[市場動向]

成長続けるERPベンダーは3年先が見えている!?─企業情報システムの“あるべき姿”

【徹底調査】M&Aに見るERPの将来像 Part1

2014年4月21日(月)折川 忠弘(IT Leaders編集部)

クラウドやモバイル、ビッグデータといったテクノロジーが企業情報システムに大きな影響を与える中、かつて大きな注目を集めた「ERP(Enterprise Resource Planning)」への関心は薄れているようだ。だが、独SAPや米オラクルは今も成長を続けている。ERPベンダーは常に、企業情報システムの“あるべき姿”を描いているのではないだろうか。

 企業の経営資源である「人・モノ・金」を一元管理し、最適に配置・活用することで利益率の最大化を図る――。こんなコンセプトをもって登場したERP(Enterprise Resource Planning)パッケージ。1990年代には日本市場でも、そのコンセプトを学び、従来の個別開発システムからの移行が大きく取り沙汰された。

 会計機能を中心に導入されたERPパッケージは今や、企業の中核に位置し、安定稼働を前提とした“成熟したシステム”のイメージが定着しつつある。今以上の機能拡張や追加投資は不要と考える企業は少なくない。ERPベンダーを代表する独SAP自身が、「SAP ERP 6.0」以降のメジャー・バージョンアップを止めると2007年に発表。「EhP(エンハンスメントパッケージ)」による機能拡張に留めている。

 並行して、ERPパッケージへの関心は薄れ、同時に「人・モノ・金」の最大活用についても、ERPとは異なる場所で議論されることが増えているようだ。「ポストERP」の登場を望む声も少なからず聞こえてくる。

伸び続けるERPベンダーの株価

 であれば、ERPベンダーは最早、さらなる成長が見込めず、市場における評価が下がっていくはずだ。実際はどうなのだろう。

 そこでIT Leaders編集部では、主要ERPベンダーの株価の推移を、過去5年間に渡り調べてみた。その結果の一部が、図1~図3である。このグラフからも明らかなように、ERPベンダーに対する市場の評価は、下がるどころかむしろ高まっている。

図1:米オラクルと米ネットスイートの株価推移
図1:米オラクルと米ネットスイートの株価推移

図2:独SAPの株価推移
図2:独SAPの株価推移

図3:スウェーデンのIFSの株価推移
図3:スウェーデンのIFSの株価推移

 例えば、米オラクルの株価は2009年1月2日の18.41ドルが、2013年10月1日には33.5ドルと、1.82倍に上昇している。米ネットスイートにいたっては、同期間に8.4ドルから108.95ドルと12.97倍にまで高まっている。SAPの株価も、同時期に25.05ユーロから54.09ユーロと、2.16倍。スウェーデンのIFSも、41.2スウェーデン・クローナ(SEK)から146.5SEKと、3.56倍の伸びを見せる。

 株価の上昇には、売上高や利益率、予算の達成率など様々な要因が絡み合っている。だが、少なくともERPベンダー各社が打ち出す成長戦略が評価され続けている結果だろう。

 IT業界には、ハードウェアからソフトウェア、各種サービスまで、様々なベンダーが存在する。だが、業種・業務アプリケーションを提供するERPベンダーは、利用企業の現場にもっとも近い存在であるはずだ。そのERPベンダーがグローバルに評価されている事実は看過できないのではないだろうか。

 こういうと「独SAPや米オラクルなどは、アプリケーションよりもミドルウェアやハードウェアの話しかしていないではないか」との反論が聞こえてきそうだ。だが、彼らが単純にシーズありきで、ハードウェア/ミドルウェアの強化を図っているわけではない。これらインフラを含め、企業情報システムの“あるべき姿”を模索していると、とらえるほうが適切だ。

評価の源泉は“次”のテクノロジー

 市場が、ERPベンダーの将来性を評価する際の基準の1つが、どんなテクノロジー戦略を描いているかである。歴史が示すようにアプリケーションとテクノロジーは、それぞれが影響し合って進展してきた。R&D(研究開発)やM&A(企業の統合・買収)により獲得しているテクノロジーをみれば、そのERPベンダーが描く将来像が垣間見えてくる。

 そうした考えから、米調査会社のガートナーが作成しているのが「マーケット・クロック」だ(図4)。テクノロジーが登場してから衰退するまでの経過を、時計の文字盤を模したグラフで示す。ERP版マーケット・クロックをみれば、ERPシステムにかかわるテクノロジーの動きを一望できる。

図4:ERPのテクノロジーの推移を示す米ガートナーの「マーケット・クロック」
図4:ERPのテクノロジーの推移を示す米ガートナーの「マーケット・クロック」

 ガートナー ジャパンでERP分野を担当する、リサーチ部門 エンタープライズ・アプリケーション リサーチ ディレクターの本好宏次氏は、「利用企業は、ERPベンダーが先行投資しているテクノロジーなどについて、自社システムにどう利用できるのかという視点で常にウォッチしておく必要がある」と指摘する。

 図4で注目すべきは「アドバンテージ」領域に位置する3つのテクノロジーだ。アプリケーションの開発環境やデータベースをクラウド上に配備する「PaaS(Platform as a Service)ベースERP」、インメモリー技術を使ってデータ処理の高速化を図る「インメモリ・ベースERP」、モデリング言語を使った定義内容を元にプログラムを自動生成する「モデル駆動型ERPアーキテクチャ」である。

 現時点では、登場間もないこれらのテクノロジーだが、いずれもが2年未満、または5年未満には、先行企業が採用を始める「チョイス」の領域に移動する。3年後には、SOA(Service Oriented Architecture:サービス指向アーキテクチャ)を前提に、PaaSやインメモリーといった技術を使ったERPが当然の姿になるというわけだ。

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