[デジタルビジネス時代の到来]

今こそICTでビジネスに機動力を!
「消耗戦」と「機動戦」の両面を意識せよ

【特別対談】 野中郁次郎氏 × 富士通キーパーソン

2015年3月20日(金)

予兆や変化を素早く察知し、情報や知識を駆使して先手を打つ――企業には今、こんな“機動力”が求められる。経営環境や顧客ニーズ、競合他社の戦略、調達する資材や商品の価格、生産設備の状況など、企業を取り巻くあらゆることが時々刻々と変化するからだ。では機動力は、どうすれば得られるのか? 知識創造経営理論の創始者にして世界的権威であり、「知識機動力経営」の提唱者でもある野中郁次郎 一橋大学名誉教授と、富士通の香川進吾 執行役員、中村記章 デジタルビジネスプラットフォーム事業本部 副本部長が語り合った。重要な論点は3つある。意思決定プロセスを「PDCA」から「OODA」に転換させる、人材・組織力を強化する、バックボーンとしての情報システムを整備する、である。(進行役はIT Leaders編集主幹、田口 潤)。

田口 円安・株高などにより景気に明るさが見えてきました。とはいえ消費者ニーズも競争環境も目まぐるしく変化し、ICTの進化も急ピッチです。企業はこのような変化に自信を持って対応できているのか、あるいは競争力は回復しているのか、野中先生はどのようにご覧になっていますか。

野中 日本企業の競争力の低下は、さまざまに説明されてきました。国内経済の停滞や消費の低迷、グローバル化への対応不足、商品・サービスの国際競争力の不十分さ、などです。円安基調になったからこうした問題が解決されて、景気は良くなるという単純な考えもありますが、それは違います。これらは確かに大きな問題ですが、いずれも企業の外部要因であって問題の半分でしかありません。

 もう半分は何かというと内部要因、MBA教育に代表される欧米型の分析的アプローチが経営手法の主流になったことで企業が機動力を失ってしまったことです。別の表現をすれば、分析過多(over-analysis)、計画過多(over-planning)、コンプライアンス過多(over-compliance)という3つの過多が、企業から活力を奪ってしまったのです。日々移り変わる経営環境に柔軟に対応するためには機動力が不可欠です。しかし、多くの企業では逆に硬直化が進んでいます。

分析過多で機動力を失った日本企業

田口 なるほど。でも3つの過多は、日本企業だけの話ではないと思えます。

野中 郁次郎氏(一橋大学 名誉教授、早稲田大学 特命教授)

野中 その通りです。例えば、米国のシリコンバレーでは大企業が多くのベンチャー企業を買収していますが、大半は当初の目論みから外れています。

 理由の1つにKPI(重要業績評価指標)の違いがあります。大企業は分析に大きな比重を置いており、それができないとマネジメントできない面さえあります。「Ready, Aim, Fire(構え、狙え、撃て)」という軍事用語と同じく、これが大企業にとっての合理的なアプローチです。

 ところがベンチャー企業のアプローチは違う。あえて言えば「Ready, Fire and Aim」、つまり“撃ってから狙う”というか、“狙う前に撃て”というアクション・オリエンテッドです。現実を直視して、ともかく新しい行動を起こすわけです。先ほどReady, Aim, Fireと言いましたが、それならまだいいほうです。大企業は時に「Ready, Aim, Aim, Aim…」なんですよ。一体、いつになったらFireするのか、という話です(笑)。

田口 香川さん、中村さんは今の話、どう思われますか?

富士通 執行役員の香川 進吾氏(インテグレーションサービス部門 ネットワークサービス事業本部長 兼 ネットワークサービス事業本部 映像ネットワークサービス事業部長)

香川 耳が痛いです(笑)。野中先生が指摘されたように、富士通でも新しい尖ったアイデアが上長に上げられていくにつれ、自身が理解でき、確実に当てられるところまで分析したり、平準化したりする傾向が散見されました。「Aim, Aim, Aim…」の繰り返しで、尖っていたものが普通のアイデアになってしまっていた。しかし今の時代、物事の本質を捉え、何が成長のコアとなるのか、マネジャーはそれを見極める目を持つことが不可欠です。

 その上で新しいアイデアを実行する決断をして、実践していかなければなりません。そこで得られたものこそが財産や知見になる。したがって、Ready、Fire、Aimのすべてを並行していくことが必要です。

中村 富士通について言えば、社内の状況が変わりつつあります。予知不可能な、未曽有の外部環境の変化を現場のリーダー達が肌で感じているからです。過去の経験則に照らし合わせつつも、これから何をしていくべきなのかを現場の視点で捉えて上長に提言する動きが現れ始めています。上長も部下の提言を正面から受け止めて、大局的な視点から物事を判断する方向に意図せずとも向かっている、向かわざるを得ないと感じています。

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