[加藤恭子のマーケティング志向で行こう!]

じわりと啓蒙、少しずつ理解を深めてもらう「ナーチャリング」

2012年8月31日(金)加藤 恭子(ビーコミ 代表取締役)

マーケティングの仕事には、見込み客を見つけて、その情報を営業に引きわたす活動があります。

それは営業の仕事では?

確かに、相手が興味を持っているか否かに関係なく電話して感触を探る「コールドコール」や、直接訪問する飛び込み営業のように、営業による見込み客の発掘活動はあります。しかし、これらは非常に効率が悪いのです。

見ず知らずの営業がいきなり訪ねてきたら、どうでしょう。それだけで相手が引いてしまう可能性があります。興味の有無にかかわらず訪問や電話をするとなれば、担当者が何人いても足りません。そもそも繰り返し門前払いされたら営業の気が萎えてしまい、仕事の効率が上がるとはとても思えません。

そこで営業の「前工程」をマーケティングが担当するのです。

やり方は色々あります。伝統的な方法の1つが、展示会やセミナーの場を活用するもの。展示ブース前を通りかかったりプレゼンを聞いたりした際、コンパニオンからアンケートの記入を依頼されたり、名刺と引き換えにグッズをもらったりした経験があるでしょう。こうして集めた名刺などの情報を、出展社のマーケティング部門はさまざまに活用します。例えば、集めた名刺を企業規模や役職、自社製品/サービスへの興味の度合いなどによって分類し、製品/サービスやセミナーの案内をメールで送ります。

もっとも、このようなマーケティングによる前工程も、見込み客を発掘するのに万能というわけではありません。「今すぐに買いたい」と考えていない相手にしつこく電話やメールをしたら、営業のコールドコールと同じように煙たがる人もいるでしょう。そうなると、せっかくの前工程も途端に立ち行かなくなります。

そうならないために、マーケティング業界でしばしば使われる言葉があります。「ナーチャリング」です。英語で書くと「nurturing」。これは保育という意味で、忘れられないような頻度で情報を発信するなどしてじわりと相手を啓蒙し、見込み客を育成するための仕組みです。

営業の世界では少し前まで(ひょっとすると今でも)、見込み客を発掘・育成する取り組みを、種まきや刈り取りに例えることがよくありました。しかし、最近のマーケティングの世界では、育児に習う面が出てきたわけです。いつの日か製品/サービスを検討するときに思い出してもらえるように、少しずつ製品/サービスの理解を深めてもらいましょう、という発想です。

色々な仕事の前工程に応用

このナーチャリングの発想は何もマーケティングのためだけではなく、前工程や段取りが必要な仕事、つまりほとんどすべての仕事に応用できそうです。特に分かりやすいのは営業ですね。名刺交換したきり、机の中で忘れ去られた名刺がたくさんあるでしょう。そうした名刺を見込み客の育成に活用しない手はないはず。先日お会いした著名なマーケティング会社の方は、営業担当者の机に溜め込んだままになっている名刺の相手に連絡してみると、思いのほか効果があるとおっしゃっていました。

かつて提案を断られていても、そのとき予算がなかっただけで、新年度になって予算がついたかもしれません。既存システムのメンテナンス契約期間の満了やサポート打ち切りをむかえ、新規システムの導入検討が始まっていることもあり得ます。もう使うことはないだろうと思っていた名刺の束が、ナーチャリングによって宝の山に変わる可能性は十分に考えられます。

企業のIT部門に所属する皆さんの仕事では、いかがでしょうか。例えばシステムを刷新する際、前工程として経営陣にプレゼンテーションをして予算の承認を得るプロセスがあります。開発に当たっては、パートナーになるシステムインテグレータにシステム化対象業務を分かってもらう必要があります。システム稼働前にはエンドユーザーに新システムの操作方法の教育もします。

見込み客の発掘とは違いますが、じわりと啓蒙して少しずつ理解を深めてもらうという考え方が役立つシーンは、意外と身近にあるかもしれません。

ビーコミ 加藤 恭子
IT雑誌記者を経験した後、ERPやCRMのベンダーの広報・マーケティングの担当者を経て、現在は企業のマーケティングや広報活動をコンサルティング・実務支援するビーコミを起業して事業を展開中。立教大学兼任講師も務める
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