[シリコンバレー最前線]

ボーダーレス化が進むマーケット、Searsがビッグデータをコンサルし、Amazonが映画を作る

2014年10月15日(水)山谷 正己(米Just Skill 社長)

ITをテコにした産業革命が進行し、今や“常識破り”の時代を迎えている。百貨店大手の米Searsがビッグデータのコンサルティングサービスを開始したかと思えば、米Amazonは映画の制作にまで参入。米Googleはロボットから医療にまで手を広げる。業界の枠を超え、いつどこから競争相手が現れるか予断できなくなった。

 特定の業界で技術力と資本力の両面から足固めをした企業が、他業界に遠慮なく参入するケースが近年、増えている。

 その一例が、米百貨店業界の老舗企業Searsだ。同社はさきごろ、自社のビッグデータ部門をMetaScale(メタスケール)として分社・独立させ、ビッグデータのコンサルティングとトレーニングのサービスを提供し始めた(図1)。何と、デパートがビッグデータとアナリティクスのサービスを提供するのである。

図1:Searsの店舗外観と、同社が立ち上げたビッグデータ関連サービス会社MetaScaleのホームページ図1:Searsの店舗外観と、同社が立ち上げたビッグデータ関連サービス会社MetaScaleのホームページ
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自らのビッグデータ活用プロジェクトをベースにサービス化

 Searsは、リチャード・シアーズ氏が1893年に始めた時計のメールオーダー(通信販売)ビジネスに端を発している。その後、各種の機器のメールオーダー会社として成長し、全米規模のデパートへと発展した。今では全米に2200店舗を持ち、従業員数は24万7000人、2013年度の売上高は361億ドルだった。

 そのSearsがなぜビッグデータのサービスなのか。同社はこれまで、日常の業務処理にIBM製メインフレーム6台を運用してきた。うちの1台が分析専用だった。ビッグデータが騒がれるのを見て、2010年にHadoopを使った実験システムを構築。これを2年間、たっぷりと試してみた結果、「これはいける」と判断した。

 具体的には、分析専用に使ってきた1台のメインフレームを、2012年からx86サーバー834台に置き換え、データベースはHadoopに移行。ある分析処理では、COBOLプログラムをHadoop Pigに書き換えたところ、それまで6時間かかっていた処理が10分で終了するようになった。

 当然、 OracleやDB2、Informixといったデータベースにまつわるソフトウェアも不要になり、そのライセンス料を支払わなくなったことで、年間のメインフレームに関わるIT経費を200万ドルも節減できたとしている。

 こうした技術力に基づくビッグデータに関するITサービスを、本業であるデパートでの商品物流や、販売、消費者対応(カスタマケア)といった経験とノウハウと共に提供するのだから、まさに鬼に金棒。ITサービスを本業にする企業にとっては及びもつかない脅威である。

保険商品のオンライン販売を始めたWal-Mart

 またスーパーストアーであり、かつ世界最大の企業でもある米Wal-Mart Storesは2014年10月、医療保険のオンラインサイト「DirectHealth.com」と提携し、オンラインに加えて店頭でも医療保険を販売すると発表した。全米に4000ある全店舗のうちの2700店舗で医療保険を対面販売する。

 同社は2014年4月にも、自動車保険のオンラインサイト「Autoinsurance.com」と提携し自動車保険のオンライン販売を始めている。実は、DirectHealth.comもAutoinsurance.comも同じ保険サービス会社、米Tranzutary Insurance Solutionsのオンラインサービスだ。話はトントン拍子で進んだのだろう。

写真1:スーパーストアー内にある銀行窓口。写真はChase Bankの例写真1:スーパーストアー内にある銀行窓口。写真はChase Bankの例
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 米国のスーパーストアーの店舗には昔から薬局がある(関連記事『医療サービスもオンデマンドで!ビデオ会議で診断し処方箋は薬局へ送信』)。近年では、銀行の窓口も開設されている(写真1)。

 日本のコンビニエンスストアが、銀行ATMを設置したり、各種料金の支払いや配送品の受け渡しなど種々のサービスを提供したりしているように、米国のスーパーストアーは、まさにワンストップ・ショッピング(One Stop Shopping)の場になっている。モノを売ることとITの双方に長けている企業は、何でも売れるというわけだ。

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