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「デジタルビジネスの奔流に立ち向かう」コニカミノルタが挑む"業態転換"

2015年7月13日(月)田口 潤(IT Leaders編集部)

製造業からソリューション企業への転換を急ぐコニカミノルタ。その山名昌衛社長が、高度情報通信人材育成支援センターがこのほど、「デジタルビジネスイノベーション研究所(仮称)」の2016春設立に向けて開催したシンポジウムの基調講演に登壇した。コニカミノルタは何に取り組んでいるのか。同シンポジウムでの山名氏の講演から紹介する。

図1:基調講演に登壇したコニカミノルタの山名昌衛社長図1:基調講演に登壇したコニカミノルタの山名昌衛社長
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 コニカミノルタは今、複合機や印刷機などのメーカーから顧客の様々な問題を解決する高付加価値型のソリューション企業に変身中である。『トランスフォームで創造的な破壊を』と題して同社の山名昌衛社長が話した取り組みには、「デジタルビジネス」に対する問題意識が凝縮されている(図1)。

業態転換に向け、異業種企業を相次ぎ買収

 「先月末、米ニューヨークで(配車サービス)Uberを利用する機会がありました。事前に見積もりが来るし、車種を選べる。乗車後はレビューもできます。(イエローキャブが走り回る)ニューヨークであんな経験は初めて」−−。今やデジタルビジネスの寵児であるUberの話題で山名社長は口火を切った。

 コニカミノルタは企業向けに複写機や複合機、印刷会社向けに印刷機をそれぞれ販売している。その活用を顧客任せにせず、サービスとして受託する体制に転換している。その一例が、英国のCharterhouseの2012年11月の買収。「この会社はBMWやコカ・コーラ、ユニリーバなどの企業に入り込み、マーケティング部門に常駐。印刷物やデジタルコンテンツの制作をワンストップで引き受けています」(山名社長)。2014年6月には同じ事業を行う豪Ergoを買収し、欧州だけでなく、アジア地域に拡大した。

 それまでのメーカーという業態からすると、これだけでも思い切った事業展開だが、それで満足したわけではない。「発注者から見てコスト削減やワンストップサービスを提供できるようになりました。しかし付加価値が高いとは言えません。そこで次に(2014年12月にCharterhouseを介して)英Indiciaを買収しました」。

 Indiciaは、インターネットによる顧客の嗜好や購買に関するデータ収集・分析と、印刷物とデジタルメディアを使ったマーケティング施策の立案・実施を専門に行う企業(2006年設立)。「ビッグデータを解析して個別の企業、顧客にカスタマイズしたマーケティングプランを作れるようになりました」(山名社長)。プランの立案から印刷物やデジタルコンテンツの作成、一部の効果測定までを、一気通貫でサポートする体制を整えた。

 この事業をコニカミノルタは、「MMS(マーケティングマネジメント・サービス)」と呼ぶ(図2)。

図2:買収でマーケティングマネジメント・サービスを実現図2:買収でマーケティングマネジメント・サービスを実現
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 山名社長は、「単に製造業がソフトやサービスを絡めているだけではありません。それでは先がない。世の中の変化を見て、洞察して付加価値をつけていくのです。そこが当社にとっての創造的破壊の原点です。2014年度の本事業の売上高は500億円ですが、1500億円にしたいと本気で考えています」と決意を述べる。

ITサービス企業を40社以上買収

 大手企業向けのMMSだけではない。コニカミノルタは全世界で500万の中堅・中小企業の顧客を持つ。そうした企業向けの複写機や複合機の販売はトナーや用紙などの消耗品で安定した収入のあるビジネスだったが、「もう通用しません」(山名社長)。顧客はコスト削減を進めるし、機種更改の際には値引きを求められるからだ。

 そこで「顧客に密着し、その課題を解決するサービスを提供するために、ITサービス企業を2011年から合計46社ほど買収してきました」(同)。ドキュメント管理プロセスの刷新やクラウド活用を提案・実装できるようにするのが狙いだ。

 例えば、小規模は法律事務所の場合、訪問先で特定の文書が必要になるケースがある。そうした企業に対し、複合機の販売とは直結しないもの、ドキュメント管理プロセスの刷新といったソリューションを提案する。中堅・中小企業との関係を強化できれば、複合機の機種更新の際に無意味な値引き競争に巻き込まれずに済む利点もあるという。

 注力しているヘルスケアも同様。X線フィルムを源流とする同事業だが、フィルム販売だけでは先が見えている。「今はデジタル画像をハンドリングしながら、セキュリティをしっかり維持して、いかに高度な診断に結びつけるか。そのソリューションを作ることに取り組んでいます」(山名社長)。続けて「今の医療は医者、病院に向いており、患者にとってのサービスになっていません。ヘルスケアをディスラプションし、患者目線に変えていきます」とも語る。

「言うは易し、行うは難し」を乗り越える策

 それにしてもコニカミノルタが、このような事業転身を急ぐ背景には何があるのか。山名社長はこう話す。

 「当社はご存じの通り、デジタル化でフィルムもカメラもなくなるという危機感から、コニカとミノルタが2003年に統合してできた会社です。3年後の2006年には売上高が2700億円あったカメラ事業から撤退しました。当時いたトヨタ出身の役員は『トヨタが車を止めるようなもの』といいましたが、本当にそんな決断でした。今振り返ると、デジタルカメラ市場はスマートフォンのあおりを受けて半分になるのにわずか4年。良かったか悪かったかはともかく、こういう変化があるのがデジタル時代です」

 こうしたデジタル化の波が、複合機や印刷機のビジネスに影響を与えることは間違いない。つまりハードウェアのコモディティ化が進む中で「顧客の変革のために課題解決をやり切り、パートナーシップを深くすることが持続的成長の鍵になります」(山名社長)というわけだ。そうした読みがあっての事業転換だが、言うまでもなくそれは「言うは易し、行うは難し」である。

 何しろ全世界で4万1000人(日本は1万3000人)の社員がおり、海外売上比率が80%以上だけに、本社が指示を出したところで簡単には動かない。実際、「最初の頃は『なんでメーカーの当社がマーケティングなのか』とか、『そんな企業を買収して何をするんだ』とか言われました。当時は社長ではなかったこともあって、社内で11回も説明したことを覚えています」。

 これを乗り越えるためにコニカミノルタは様々な手を打ってきた。1つは経営ビジョンの明確化である。「オープン&オネスト」「顧客中心」「イノベーティブ」「パッショネイト」「インクルーシブコラボレート」「アカウンタブル」の6項目を“6Value”として掲げた。

 「本社の業務を調べて分析したことがあります。すると52%が月次の報告資料作成や予算案の作成など、顧客のため以外の業務でした。これをやめるように指示し、同時にビジョンを策定しました」。

 2013年4月には、それまでの持ち株会社による分社経営から、6社あった事業会社を統合して1つの事業会社に移行してもいる。「分社は事業毎の競争を促進する良い面もありますが、今はそういう時代ではない。持てる技術から新たな商材を生み出し、顧客の課題を解決することが求められます。新たな何かを生み出すには、全体を1つにした方がいい。事業会社に戻すのは珍しいと言われましたが、踏み切りました」と山名社長は当時を振り返る。

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