[金谷敏尊の「ITアナリストの仕事術」]

仕事術No.10「俯瞰する力」を高める

2013年10月15日(火)金谷 敏尊(アイ・ティ・アール 取締役/プリンシパルアナリスト)

技術者や営業といった専門化した職種では、自らの専門領域に閉じて思考しがちである。IT業界でも、例えばネットワークには強いが、データベースのことは全然知らない、といったエンジニアは少なくない。しかし、そうした専門家であっても、専門以外のことを知り、幅広い見地から俯瞰的に説明できる能力を身につけることは有益である。現代は、技術市場や顧客ニーズの多様化や細分化が進んでいる。弁護士と会計士といった複数のプロ資格を持つ人(ダブルスタンダード)や、広く横断的な知識やスキルを持つジェネラリストの市場価値は高まってきている。

ジェネラリストの必要性は、例えば総合病院のオペレーションに垣間見ることができる。私達が大手総合病院へ行くと受付で「何科にかかりたいですか」などと尋ねられる。長時間待たされた挙句、別の科を紹介されるのもしばしばだ。しかし、患者としては、あらゆる診察ができる1人の医師にできれば診てもらいたい。その点、開業医やかかりつけの医師は、地元の患者の様々な病気に対処する必要から、ジェネラリストの側面を持っているといえる。専門外でもベストを尽くしてくれることが多くてありがたい。

世の中にジェネラリストという肩書や職業はおそらく存在しないが、重要なポジションではそれに近しい能力が必要だ。物事を俯瞰して見る力である。例えば、チームリーダーは個々のメンバーの立場や能力を横断的に把握してプロジェクトを進めなければならないし、管理職は様々な投資効果やリスクを俯瞰して意思決定することが求められる。上司に頼まれていた案件の報告で「十分に検討したのか」、「他にやり方があるんじゃないのか」などと言われたことはないだろうか。この時、往々にして、あなたが見過ごした何かが上司に見えている。俯瞰するからそれができる。

俯瞰する能力

俯瞰的に物事を見ることは、コンサルティング・スキルとしても大事だ。筆者が駆け出しのアナリストの頃、あるコンサルティング・ファームのパートナーがこんな話をしてくれた。「いま私達は、食事をするこのテーブルに並べられた食器の範囲でしかアイデアしか検討していない。でも、問題を解決しようと思えば、向こう側の端の食器が載っていない領域までも検討しなければならない。たとえそれがどんなに常識外れのアイデアであったとしても」と。課題解決の検討の場では、常識や思い込みから、スコープが限られていたり条件が設定されていたりする。しかし、コンサルタントは最良のシナリオを描くために、枠を取り払い、クライアント企業の誰よりも幅広く可能性を模索することが求められる。外部の人間には、なおさら、そうした客観的な発想が期待されている。

幅広い視野を持つと、時には、前提を覆すような大胆な施策がベストシナリオになることがある。ある企業では、大型のパッケージ・ソフトウェアの導入を前提に業務システムのスリム化を計画していた。うまくすれば高額な汎用機を止めて、大幅なコストダウンができる。プロジェクトを発足し、評価したパッケージは30種類にも及んだ。しかし、パッケージの業務適合性が低く、最良の選択をしてもコスト効果が出ないことが分かり、計画は暗礁に乗り上げた。結局、同社はどうしたかというと、システムをそのまま使い続けることにした。ただし、低額なサーバー上でも稼働できるようにソフトを移植することでコストダウンを実現したのである。プロジェクト・テーマは「パッケージ導入」であったが、その前提をも疑った結果、当初想定しなかった方法で目標は達成された。

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