[ザ・プロジェクト]

ソニー生命、タブレットによる新フロントシステム導入の軌跡

2013年5月22日(水)河原 潤(IT Leaders編集部)

顧客1人ひとりの人生プランに沿ったオーダーメイド型保険商品で知られるソニー生命。創業30周年にあたる2012年に「共創戦略プロジェクト」を展開した同社は、プロジェクトの中核となる営業フロントシステムを刷新。その軌跡をCIO、プロジェクトリーダー、ITマネジャーの3人に聞く。 聞き手は本誌副編集長・川上 潤司、編集委員・河原 潤 Photo:陶山 勉

嶋岡 正充 氏
嶋岡 正充 氏
ソニー生命保険 取締役 執行役員 専務 共創戦略部 商品部 担当 IT戦略本部 所管
1978年に共同石油に入社。1984年にソニー・プルデンシャル生命保険(現・ソニー生命保険)に入社し、情報システム部に配属。1991年に情報システム部統括部長。1998年に執行役員就任。2006年より現職。同社における情報化戦略の推進で中心的な役割を担う

 

長谷川 樹生 氏

 

長谷川 樹生 氏
ソニー生命保険 共創戦略部 統括部長
1987年にソニー生命保険に入社。事務企画、システム企画、営業企画等に携わり、1998年に損害保険会社の設立企画と立ち上げを実施。ソニーでの金融・保険事業企画などを経て、2008年に共創戦略部を組織化し共創プロジェクトのプロジェクトマネージャーを務める

 

壑谷 哲朗 氏

 

壑谷 哲朗 氏
ソニー生命保険 IT戦略本部 IS開発2部 担当課長
1995年にソニー生命保険に入社。新契約システム、顧客管理システム、営業支援システムのシステム構築等に携わる。1998年4月より損害保険事業開始のためのシステム導入および構築のリーダーを務める。2009年10月より共創プロジェクトのIT部門リーダーを務める

 

共創戦略プロジェクトは“他社との差異化”の集大成

─ プロジェクト名の「共創」には、どんな思いが込められているのですか?

嶋岡:我が社の歴史は、伝統的な生保大手をはじめとした同業他社との差異化の歴史でもあり、共創は言うなれば最新の差異化戦略です。開業当初は、営業担当者の数で市場を押さえる旧来のビジネスモデルに対抗して、保険にまつわる高度な知識・ノウハウをもった“保険のプロ”の育成に力を注ぎました。やがて他社も似たようなことを始めたので、次の差異化として、SFA(Sales Force Automation)の仕組みを構築して、お客様個々人にベストフィットする保険コンサルティングを売りにしました。

長谷川:単なる保険営業職にとどまらない、当社独自の「ライフプランナー」が、お客様の人生プランをお客様と一緒になって考え、創り、歩んでいく、という思いです。現場だけでなく本社の社員も、販売代理店と共にお客様にとっての価値を創り提供していく。そうしたさまざまなかたちの「共に創る」を表しています。

─ そこにITがどう関与しますか?

嶋岡:ITを駆使した差異化では当社は先駆的だと思います。しかし他社もキャッチアップしてくる。そこで、我々は次の差異化として、「ライフプランナーバリュー」というビジョンを掲げました。そこでは保険コンサルティングにさらに磨きをかけるとともに、従来、保険業界ではあまり重視されてこなかった契約後のアフターフォローにより力を注ぐことで、お客様に新しい価値を提供しようとしました。こうしたライフプランナーバリューをさらに発展させたのが共創戦略プロジェクトです。これまでの差異化の取り組みの集大成たるこの全社ビジョンをシステムで具現化するのが、我々に任された役割ということになります。

営業フロントシステムの刷新とタブレット端末5000台の導入

正確な筆記の再現─長谷川氏らが強くこだわった、タブレット端末での契約書への署名機能 顧客とのコミュニケーション・インタフェースとして、ライフプランナーが日々携行する端末に選ばれたソニー製タブレット「VAIO Duo 11」。PCモードとタブレットモードに切り替えて利用できる

─ 共創システムの基本構想はいつ頃に?

長谷川:我々3人が中心となって、2009年1月から約7カ月をかけて基本構想を練りました。そもそも共創のビジョンとは一体何か。それをどうやって物理的なシステムに落とし込んでいくかを徹底的に考え抜くところから始まっています。まさに産みの苦しみといった時期でした。

壑谷:議論を重ねた結果、お客様とライフプランナーのコミュニケーションを管理する営業フロントシステムを刷新し、お客様ごとの契約情報やライフイベントを管理するバックオフィスのシステムとつなげるという、システム開発の全体像が定まりました。フロントシステムの刷新では、契約手続きのペーパーレス化やよりわかりやすい商品説明・提案などを目的に、お客様とのコミュニケーション・インタフェースとして約5000台のタブレット端末を導入しているのが大きな特徴となります。

─ Webベースの先端的な営業フロントシステムと、旧来のメインフレームで運用される基幹システムとを連携させるのはかなり難しかったのでは?

嶋岡:いえ、そこは特に難しくはなかったです。なぜなら、当社ではシステムの導入当初から、時代のニーズに合わせてプレゼンテーション層が変わっても基幹層が影響を受けないよう明確に分離して設計しているからです。それよりも、構想段階では、タブレットがまだ世に出てもいない時期で、どんな端末を採用すればよいのかや、モバイルネットワークは保険契約手続きのような処理にたえられるのかといったことの見極めがなかなかできずに悩みましたね。

─ 最終的にはどんな判断に至ったのですか?

嶋岡:悩んだあげく、端末がスタンドアロンの状態でもライフプランナーがきちんと業務を遂行できるよう、ローカルシステム主体で行く方向で落ち着きました。当初は、タブレットから常時オンラインでWebシステムに接続するモデルを思い描いていましたが、お客様の目の前で操作するという、現場のフィジビリティを最重視したのです。

●Next:大規模プロジェクトに経営陣をしっかり巻き込むには

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