバラク・オバマ現大統領。対する共和党からは、前マサチューセッツ州知事のミット・ロムニー氏が出馬。11月6日の投票日に向けて、米国の次のリーダーを決める大統領選が終盤を迎えつつある。今回はこれにちなみ、オバマ政権のIT分野における功績を振り返りたい。「オープンガバメント」「クラウド」をキーワードにした連邦政府のITマネジメント改革である。

2008年の大統領選に勝利したオバマ氏は、2009年に就任するや、大統領直属の役職としてCIOを設置。当時ワシントンDC市のCTOを務めていたヴィヴェク・クンドラ氏を任命した。合衆国の初代CIOに当時34歳の若手を据えた人事は、今思えば大英断だったといえる。

クンドラ氏はまず、同時期にCTOに就任したアニーシュ・チョプラ氏と協力し、「DATA.gov」と呼ぶWebサイトを立ち上げた。これは、連邦政府関連のあらゆるデータをワンストップで入手できるポータルサイトであり、政権が掲げる「オープンガバメント(開かれた政府)」という方針を具体化する施策である。DATA.govは州政府や他国の政府にも波及し、今では米国内34の州政府、世界30カ国の政府が参加している(画面1)。日本政府はまだこの仲間に入っていない。

IT調達はクラウドファーストで

その一方で、クンドラ氏は政府機関のクラウド利用を強力に推進。2009年9月、アプリケーションやコンピューティングパワーといったクラウドサービスのポータルとして「Apps.gov」を立ち上げた。すなわち、政府機関向けのクラウドサービスブローカーである。このポータルサイトを経由して、様々なSaaSやIaaSを調達できるようになった。

2010年2月には、連邦政府データセンター統合イニシアティブ(FDCCI)を発足。政府が所有するデータセンターの統合に踏み切った。2010年の時点で全米2094カ所にあった政府所有のデータセンターを順次、クラウドに集約。2015年までに800カ所を閉鎖するという計画である。

この計画を実行に移すため、2011年2月に立案したのが「米国政府クラウドコンピューティング・ストラテジー」である。そのなかで、ITの調達と利用に際して、クラウドサービスを第1の選択肢にするという「クラウドファーストポリシー」を明文化した。

FDCCIは着々と進行している。すでに、 2011年に195カ所を閉鎖。2012年には178カ所を閉鎖する予定だ。並行して、民間のデータセンター利用も加速している。例えば、連邦政府の公式サイト(USA.gov)はTerremark社のIaaSを利用しているし、財務省の公式サイトはAmazon EC2上で稼働している。

2011年8月、自ら道筋をつけたITマネジメント改革が軌道に乗ったことを確信してか、クンドラ氏はCIOを退任。現在は、セールスフォース・ドットコムで新興市場担当エグゼクティブ・バイスプレジデントを務めている。新CIOには、マイクロソフト出身のスティーブン・ヴァンローケル氏が就任した。

オバマ政権の下、クンドラ氏はたった2年で成果を出した。振り返って、日本はどうか。総務省は、北海道・東北地区をデータセンター特区に指定したとのこと。しかし、コンテナ型をはじめとする新方式のデータセンターを建築・運用するには、建築基準法や消防法といった古くからの規制が壁になる。これらを早期に緩和して構築・運用コストを軽減しなければ、構想は画餅に終わりかねない。官民一体となった取り組みを強く期待したい。

集金力ではオバマ氏がリード

さて、せっかくなので激戦模様の大統領選についても触れておきたい。

どこの国でも選挙にはお金がかかるものだ。潤沢な資金があれば、テレビCMやWeb広告といった広報活動を充実させられる。資金が不足すれば、選挙スタッフへの手当てがまかなえず、対策本部の士気を下げてしまうことになりかねない。そこで、どの候補者にとってもなくてはならないのが、支援者からの献金である。より多く献金を集めた候補者が勝利に近づく。

広く献金を求めるために、各陣営がこぞって利用しているのが、インターネットである。Webサイトで献金を募ったり、候補者の名前をあしらったTシャツやコーヒーマグ、バッジといったグッズ販売するなど、それぞれ工夫をこらしている。

しかし、最も効率的な資金集めは極めて伝統的な手段だ。候補者が主要都市を回って開催する食事会である。参加者は、候補者を囲んで食事をし、一緒に写真を撮ることができる。参加料は、オバマ氏の場合は3万5千ドル、ロムニー氏の場合は5万ドルと高額である。食事会には通常、数百人が参加するから、選挙対策本部は1度の開催で数百万ドルを集金できる。

どの候補者にどれだけ献金が集まっているかは、連邦選挙委員会やニューヨークタイムス紙のWebサイトで確認できる(画面2)。7月10日時点で、オバマ氏が集めた選挙資金は2億6千万ドル。一方、ロムニー氏のそれは1億2千万ドルにとどまっている。資金面では、オバマ氏が大幅にリードしているようだ。

米国連邦政府の選挙委員会
ニューヨークタイムス紙
画面2 米国連邦政府の選挙委員会(上)やニューヨークタイムス紙(下)のWebサイトで、大統領候補者への献金額をチェックできる

オバマ氏には、力強い援軍も現れた。「スーパーオバマガール」である(画面3)。みなさんは、前回の大統領選の際、オバマ氏の強力な支援者として活躍した「オバマガール」をご記憶だろうか。そう、オバマ氏を応援する歌やダンスを披露する動画をYouTubeに投稿し、一躍人気者になった、あの女性だ。その彼女が今回、スーパーオバマガールにグレードアップしてYouTubeに登場し、再び注目を集めている。

スーパーオバマガール
画面3 スーパーオバマガールがYouTubeに投稿した動画の視聴回数は、4000万近くに上る
バックナンバー
シリコンバレー最前線一覧へ
関連キーワード

電子政府 / CIO / クラウド移行

関連記事

トピックス

[Sponsored]

30歳代半ばのCIOが率いた米国政府のクラウド化2012年11月に大統領選を控えている米国。現政権に対する評価は様々で、その行方は分からない。しかし、オバマ氏とその若い腹心たちが成し遂げたITマネジメント改革は、高い評価に値する。

PAGE TOP