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タケダが挑む、IT組織のグローバルシフトとデジタル化―武田薬品工業グアンCIO

IT組織/システム統合で発揮したCIOリーダーシップ

2015年11月18日(水)河原 潤(IT Leaders編集部)

有力企業がひしめく世界の製薬業界で確かなポジションを築くべく、海外企業のM&Aと経営のグローバル統合を推し進める武田薬品工業。その同社でCIOを務めるオリビエ・グアン(Olivier Gouin)氏が、IT組織/システムのグローバル統合や次に目指すデジタライゼーションについての戦略と実践を余すことなく語った。ガートナーシンポジウム/ITxpo Tokyo 2015の特別講演から紹介する。

タケダのグローバル経営ミッション

 欧州・米国大手を中心にM&A(合併・買収)が相次ぎ、ドラスティックな再編が進む製薬業界。グローバル経営へのシフトが業種や規模を問わず共通課題となって久しいが、この業界においてはすでに前提であり、医薬品の熾烈な研究開発競争や特許期間・知的財産権問題、国・地域ごとの法規制問題などの諸課題への対応と同時にグローバル化が求められている。

 創業1781年(天明元年)、世界70カ国以上に拠点を置き、グループ約3万1200人の従業員を擁する武田薬品工業(以下、タケダ)は、ご存じ日本最大手の製薬メーカーである。世界的にも最もホットな5つの疾患領域(消化器、腫瘍、中枢神経系、神経器官系、心血管疾患・メタボリック)にフォーカスするタケダだが、欧州や米国のメガファーマがひしめく世界市場においては現状、チャレンジャーの位置にいる。

 そんな同社が今後、世界トップクラスのグローバル製薬メーカーに成長していくにあたってカギを握るのが、グローバルレベルでのIT戦略である。同社のIT部門はここ数年間で、以前拠点ごとに独立運営されてきたIT組織を統合。グループ全体でのITガバナンスを確立したうえで戦略的なIT施策を展開しようとしている。

写真1:武田薬品工業でグループCIOを務めるオリビエ・グアン(Olivier Gouin)氏

 ネスレのグループCIOという前職での経験・実績が買われて、オリビエ・グアン氏(写真1)がタケダのCIOに就任したのは2014年1月のことである。同社は1970~80年代に始まったインターナショナリゼーション(国際化:主として拠点の海外進出と販路拡大)を経て、2000年代より本格化した人・モノ・カネのリソースを統合するグローバルシフトを近年加速させてきた。なかでも、2008年のオンコロジー(Oncology:腫瘍学)研究で最先端を行くバイオ医薬品企業の米ミレニアム・ファーマシューティカルズ、2011年9月のスイスの製薬会社ナイコメッドといった大型買収の敢行で、世界市場の中での存在感を増してきている。

 先に触れたように、タケダでは長らく日本、米国、欧州などの各拠点は独立運営型で経営し、財務報告だけをグローバルで行ってきたが、グローバルシフト推進の結果、現在では財務、製造、調達、ITといった部門ごとにグローバル統合を推進する体制を整えている。現経営陣は、グアン氏と同じ2014年に就任した代表取締役社長CEOのクリストフ・ウェバー(Christophe Weber)氏を筆頭に、グローバル企業での経験豊富なメンバーで固められ、“新生タケダ”としてさらなる成長を目指す。

画面1:武田薬品工業のコーポレートサイト

「革新的な薬剤の創出なしに成長は望めない」

 本題に入る前に、タケダグループのグローバル経営状況をざっと概観しておく(図1)。全世界の売上げ中、日本は43%を占めて全地域で最大だが、グアン氏によればかつては90%だったとのことで、数字上、グローバリゼーションは順調に推移していると言える。ちなみに現在は、米国、欧州、新興市場を含むその他地域の売上げはいずれも22%前後で並び、地理的にきれいに分散しているかたちだ。

図1:タケダグループの2014年会計年度グローバル地域別売上額(出典:武田薬品工業Webサイト)
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 研究開発や製造拠点のグローバル化はどうかというと、研究開発に関しては、日本を中心にアジアに大きな比重を置き、次いで米国が主要拠点となっている。意外にも欧州の比重は少ないようだ。また、製造拠点については日本とドイツが2大拠点で、東欧にも多くの製造拠点がある。

 日本市場がまさにそうだが、近年はジェネリック医薬品が台頭し、タケダのような先発薬メーカーにとって医薬開発特許期間の問題は深刻だ。「たいへん厳しい状況ではあるが、かつ非常に専門性の高い薬剤を強みとする当社としては、引き続き新薬の研究開発パイプライン(研究開始から承認・発売に至るまでの開発品)に投資を行い、革新的な薬剤を創出し続けていく。それができなければ、グローバル製薬会社としての今後の成長はない」とグアン氏は断言する。

“ビジネスと寄り添うIT部門”を目指したグローバルIT組織

 では、本題に移ろう。「優れた医薬品の創出を通じて人々の健康と医療の未来に貢献する」――タケダの企業ミッション遂行を支えるIT部門は、どのような戦略の下で組織され、運営されているのか。

 「1つのグローバルなIT部門を組織し、経営と一体化したITをグループ全社・全部門に提供する」(グアン氏)――タケダのIT組織改革は2010年、4段階のステップに沿って始まった。

 最初のステップは、グループ全体のIT部門の統合だ。同社は4つの主要拠点(日本、米シカゴ、米ボストン、欧州および新興市場)でバラバラに運営されていたIT部門を、1つのグローバルな組織へと統合・再編した。その際、IT/IS組織を地域カットからファンクション(機能)カット重視型に変更。加えて、アジア地域、アメリカ地域、欧州・ロシア・中東地域の各IT部門内にビジネスパートナーと呼ぶ新チームを配置。これによって「ビジネスと寄り添うIT部門」(グアン氏)を目指したという。

 ファンクションカットを導入した新しいグローバルIT組織では、ビジネスソリューションサービスという、3つの担当チームからなるグローバル組織も新設された。「研究開発・品質・HR(人材資源)システム」担当チーム、「CM(コマーシャル)・販売・財務・調達システム」担当チーム、「製造・SC(サプライチェーン)システム」担当チームである。

 「例えば、製造・SCシステム担当チームは拠点を日本に置き、全世界のそれらのシステムの責任を持つ。これがファンクションカットで動くグローバル部門で、それぞれのチームをファンクションリーダーが管理する」(グアン氏)

 また、生産管理やマスターデータ管理(MDM)、データウェアハウス(DWH)、文書管理といったタケダのコアコンピタンスを支えるシステムや、通信、財務、人事などのITサービスは管理ファンクション部門に属し、横断的な運営でグループ全体をサポートする。

 一方で、アジア地域、アメリカ地域、欧州・ロシア・中東地域の3地域には、地域CIO(Regional CIO)というリーダーを任命した。地域CIOは常にビジネスに近いところで指揮を執り、ビジネスパートナーと密に連携しながらビジネス上のプレッシャーやニーズを正しく理解して、地域ごとのIT施策や専門ビジネスユニットの統括にあたる。

 このほか、グループの情報セキュリティ、グローバルプログラムマネジメント、デジタライゼーション(詳細は後述)に専任であたる部門も置かれている。情報セキュリティに関してはCISO(最高情報セキュリティ責任者)がグループ全体の情報セキュリティ管理を見渡す。こうしてファンクションカットとグローバル横断型の、2つのタイプの部門の集合で、タケダのグローバルIT組織が形成されている。

 「IT/ISの業務は各事業部門ユーザーとの良好な関係性によって成立する」とグアン氏。各ファンクションリーダーが、各事業部門のビジネスリーダーと日常的に緊密な連携をとることで、“ビジネスと寄り添うIT部門”をかたちにする意図である。

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