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クラウド化で選択肢が広がる地図情報サービスとは?

2012年9月26日(水)折川 忠弘(IT Leaders編集部)

位置情報を有効活用する手段として関心が高まりつつある地図情報サービス。コンシューマ向けに無料で利用できる地図サービスが普及したのをきっかけに、企業向けに特化したサービスも広がり始めた。具体的にどんなサービスがあるのか。最新動向をまとめた。

データの中には「場所」に関する情報を含むものが少なくない。郵便番号や住所はもちろんのこと、最近はカメラ(あるいはスマートフォン)のGPS機能を使って写真データに撮影した位置情報を自動的に埋め込む機能も一般的になっている。スマートデバイスのGPS機能を使って現在地情報を取得すれば、外出中の営業員や配送中の車両の位置を特定することも可能だ。

しかし位置情報は一般的に、住所や経緯度情報だけ捉えても具体的にどこなのかを把握しにくく利活用が難しい。そこで、地図と組み合わせることで位置情報を視覚的に分かりやすくしたのが地図情報システムである。

地図情報システムは位置に関する情報を地図上に表示し、地点間の相関関係やエリアの特性などを分析/可視化する。位置情報だけでは読み取れなかった新たな気づきを与え、業務の効率化や迅速な意思決定を支援する。これまでは導入費が高額で、地図を更新するコストもかかることから企業への導入がなかなか進まなかった。しかし近年、Google マップに代表されるコンシューマ向けのクラウドサービスが登場したのをきっかけに、企業向けサービスも出揃いつつある。クラウドならば利用者数に応じてサーバーのリソースを変更したり、地図を更新する手間が不要になるなどのメリットが見込める。

企業用途においては、これまでは新店舗の出店計画などを支援するエリアマーケティングや、車載端末と連動し、車両の現在地を特定する配車システムなどで用いるケースが多かった。しかしクラウド化により導入の敷居が下がったことで、最近は店舗や支店の案内図をWebサイト上に公開したり、現在地から目的地までのルートを地図上に表示したりするといった比較的簡易な使い方が増えている。

屋内向け地図を配信するサービスが登場

Micello Maps
図2 米マイセロの「Micello Maps」。都内7カ所の屋内地図を配信する。iOS版とAndroid版がある

屋内地図を活用する動きが徐々に出始めている。例えば商業施設内の地図をスマートデバイスに配信すれば、利用者は目的の場所を検索し、ルートも確認できる。商業施設を運営する側は、地図をデータ化することで店舗の閉店や新装、増設の度に地図を印刷し直す必要がなくなる。屋内地図を勝手に作成して配信することは著作権上の問題があるものの、駅や空港などの施設での利用が見込める。

すでに一部のベンダーは屋内地図サービスを展開中だ。米マイセロは、都内にある一部の商業施設の屋内地図をスマートデバイス向けアプリとして提供する(図2)。屋内地図を閲覧可能な施設をGoogle マップ上に配置し、タップすると屋内地図に切り替わる。

国際航業も東急電鉄と共同で、都内にある商業施設の屋内地図を活用した実証実験に取り組む。スマートデバイスを使って目的地までのルートを確認したり、店舗の詳細情報を表示したりできる。施設を訪れる利用者の移動履歴を蓄積し、店舗の滞在時間や行動パターンを分析して販促活動にも役立てる。

グーグルも施設内の地図を表示する「Google Indoor Maps」を提供する。屋外/屋内地図を連携したルート検索や、屋内にいる現場作業員の現在地を把握するなどの用途を想定する。

必要なデータを組み合わせ
独自の地図システム構築も

一般的な地図情報システムの仕組みを図1に示す。表示する地図は、道路や鉄道、商業施設名、人口分布、建物の形状などのさまざまな情報をレイヤーとして保持し、これらを重ねて1枚の地図として合成する。コンシューマ向けサービスの場合、あらかじめレイヤー構成を指定したり、選択可能なレイヤーを制限したりするものが多い。企業向けの中には、こうしたレイヤーの制約を取り外したもの、経年変化を調査するため、同じ情報レイヤーでも年別に複数のレイヤーを保持するものがある。

図1 地図情報サービスの仕組み
図1 地図情報サービスの仕組み

独自にデータを追加することも可能だ。航空写真や等高線入りの地図、国勢調査の統計データや企業が独自に保持する顧客データなどを必要に応じて追加できる。例えばCRMシステムに登録する顧客の住所情報から緯度や経度を自動算出して地図上に表示したり、CADデータを使って独自の建造物などをランドマークとして配置したりすることが可能だ。地図や独自の調査データを販売する業者があり、多くのシステムがこうしたデータを読み込めるようになっている。

こうして揃えたデータに対し、キーワード検索や経路検索用のエンジンを用意したり、統計データをエリア別に抽出してグラフ化するレポート機能を備えたりするサービスが多い。地図や検索エンジンを活用した独自システムを構築するため、開発キットを提供するベンダーもある。

なお、地図情報システムで用いる地図データの多くが、さまざまな地図ベンダーが提供するものを組み合わせている。例えばGoogle マップやヤフーの「Yahoo!ロコ」、マイクロソフトの「Bing Maps」は、国内地図ならば主にゼンリンの地図を利用する。国内で独自に地図を作成するベンダーは、ゼンリンや昭文社、インクリメント・ピーなど数社に限られる。

では具体的にどんなサービスがあるのか。ここではクラウド型の地図情報サービスをまとめた。さまざまな用途向けに最低限の地図とデータ、検索エンジンなどで構成するサービス(表1)と、必要な機能やデータをあらかじめ備え、特定用途向けに機能を絞ったサービス(表2)に分かれる。特徴的なサービスを中心に見ていこう。

表1 特定用途を想定せず多目的での利用に向いた地図情報サービス
表1 特定用途を想定せず多目的での利用に向いた地図情報サービス
表2 特定用途に特化した地図情報サービス
表2 特定用途に特化した地図情報サービス
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