[インタビュー]

「非構造データの取り込みが2020年の成否を決める」カナダOpenTextのCEO

2014年3月7日(金)志度 昌宏(DIGITAL X編集長)

ECM(Enterprise Contents Management:統合文書管理)ツール大手の加OpenTextが、「EIM(Enterprise Information Management:統合情報管理)」を掲げ、製品のカバー範囲を広げている。2013年も、8月にBPM(Business Process Management)ツールベンダーの蘭Cordysを、11月にはEDI(Electronic Data Interchange:電子データ交換)大手の米GXSをそれぞれ買収した。EIMが目指すところや、これら買収の意味などについて、加本社のCEO(Chief ExecutiveExecutive Officer:最高経営責任者)兼社長のマーク・バレンシア氏に聞いた。(聞き手は志度 昌宏=ITLeades編集部)

加OpenTextのマーク・バレンシア
CEO(Chief Executive Officer:最高経営責任者)兼社長

――ECM(Enterprise Contents Management:統合文書管理)からEIM(Enterprise Information Management:統合情報管理)へとメッセージを変えている。その違いは何か。

 EIMは、2020年の企業情報システムのあり方に焦点を当てた考え方である。2020年までには、すべての情報がデジタル化されると同時に、利用者もインターネットやスマートフォンが当たり前のデジタル世代に変わっていく。このデジタル化によって、組織のあり方も変化しなければならない。その時の組織を支える基盤になるのがEIMだ。

 過去20年間、企業のCIO(Chief information Officer:最高情報責任者)は、ERP(Enterprise Resource Planning:統合基幹業務)システムに多大な投資をしてきた。だが、ERPがもたらす価値は枯渇している。限られた価値を絞り出すためにインメモリーデータベースといった高速処理技術を投入しているのが実状だろう。

既存システムは企業データの20%しか扱っていない

 なぜ価値が枯渇するかと言えば、ERPが扱ってきたのは、構造化されたトランザクションデータであり、それは、我々の周囲にあるデータの20%にしか過ぎないからだ。残り80%の非構造化データを企業情報システムに取り込み、活用する必要がある。それを可能にするのがEIMになる。

 非構造化データの1つが文書だ。ECMは、この文書管理からスタートした概念だが、従来は記録中心のシステムにとどまっていた。EIMではこれを、文書などを利用者がどう利用しているのかにまで着目し、利用者同士の結び付き(Engagement)を強められる仕組みを提供する。

――システムを「Systems of Record」と「Systems of Engagement」に分け、後者の重要性が増しているとする考え方があるが、これと同義か。

 そうだ。CIOは今、IT関連投資の1ドル1ドルのすべてが、顧客とのエンゲージメントの確立につながることを求められている。そこでは、非構造データを含めて情報を管理するEIMが必要になる。

 当社自身も、顧客中心型の企業に変わるために、EIMの導入を進めている。例えば、Webサイトの「www.opentext.com」では、顧客が参加し共に対話ができる仕組みへと6カ月を掛けずに変更した。

――Systems of Engagementにおいては、多くのベンダーがCloudを前提に、Social、Mobile、BigDataが重要だと主張している。

 基本的には同じ考えだ。当社も、Cloudとオンプレミスの併用を前提に、Socialはすでに製品化を終えている。Mobile分野は今後、重要性を増していくだろう。

 ただBigDataについては懐疑的だ。個々の企業が急に都合の良いデータを集めて活用できるとは考えにくい。なのでEIMでは、冒頭で説明したように、これまでの企業活動においてERPなどのシステムに投入できなかった残り80%のデータの活用に焦点を当てる。

 具体的には、サプライチェーンを考えた際に、単に製品名や単価、数量といった構造化データだけをやり取りするのではなく、その元になった伝票や関連文書などを同時にやり取りすれば、構造化を図る際に切り捨てた情報、すなわち、なぜその取引が必要なのかまでを伝える。人々が本来やり取りしてきた情報のすべてを伝えて初めて、真のインタラクションが実現できる。

――EIMを推進する中で、蘭Cordysや米GXSを買収した意味は。

 蘭CordysのBPMツールは非常に大きな意味を持っている。EIMを実現するためには、利用者間のエンゲージメントを可能にする新たなアプリケーションが必要だ。だが、従来のECMが持つワークフロー・マネジメントの機能だけでは実現し切れない部分がある。そこをBPMツールが持つ、ルールエンジンによるプロセスの統合や、アプリケーションの統合、およびアプリケーションの開発・実行環境といった機能で補うのが狙いである。

 Cordysの機能を含め、当社製品の統合に向けては、今後5年間に50億ドル(5000億円強)を投資する。第1ステップとして、2014年に投入予定の「Red Oxygen(開発コード名)」では、350の統合ポイントが存在し、各機能を外部から利用するためのAPI(Application Programming Interface)も提供する。パートナー企業などによるプラグインの開発・提供が可能になる。

 一方、米GXSだが、EIMの時代だといっても、Systems of Recordの価値がなくなってしまうわけではない。逆に、EDIを使った取引市場は、全世界で60万社が利用している。彼らがソーシャルな世界につながれば、新たな付加価値を生み出せるはずだ。

――EIMが想定するという2020年の社会は予測が難しい。

 その通りだが、冒頭に指摘したデジタル化は2020年には完全に完了していることは間違いないし、そのインパクトは西暦2000年を迎えた時以上になる。それが分かっているのだから、2020年に向けた準備は、今から始めるのは当然ではないだろうか。

EIMの推進役はCIOが担うべき

 ただ、この準備は、仮想化といったインフラ技術とは無関係だ。例えば、5年前、CIOが導入すべき3種の神器は、Blackberryのスマート端末と、DellのラップトップPC、Sunのサーバー+Linuxだとされていた。だが今、そんなことをいうCIOはいない。こうした道具立てではなく、非構造データとは何か、それによって組織や顧客との関係をどう変えていくのか。その準備を始めるべきというわけである。

 推進役は、やはりCIOだ。私自身、CEOとして会社をマネジメントしているが、毎日毎日、全社のすべてを見ていられるわけではない。限られた時間の中で優先順位を付けざるを得ないのが実状だ。

 これに対し、CIOはシステムを通じて全社の動きを見られるし、全役員とも対話しているはずである。だからこそ、EIMの推進役になれる。加えて今後は、CDO(Chief Data Officer:最高データ責任者)として、データの所有者という役割も担うことになるだろう。

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