[市場動向]

12の有力ベンチャーが最優秀賞を競う、ふくおかフィナンシャルグループがX-Techの本大会を実施

2015年12月29日(火)田口 潤(IT Leaders編集部)

デジタルビジネス、デジタルイノベーションといった言葉が喧伝される中、何らかのイノベーティブな取り組みが必須である。そうした発送から、コンテストやアイデアソン、ハッカソンといった取り組みが各地で開催されている。その1つに、地方銀行大手のふくおかフィナンシャルグループ(FFG)が九州財界を巻き込んで実施したベンチャーコンテスト「X-Tech Innovation 2015」がある。

 大手企業が自ら事業変革や新規事業創出に取り組むのは、現実には難度が高い。リスクを冒す動機を生むような人事・評価制度が存在しないし、既存事業とコンフリクトする恐れもある。多くの場合、仮に成果を上げられるにしても数年かかり、その間に経営方針が変わる可能性もある。よく言われるように「しない理由」はいくらでも挙げられるからだ。

 だからといって、手をこまぬいてはいられない。ではどうすればいいか?その解の1つがベンチャー支援や協業である。まったく異なる知見やアイデア、そして人材を持つベンチャーと組み、その力で企業の外部からイノベーションを引き起こすわけだ。各種のアイデアソンやハッカソンが開かれているのは、そのためだ。

 地方銀行大手のふくおかフィナンシャルグループ(FFG)が九州財界を巻き込んで実施したベンチャーコンテスト「X-Tech Innovation 2015」も、その1つ(関連記事)。2015年12月22日に最終選考会&表彰式が開かれた(図1)。一体、どんなベンチャーが登場し、結果はどうだったのか?IT Leadersもメディアスポンサーとして参画したX-Techの結果を報告しよう。

図1:「X-Tech Innovation 2015」の表彰式の一場面図1:「X-Tech Innovation 2015」の表彰式の一場面
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最優秀賞は生体認証エンジンのLiquidが受賞

 X-Techが募集したのは、(1)様々な「シェア」で日常生活をより便利にするサービス(シェア部門)と、(2)日常の消費を簡単・便利にする新しい決済サービス(決済部門)という2種類のサービス。最終選考会では、各部門に7社と5社のベンチャー企業が登壇し、それぞれが7分間のプレゼンによって新規性や重要性をアピールした(表)。主催者であるFFGによると、応募総数は50社以上で1次・2次選考を経て12社に絞り込まれた。当然、特徴があるユニークな企業ばかりである。

表:最終選考会に登壇したベンチャー企業(順序は最終選考時の登壇順)表:最終選考会に登壇したベンチャー企業(順序は最終選考時の登壇順)
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図2:Liquidのサービスを支える技術図2:Liquidのサービスを支える技術
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 最終的に最優秀賞を獲得したのはLiquid。指紋や静脈といった生体認証データや、顔画像の認識データなどを蓄積し高速に検索できるサービスを提供する。例えば、訪日外国人が入国時に指紋を登録すると同時に、同社のアプリを使ってクレジットカード情報を紐付けておく。するとLiquidの指紋決済対応のPOSレジスタ(タブレットなど)を備えている店舗では、カードや現金不要で決済ができる。来店時に指紋とカードを紐付けることもできる。すでに国内の一部店舗で採用されている実用性と利便性、それに技術が評価されたようだ(図2)。

 優秀賞は、シェア部門がAsMama、決済部門がEmotion Intelligenceの2件だった。AsMamaは子どもの送迎や短時間の託児などちょっとした用事を、知人に依頼するSNS(Social Networking Service)。同じ園や学校に通うママ友やパパ友、顔見知りの友人から選んで依頼できるようにし、見ず知らずの人に子どもを預けるのは不安という問題を解消した。

 AsMamaのサービス料金は1時間500円。広告収入などでAsMamaは収益を得るため無料にもできるが、「無料だと頼みにくい」という声に配慮してのことという。今後は買い物難民や介護などにも進出する考えだ。

 Emotion Intelligenceは、ECサイトにおいて利用者のマウスの動きをトレースする仕組み。購入を迷っているかどうかを判断し、すかさず「今購入すれば1000円のクーポンを差し上げます」と表示するなどして買い物を後押しするサービスを提供する。単独のサービスというよりもEC事業者向けである。

 同サービスもすでに実績を持っている。今回のX-techでは利用者が決済手段を選ぶ際に事業者が望む手段に誘導する新たなサービスを提案した。利用件数が多い銀行振込では、振込完了まで発送処理ができず、かつ振込みまでの間に気が変わってキャンセルされることもあり得る。そこで「クレジットカード決済ならクーポンを差し上げます」とやるわけだ。ある意味、あざといが、よく考えられたサービスでもある。

 X-Techでは、ほかに特別賞も用意されていた。シェア部門ではdiffeasyが、決済部門ではドレミングアジアが、それぞれ受賞している。diffeasyは企業向けアプリを共同開発するサービス、ドレミングアジアは途上国や新興国などの銀行口座を持たない人向けに労働債権を担保に決済サービスを提供する。

レアリスタの「ホリディ・チケット」にも注目

 一連のプレゼンを聞いていて、筆者が面白いと思ったのは、レアリスタの「ホリディ・チケット」。個人の旅行者と現地の在住の人(ホスト)をマッチングさせ、現地の人しか分からない体験を提供するというコンセプトのサービスである。こう書くと分かりにくいが、世界的なベンチャーとして名前の挙がる米Uber Technologiesが車(交通手段)、米Airbnbが部屋(宿泊先)をマッチングするのに対し、レアリスタは現地の人(旅行ガイド)をマッチングさせると説明すれば、分かりやすいかも知れない。

 現地の人の案内があれば、ガイドブックや旅行サイト以上の何かを見つけたり体験したりできる可能性は高まる。現地の人にしても収入を得られるので双方にメリットがある。逆に旅行者はそれなりの料金を支払う必要があるが、その分、気兼ねしなくていいし、双方向で評価する機能もあるので、好ましくない人をガイドにしてしまうリスクもある程度は避けられる。レアリスタは大学のESS(英会話のクラブ)などと協業してインバウンド向けの需要を開拓する考えだ。

 一方、会場には九州電力や西部ガス、総合メディカル、第一交通産業、TOTO、安川電機など、九州拠点の有力企業が集結。表彰式後の懇親会で意見交換や人脈作りに正を出していた。まずは成功と言えるが、X-Techというイベント自体はきっかけ作りの手段でしかない。歴史のある大手企業とアイデアを持つベンチャー企業が、双方にメリットのある協業を実現できるかどうか。これからの取り組みこそが重要だ。

 なお同日、主催者であるFFGは「iBank」(仮称)という金融サービスを、2016年夏に提供開始すると発表した(発表資料)。(1)日々の口座残高と収支の管理(カード利用情報の取得・表示を含む)、(2)目的別預金(貯蓄機能)、(3)カード決済情報と連動したクーポン利用(Card Linked Offer)といった機能をスマートフォン用アプリケーション経由で提供する。同社はiBankを「銀行自らがイノベーティブなサービスを創出する“FinTech”領域に挑戦する新たな試み」に位置づけている。

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