[新製品・サービス]

「企業向けITの将来を楽観視している」~米IBMのロメッティCEOが強調

2012年9月24日(月)

日本IBMが、米IBMの幹部らによる事業戦略説明会と、75周年記念フォーラム「THINK Forum Japan」を開催した。そのエッセンスをここに紹介する。

IT分野の新製品で圧倒的な関心を呼ぶのは、iPhoneのような消費者向けのデバイス。クラウドサービスやソーシャルメディア、それに大規模データ活用(ビッグデータ)でも、消費者向けのサービスが技術や市場をリードしている。それに比べて影が薄いのが企業向け、つまりB2BのITだ。

実際には大型のシステム統合案件や既存システムの保守・更新需要などが手伝って、「人手が足りない」といった話が出るほど企業向けサービスや製品の需要は底堅い。しかし世界的な経済情勢の不透明さ、円高やそれに伴う企業の海外事業強化=移転の動き、少子高齢化といった基本的要因が変化したわけではない。B2B向けのIT製品やサービスは低価格化が続いており、B2Bを主力とするIT企業の多くには不透明感や、閉塞感があるのは事実だろう。

ではB2BのITで最大手である米IBMは、その将来をどう見ているのか。それを知る格好の機会が9月中旬にあった。日本IBMが、米IBMの幹部らによる事業戦略説明会と、75周年記念フォーラム「THINK Forum Japan」を開催したのだ。後者の中で演壇に立った米IBMのバージニア・ロメッティCEOは「(企業や社会における)ITの将来を楽観視している。ITを活用するチャンスが社会やビジネスで広がっているからだ」と言い切った(写真1)。

写真1 米IBMのバージニア・ロメッティCEO

日本IBMのマーティン・イエッター社長も含め事業戦略説明会に登壇したほかのIBM幹部も、同様なスタンスである。そこには、どんなセオリーや根拠があるのか?THINK Forumにおけるロメッティ氏の発言、それに記者説明会で披露された米IBMの方針や戦略を拾ってみる。

バージニア・ロメッティCEOの講演

学習するシステムが企業や社会を変える
リーダーの多くはその事実を認識し始めた

「日本IBM75周年を記念できることは喜ばしいことだ。しかし今日は過去の業績を振り返るよりも、将来に焦点を当てたい。私は3つの理由からITの将来を楽観視している」(ロメッティCEO)。3つの理由とは何か?第一は、新しい情報技術基盤が生まれ、社会がそれを活用できることだという。「今日、コンピューティングは新しい時代(Era)に入った。システム自体が学習できる、”コグニティブコンピューティング”がそれだ。これは非常に大きなインパクトをもたらす」。

どういう意味か?同氏は、これまでのコンピューティングには2つの時代があったという。1つは19世紀後半から1950年代までの、自動計算機(タビュレータ)の時代。具体的にいえば、機械式の集計機や手回し計算機である。もう1つが今日に至るプログラム可能なコンピュータの時代。「当初の大型汎用機から、現在ではパソコンやスマートフォンになった。しかし極論すればサイズが小さくなり、使い勝手が向上しただけ。本質は変わっていない」。

これに異論はあるだろうが、それはともかく同氏はビッグデータを引き合いに出して第3の時代、つまりコグニティブコンピューティング=学習するシステムの時代について、こう続けた。「2011年の1年間では1.8ゼッタバイト(10の18乗)が生み出された。あるいは現在ではわずか2日間で、2003年以前に生み出されたのと同じデータ量が生まれる。こうしたビッグデータを適切に解析し、活用するために必要なのが学習するシステムだ。こうしたシステムは複雑なトピックを投げると自然言語で返答するし、人から学ぶこともできる。その先駆けがIBMの『Watson』だ。すでに医療分野におけるオンコロジ(がん治療)に適用されつつあり、ドクターと同じ仕事、つまり大量の情報を得てリスクを可視化し、答えを出すことができる。不透明さ、曖昧さを処理している」。

第2が、コグニティブコンピューティングをはじめとして、テクノロジーが社会やビジネスの最前線に出てくること。「さきほどオンコロジの話をした。これは医療の分野で標準医療から個別化医療に変わりつつあるということだ。コマースなど企業の活動領域も同じ。例えば、これまでは顧客を年齢層や性別などセグメントで分類してきた。今はワンツーワンにできる。米国のある銀行は、何百というデータを集めて個々人への提案を変え、クロスセルを600%も向上することに成功した」。同時にエネルギーや都市交通などにも言及し、ITとその活用がビジネスや社会に欠かせない存在になったことを強調した。

第3は、企業のCEO、行政機関のトップなど多くのリーダーが、自分たちの役割を変えようとしていること。「ソーシャルやモビリティが広がる中、多くのCEOは顧客との関与の仕方を変える必要性を理解している。行政機関のトップも同じだ。例えばブラジルのリオデジャネイロ市長は、テクノロジーを活用して30以上のデータを集め、大スクリーンに投影するようにした。洪水など自然災害が多いので、状況の見える化することの大切さに気づいたからだ。気象予報ができれば避難させることもできる。自ら先頭に立ってITを活用する、こうしたリーダーが増えている」。

以上が楽観論の根拠だが、ロメッティCEOは楽観論だけを話したわけではない。フォーラムに参加した300人の聴衆(日本IBMによると大半はCEOクラス)に向け、こう語った。「新しい時代に求められるのは直感や経験ではなく、事実に基づいて意思決定するスキルだ。これは大学では教えてくれないし、だれかを雇ったり、ツールを導入すれば済む話でもない。意思決定が変わることを理解し、あるいはソーシャルビジネスを超えて、チームワークを実践する必要がある。新しい時代は同時に新しい変化の波でもあり、CEOなどのリーダーが自らの役割を変えていくことが大事だ」。

事業戦略説明会

米IBMの経験を日本など各国の企業に提供
5人の幹部が勢揃いして異口同音に語る

一方、記者向けの事業戦略説明会に登壇したのは、日本IBMのイエッター社長、米IBMのマイク・ローディン氏(Mike Rhodin=ソフトウェア・ソリューションズ担当上級副社長)、リンダ・サンフォード氏(Linda Sanford=企業変革担当の上級副社長)、エリック・クレメンティ氏(Erich Clementi=グローバル技術サービス担当の上級副社長)、そしてブルーノ・ディレオ氏(Bruno Di Leo=販売・流通担当の上級副社長)の5人だった。好調な業績が背景にあるだけに、各氏の歯切れは良かった。

まずイエッター社長は日本での事業戦略を説明。「日本IBM自身、変革に挑み、日本で投資、特に人材への投資を継続する。日本は1国でドイツとフランス、中国を会わせた規模に相当する、世界第2位の市場だからだ。IBMは(日本の多くの企業が急ぐ)事業のグローバル展開や企業変革に貢献できる。地方都市にも大きなチャンスがある。(首都圏を除く)日本の地方の市場規模は、実はフランスと同規模。そこで中部、関西、西日本、東北の事業拠点を拡充した。我々のサービスにはスケーラビリティがあるので、それが可能だ。日本での事業拡大は全世界のIBMのそれに大きく影響する」。

話はそれるが、同氏はTHINK Forumにも登壇。ドイツIBMの社長を務めた経験が日本で生きることを強調した。「日本とドイツは国土の面積がほぼ同じで世界の0.3%程度。両国とも自動車、機械など製造業が強く、名目GDPは0.4%と0.3%と近い。国民がネットに費やす時間が日本はドイツの2倍といった違いもあるが、高齢化や人口減少、天然資源の少なさといった課題に直面し、新興市場は競争相手であり、チャンスでもある点で共通する。つまりどのように生産性をさらに高めるのか、グローバル化はどうするのか、リーダーシップのモデルでは何が求められるのかといったことだ」。

イエッター社長はともすれば初の外国人社長として「日本IBMのリストラクチャリングの推進者」と見られがちであり、実際にその役割を担う面もあるはず。だが、それ以上に日本IBMを変革し、その上で自らの、あるいはIBM全体の経験を生かして日本企業の信頼を得たいという意欲が伝わってくるプレゼンだった。

事業戦略説明会に話を戻そう。ソフトウェア担当のローディン氏は2015年に向け、ソフトウェア製品群の一層の強化をアピールした。「2011年、ソフトウェア事業はIBMの利益の43%を占めた。続くのが41%のサービス、16%のハードや金融サービスだ。そのソフトの利益を2015年には全社の50%にする」。事業の柱がソフトウェアだというわけだ。そのソフトウェアで重視するのが、ビッグデータとアナリティクス(分析、活用)、コマース(EC)、それにミドルウェアの領域、特にアナリティクスだという。

「アナリティクスは(アプリケーションの)すべての領域に織り込まれる。キーワードは”情報を洞察に変える”。これを強化するために、クラリティやアルゴリズミックスなどを買収してきた。Watsonのような学習するマシンも、医療や金融分野に浸透させる」。2012年4月に鳴り物入りで発表したExpert Integrated Synstem、具体的にはPureSystemsやPureApplicationsSystemsにも言及。これらとミドルウェア、ソリューションを三位一体として、組織の変革を支援することを強調した(図1)。

図1

IBMにおける企業変革の実践ノウハウを顧客に提供していく戦略を述べたのは、リンダ・サンフォード氏。「IBMは101年の歴史を通じ、多国籍、世界統合、スマーターの3つを基本に変革を継続してきた。プロセスの標準化はもとより、アナリティックスを自らに適用し、変革につなげてきた。例えば2005年から2011年にかけてシェアードサービス化により50億ドルのコストを削減している。コスト削減だけではない。プロセス変革と統合オペレーションによって28億ドルの生産性向上を達成した」。

「サプライチェーンの変革、コンタクトセンターの最適化と統合など、ほかにも様々なことを実践してきた。結果、顧客からIBMの取り組みを知りたいという声が増えている。共通のビジョン、企業全体を通じた実践的なガバナンスモデル、成果の厳格な測定とトラッキング、顧客と従業員にフォーカスすること、チェンジマネジメントの実践などがその答えだが、そのノウハウを提供していく(図2)」。自ら企業変革を実践し、成果を上げていることは、IBMの大きな強みかも知れない。

図2

グローバルテクノロジーサービス担当のエリック・クレメンチ氏は、特にクラウドを強調した。「IBMはコモディティから離れ、より高い付加価値の領域にシフトする。例えばアナリティクスがその一つだが、これをクラウドで提供していく。クラウドはサービスデリバリする機能であり、我々がやってきたこと。これは我々にはチャンスである。競合他社は、ハードとソフトのデリバリの際に、一度集めないといけないが、IBMはすでに必要なものをすべて持っているからだ。すでに世界6カ所のデータセンターを通じ、4000以上の顧客にサービスを提供している(図3)」。

図3

IBMブルーノ・レオ氏はスマーターシティに言及。「スマーターシティ関連のプロジェクトは2011年だけで2400、そのうち1900は先進国の都市が対象だ。例えばリオデジャネイロでは可視化を、2000万都市のシンガポールでは交通環境を改善するため、料金管理システムや交通カードを手がけてきた(図4)。日本でも、北九州でエナジーマネジメント、仙台では市民とのエンゲージメント、札幌では温室効果ガスの削減を行っている」。

図4

以上の発言やコメントは個別に見れば、日本IBMあるいは米IBMの流儀が日本の地方都市や地方の企業に受け入れられるか、米IBMが多くの経験やノウハウを持っていたとしても日本に適用可能かなど疑問が少なくない。しかし少なくとも閉塞感とは無縁だ。クラウドへの流れが加速する一方で、優れたソフトウェアやその活用ノウハウを必要とする新規の需要が膨大に存在することを読み切っているように思える。

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