[技術解説]

米Googleが購入した「量子コンピュータ」とは?

2013年5月30日(木)田口 潤(IT Leaders編集部)

2013年5月中旬、米ニューヨークタイムズの電子版が「米Googleが量子コンピュータを購入」と報じた。記事によると、GoogleはNASAの関連機関と共同で「The Quantum Artificial Intelligence Lab」と呼ぶ研究機関を設置。カナダのD-Wave Systemsが開発した量子コンピュータを導入して、画像や音声認識、大規模複雑系の挙動管理など、いわゆる機械学習領域の研究を進めるという。

 2013年5月中旬、米ニューヨークタイムズの電子版が「米Googleが量子コンピュータを購入」と報じた。記事によると、GoogleはNASAの関連機関と共同で「The Quantum Artificial Intelligence Lab」と呼ぶ研究機関を設置。カナダのD-Wave Systemsが開発した量子コンピュータを導入して、画像や音声認識、大規模複雑系の挙動管理など、いわゆる機械学習領域の研究を進めるという。

カナダのD-Wave Systemsが開発した量子コンピュータ

 Googleは「例えば環境に関してより効果的な施策を作るには、気候変動に関わるよりよいモデルが必要だ。既存のコンピュータは、この種の問題には向かない」といい、すでに量子コンピュータ用の機械学習アルゴリズムを開発済みという。Googleのような企業がNASAなどと組んで機械学習を研究するのは、ある意味で当然。むしろ量子コンピュータの商用製品が販売されていることの方が驚きかも知れない。D-Wave Systemsとは、どんな企業なのか?

 同社のWebサイトによると、設立は1999年。5年間をR&Dに費やし、製品開発期間を経て2007年に16量子ビットのコンピュータ「Orion system」を試作。パターンマッチングや数独のパズルを解くデモを実施した。2011年5月に初の商用機「D-Wave One computer system」を発表。128量子ビットのプロセサを搭載する。WikiPediaによると、価格は1000万ドルだった。ちなみにD-Wave Oneは米Lockheed Martinが導入済みだ。

 2012年初めには、512量子ビットのプロセサを持つ「D-Wave Two computer system」をリリース(画面)。2013年5月にGoogleとNASAの研究グループが導入を決めた。Googleは、2009年から画像に含まれる物体認識などを想定して、D-Wave Systemsと共同で利用に関わる研究を実施してきている。来年もしくは再来年には、2048量子ビットにアップグレードする計画だ。

 D-Wave設立者の一人であり、CEOを務めるVern Brownell氏は、ハードウェア・レベルでサーバーを仮想化することで知られる米Egeneraの創業者兼元CEO。その前は米投資銀行のGoldman Sachsで1300人の部下を率いるCTOを務めていた。Egeneraを成功させた実績があるだけに、米Googleの採用をきっかけにD-Waveが飛躍する可能性もありそうだ。同社にはGoldman Sachsのほか米AmazonのJeff Bezos氏も出資している。

 量子コンピュータは、既存のコンピュータが0か1の値しか持てないのに対し、1ビットにつき0と1の値を任意の割合で保持できる。原理的に、n量子ビットで2のn乗の状態を同時(並列)に計算できるので、現在のスーパーコンピュータ (並列度は2の20乗以下)に比べて、遥かに高速に計算を実行できるのがメリットだ。ニューヨークタイムズの記事によると、D-Waveの幹部は「多くの場合、1万1000倍、極めて複雑な問題だと5万倍高速」という。日本ではNECやNTT、海外ではIBMやAT&Tなどが量子コンピュータの研究開発を行っているが、商用レベルには至っていない。

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