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創薬研究にもクラウド、東大が富士通のPCクラスタサービスを2014年から利用

2013年12月26日(木)志度 昌宏(IT Leaders編集部)

東京大学の先端科学技術研究センターは2014年1月1日から、ITを使った創薬研究にクラウドサービスの利用を開始する。海外では米AWS(Amazon Web Services)を使った創薬研究も成果を上げつつあり、国際的な競争力の確保を目指す。クラウドには、富士通が解析シミュレーション向けに提供するPCクラウド型の「FUJITSU Technical Computing Solution TCクラウド(TCクラウド)」を採用した。スパコンのクラウドサービスとしては、国内最大規模になるという。

 クラウドサービスを利用するのは、東京大学の先端科学技術研究センター(東大先端研)が取り組む「IT創薬」と呼ばれる研究開発分野。より高速なスパコン環境を使って、薬としての効果が期待できる化合物の発見や、合成化合物の効果評価をコンピュータでシミュレーションすることで、がんや生活習慣病などを治療するための新薬の開発効率を高めることを目指す。

 一般に、新たな医薬品が製品になるまでには、(1)標的探索、(2)化合物設計、(3)合成評価、(4)前臨床試験、(5)臨床試験といった過程を踏む。これら一連の過程を創薬と呼ぶ。

 コンピュータを使ったIT創薬では、これらの過程のうち、(2)化合物設計と(3)合成評価にシミュレーションを適用する。薬としての効果が高く副作用も少ない化合物に絞り込むことで、動物実験である(4)前臨床試験と、治療現場で最終確認を実施する(5)臨床試験での成功率の向上を狙う。

 東大先端研の児玉 龍彦 教授は、「コンピュータの性能向上により医薬品の候補化合物の生体内での効果を詳しくシミュレーションできるようになってきた。東大先端研の創薬研究の蓄積と日本最大規模のクラウドサービスの活用で、画期的な新薬の開発に取り組んでいきたい」という。

 クラウドを活用する化合物設計は、(1)標的探索で特定した、病気の原因であるタンパク質に作用する化合物の候補を探し出し設計する過程である。IT創薬では、論理的に合成可能な化合物の構造を計算し、その薬効をシミュレーションすることで、物理的な実験方法では到達できなかった達領での新物質の発見を期待する。

 候補物質は一般に、製薬会社が持つ既存の化合物ライブラリから探し出している。企業を超えて、米国化学会(ACS:American Chemical Society)が提供する世界最大規模の化学物質ライブラリには2000万件規模の登録があるものの、論理的に合成可能な物質の数は、分子量を550以下に制限しても10の38乗個にも上るという。

 合成評価では、シミュレーションにより候補物質を、より効果が高いもの・新規性が高いものに絞り込む。1科学者が物理的な実験で合成できる化合物の数は年間50個程度との報告もある。ここでも、コンピュータ上で合成し効果を予測することで、より多数の化合物評価を可能にする。

GPUを組み合わせシミュレーション能力高める

 東京・先端科学技術研究センターは、こうしたIT創薬用途に、理論ピーク性能が38.8テラFLOPS(1秒当たりの浮動小数点数演算回数)のスパコンを2010年8月から利用してきた。富士通のブレードサーバー「PRIMERGY BX 922 S2」を使った300ノードのPCクラスタ型システムだ。加えて、理化学研究所の世界最速クラスのスパコン「京」も利用している。

 今回、オンプレミス環境の強化ではなくクラウドを採用したのは、より強力な計算能力を得ることに加え、将来の製薬会社などとの共同研究においては、どこからでも利用できるクラウド環境が必要と判断したため。大学構内では使用できる電力容量に制限があり、電力消費量が大きいスパコン環境を拡張しづらいという理由もある。

 2014年1月1日から利用するクラウドは、富士通がエンジニアリング用途に提供してきた「FUJITSU Technical Computing Solution TCクラウド(TCクラウド)」を東大先端研の創薬研究用途にカスタマイズしたものだ。

 東大先端研は、このクラウド上で、OSS(Open Source Software)の分子動力学シミュレーションソフトの「GROMACS」と可視化ソフトの「VMD」を動作させる。GROMACSが、GPU(Graphic Processing Unit:画像処理専用プロセサ)に対応していることから、GPUによるアクセラレーションも採用した。

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