[技術解説]

ビジネスを支えるデータセンターに向けた日本発OSS「Wakame-vdc」の挑戦

DevOpsが迫るIT部門の意識改革

2013年8月7日(水)山崎 泰宏

ビジネスの変化に追随できるITの実現においては、より柔軟なプラットフォーム環境が求められる。その代表がクラウドだ。クラウド環境を実現するためのソフトウェア群の開発競争にも拍車がかかる。OpenStackやCloudStackなどだ。同分野に、日本発のOSSである「Wakame-vdc」も挑戦している。

Wakameプロジェクトにおいて、データセンターの内部で増え続けるサーバーなどのITリソースを、効率よく管理するために開発されているソフトが「Wakame-vdc」である。管理するITリソースには、ネットワークやストレージなども含む。

Wakame-vdcは、これらITリソースの管理を容易にするだけでなく、一部を切り出すことでマルチテナント化を実現する。LGPL v3に則ったOSS(オープンソースソフトウェア)として、最初のバージョンは2010年4月にリリースされた。現在は、2013年度下期に向けて最新版の開発が進んでいる。

DCの可搬性がDevOpsを支える

Wakame-vdcのvdcは、「VDC(Virtual Data Center:仮想データセンター)」の略である。私達は日常的に仮想化技術の恩恵を受けている。例えば仮想マシンだ。ハードウェアに依存しない仮想マシンは、複製や移動により好きなハードウェア上で動作させることができる。マシンの高いポータビリティ(可搬性)がもたらされた。

VDCでは、仮想マシンで起こったことが、データセンターで起こる。仮想化されたデータセンターは、複製したり移動させたりして、好きなデータセンター上で動作させることが可能になる。データセンター非依存になったVDCには、高いポータビリティが与えられるだろう。

データセンターに依存しなければ、例えば開発用途に準備されたノートPC1台でもVDCを作れる。ノートPC上にできあがったVDCを、大規模なハードウェア構成を持つ本番環境のデータセンターに複製すれば、それがまさにデプロイになる。

バックアップも簡単だ。VDCを外付けHDDやUSBメモリーといった可搬型ストレージに収められるかも知れない。データセンターをポケットに入れて運べるわけだ。

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図A Wakame-vdcのシステム・アーキテクチャ

こうしたポータビリティこそが、VDCの最も重要なポイントだ。異なるハードウェア環境間で自在に複製・移動できるVDCは、システムの開発・運用にも、大きな変化をもたらすだろう。

昨今、活発に議論されているDevOpsでは、構築・運用するアプリケーションのライフサイクルの高速化が期待されている。そこでのVDCは、高頻度なリリースや、本番環境での高精度なバグフィックス、柔軟なシステムアーキテクチャの管理を可能にする。VDCは、DevOpsのアジリティ(俊敏性)を下支えする強力なコンセプトなのである。

DevOpsが求めるWeb-API

DevOpsとクラウドを結び付ける、もう一つの重要なキーワードが、Web-API(アプリケーション・プログラミング/インタフェース)である。データセンターがWeb-APIを持てば、データセンターの操作をプログラムに組み込めるからだ。そうなれば、わざわざ人間が対応しなくても、プログラムが判断し、データセンターの内部リソースをコントロールし、システム運用の一部を代替できるようになる。

GUI(グラフィカルユーザーインタフェース)は人間のためのインタフェースだ。GUIでは、当然ながら目を覚ました人間がコンピュータの前に座って操作しなければならない。画面も対話的で、1つの処理を実行するまでに複数の画面上で手続きを踏むのが一般的だ。これらの作業のうち、定型的・機械的なものは、コンピュータ自らに実行させたほうが良いケースもある。データセンターに対する操作を、バッチ処理として記述できれば、人間が寝ている間に業務の一部を遂行できてしまうはずだ。

 GUIをコンピュータが操作する必要はない。人間にとっては非常に分かりやすい対話型の手続きも、コンピュータにとっては不要である。対話型であればあるほど、プログラムをいたずらに長くしてしまう。コンピュータの場合は、XMLやJSONなど、プログラムで読み取りやすいフォーマットを通じてパラメータ化された指令を取り交わせばよい。これらは広く普及した技術だけで構成されているため、熟練プログラマーでなくとも容易に利用できる。

Web-APIはコンピュータのためのインタフェースである。Web-APIを駆使すれば、デプロイ作業やテストはもとより、ダウンしたサーバー自動復旧や、高負荷時のサーバー自動追加(オートスケール)など、運用技術者が苦労している緊急対応までもプログラムに置き換えることが可能になる。こうしたWeb-APIの重要性を世に広く知らしめたのが、Amazon Web Services(AWS)である。昨今の各種OSSツールも、このWeb-APIを利用することで、機能拡張し相互に連携しているのである。

従来のDCにWeb-APIはなかった

Wakame-vdcは元々、AWS上で動作する全く別のオートスケール製品「Wakame」として開発していた。AWSに備わるWeb-APIを駆使して組み立てた製品である。 このWakameを2009年4月にリリースしたところ、多方面から多くの問い合わせが舞い込んだ。データセンター事業者も少なくなく、ほとんどは、各社のデータセンターでオートスケール機能を利用したいという相談である。

だが当時、Web-APIを提供するデータセンター事業者は皆無だった。AWS同様、データセンター事業者がWeb APIを準備できれば、原理的にはWakameのオートスケールは動作する。しかし、一般的なホスティングサービスへは直ちに適用できないのだ。

折しも、Wakameの開発陣は、オートスケールに伴う多数の課題に直面していた。それらが、他社製品やPaaS(Platform as a Service)のレイヤーで解決されるものではないと考えていた。その解決には、データセンターを徹底的に仮想化する必要があった。データセンター事業者のニーズと、データセンター未来像が重なり、そこから生まれたのがVDCのコンセプトである。

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