[“聴き手の心を動かす”プレゼンテーション]

プレゼンテーション21のポイント「なぜから始める」「聴き手が主役」「メインメッセージを頂点に」:第2回

[企画・制作編1]

2014年4月17日(木)永井 一美(オレンジコミュニケーション・サポート)

今回から、プレゼンテーション21のポイントの具体論に入る。まずは「企画・制作編」として、最初の3つのポイントを解説しよう。企画はアナログの世界であり、知的な創造である。

 前回は「何をプレゼンテーションと呼ぶか」について共有した。今回から、本題である「プレゼンテーション 21のポイント」を順次解説していく

 古代ギリシャの哲学者アリストテレスは、「弁論術」の中で「言論を通して我々の手で得られる説得には3つの種類がある」として、ethos(エトスもしくはエートス)、pathos(パトス)、logos(ロゴス)を挙げている。(※注1)

  • エトス…語り手の人柄(信頼性、親和性)
  • パトス…聴き手の心が或る状態に置かれることによるもの(感情)
  • ロゴス…言論そのもの(論理性、納得性)

 実質、3つは相互に作用する。説得の要素としてこの3つが必要である。

図1 アリストテレスの教え

 内容に論理性があっても、信頼が置けない語り手の話を人が聞くことはない。「プレゼンテーション」においては、“誰が言うか” “どう言うか” “何を言うか”だ。ただし、「説得」を「共感」に読み替えたい。「説得」は“上から目線”だが、「共感」は一時的ではなく人と人との関係性であり、永続性を持っている。

 回を重ねながらお伝えする21のポイントは、全てこの3つに影響を及ぼすことを念頭に置いてほしい。

 さて、本題に入る前に話しておきたいことがある。私が関わった「プレゼンテーション研修」において、ある会社の方から「どう表現するかより、うちは中身作りがまずダメだから…」との反応があった。これは、「プレゼンテーション」への誤解である。

 「プレゼンテーション」と聞けば、常に達人として名が挙がるスティーズ・ジョブズ氏の、エンターテイメント性豊かなものを思い浮かべる人も多いだろう。そうしたイメージが強いのか、「どう魅せるか」こそが「プレゼンテーション」との思い込みがあるようで、先の発言の背景にも感じられる。だが、それは違う。「プレゼンテーション」は、演劇で言えば、物語の構想から脚本・演出・リハーサル・本番までの一連全てである。

 「うちは中身作りがまず…」の「中身」は「何を言うか」を指しているのだろう。これは「企画・制作」のフェーズに相当するが、「中身」がいかに良くとも「伝え方」が稚拙では聴き手の心は動かない。逆に、どんな実力派の俳優でも、脚本の出来が悪ければ、観衆の心を動かすのには限界がある。一連のすべてが整ってこそ、プレゼンテーションは結実するのである。

 では…「企画・制作」「予行」「本番」として進めていく。

企画・制作編 10のポイント

 「企画」からである。PowerPointなどのプレゼンテーション・ツールを最初から立ち上げてはいけない。スライド作りからではない。「企画」はアナログの世界であり、知的な創造である。


【Point01】「なぜから始める」

 大切な最初のポイント。

 「wdydwyd?」というプロジェクト(http://www.wdydwyd.com)がある。「wdydwyd」とは、「why do you do what you do?」の略。このシンプルな質問に対して、世界中の人がフリップに答えを書きその画像を投稿するアートプロジェクトだ。

 このサイトはプレゼンテーションと関係はないが、「21のポイント」の始まりにこの質問を引用したい。

「あなたが何かをしているとして、なぜそれをしているのか?」

  • 「あなたは、なぜ仕事をしているのか?」
  • 「ななたは、なぜその部署で働いているのか?」
  • 「あなたは、なぜ製品を作っているのか?」
  • 「あなたは、なぜシステムを作っているのか?」
  • 「あなたは、なぜサービスを売っているのか?」

 答えてほしい。その答えが明確ならば明確なほど、あなたの言葉は聴き手の心を動かすことができる。まず、自分あるいは自分たちの存在意義を、改めて見つめ直すことだ。これは、自分の心に横たわる「情熱」を改めて思い起こすことと考えてほしい。

 そして、次に「WIIFY(What's in it for you?)」(※注2)

 訴えようとしていることが、

  • 「聴き手にとって、どんな役に立つのか?」
  • 「聴き手に、何が起こるのか?」
  • 「聴き手に、どんなメリットや幸せをもたらすのか?」

 それを考えること。これも改めてである。

 そもそも、聴き手にとって興味があるのは自分自身。興味がないことを聴き手は聴かない。

 「なぜから始める」は、自分・自分たちの存在意義を見つめ直し、それは聴き手にとって何なのか。それを考えること。これは使命感であり覚悟だ。覚悟は「情熱」「熱意」になる。それを必ず聴き手は感じ取る。

 聴き手は、意見やアイデアを押し付けられることに閉口する。「心が動く」のは押し付けや説得ではなく、自らの意思や判断であることが重要なのだ。

 「なぜから始める」は原点。原点は忘れがちだ。プレゼンテーションのために改めて見つめ直したい。


【Point02】「聴き手が主役」

 これも忘れがちだ。特に、会話では「どうやって説得してやろうか」と臨む。対決のように考えてしまう。しかし、聴き手は「心を持つ人間」である。「どうやって」は聴き手に合わせたものでなければいけない。そのためには、聴き手を知らなければいけない。

 聴き手を知らなければ、語り手の語りは空回りする。好意的なのか敵対的なのか。それだけでも対応は違ってくる。私も過去の会話を振り返れば、感情や激情にまかせて言葉を発していたことが多く“あの時のあの言い方は…”と今さらながら反省する。

 そして、製品もサービスもシステムも全て“モノ”と考えて良いが、「モノの価値はモノ自体にはない」

 そう。モノの価値はモノにあるのではなく、モノを受け入れる側がモノに持つ意味、それが価値である。逆に言えば、「人に意味を与えないモノは価値がない」ということだ。製品ならば、意味を持つ人の数、それが市場と言える。そして…意味は相手によって異なる。

 「情報システム」に持つ意味は、経営者と現場では全く異なるだろう。経営者からすればコスト削減や売上向上かもしれない。一方、現場にとっては“使いやすさ”だけかもしれない。聴き手が誰なのか。聴き手に合わせたプレゼンテーションを作らなければいけない。

プレゼンはプレゼント

 “プレゼンはプレゼント”。もともと語源が一緒だ。聴き手に合わせた聴き手のためのプレゼントが必要なのである。

 小学生に経済の話をするなら、小学生が分かる言葉で話をするだろう。携帯電話(ガラケー)しか使ったことのないお婆さんに、スマートフォンを勧めるにしてもしかりだ。特にIT業界は変遷が激しく、3文字のアルファベット用語も乱立している。聴き手のリテラシーの差も大きい。相手の言葉、「相手語」で話さなければコミュニケーションは成り立たない。

 昨年、“相手の言葉”で印象的な出来事があった。2020年オリンピック招致での最終プレゼンだ。英語、そして全員ではないがフランス語でのプレゼンは委員に好印象を与えただろう。母国語で話してくれることに悪い印象を持つことはない。

 聴き手が誰なのか。それを把握しなければ良いプレゼントは届けられない。

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