[インタビュー]

独SAPの責任者に聞く「S/4HANA」の意義とユーザー企業への期待

2016年2月12日(金)田口 潤(IT Leaders編集部)

独SAPは、従来のERP(Enterprise Resource Planning)ソフトウェアの「SAP ERP」と、インメモリーDBMS「HANA」上で動作する「SAP S/4HANA」をどう位置づけているのか。他のシステムやサービスとの連携、あるいはAI(Artificial Intelligence:人工知能)の取り込みについてはどうか。独SAPでS/4 HANAを担当するスヴェン デネケン上級副社長に聞いた(聞き手は田口潤=IT Leaders編集部)。

S/4 HANAを担当する独SAPのスヴェン デネケン上級副社長S/4 HANAを担当する独SAPのスヴェン デネケン上級副社長

−−最初にS/4 HANAの位置づけと概要を教えて欲しい。SAP ERPのバージョンアップと考えていいか?

 S/4 HANAは全く新しい製品であり、SAP ERPの後継ではない。簡素化、デジタル化を目指して開発したのがS/4 HANAであり、アーキテクチャーも新しいものだ。だからSAP ERPのサポートを2025年まで延長するし、顧客に何かを強いることもない。ユーザー企業自身の最適なタイミングで、そしてビジネスケースが適合した段階で移行してもらう。まず、この点を理解してほしい。

−−より具体的なSAP ERPとS/4 HANAの違いはどんなところにあるか。

 これまでのERPは取引のデータと、レポートや分析のデータは別々に扱っていた。いわゆるOLTP(Online Transaction Processing:オンライントランザクション処理)とOLAP(Online Analytical Processing:オンライン分析処理)の違いだ。

 この違いは3つの問題を起こしてきた。(1)同じデータだが2種類のデータを持つので処理にコストがかかる、(2)レポートティングのための帳票設計が事前に必要である、(3)時差が生じてしまう、だ。当社の例ではSAP ERPは7TBのデータサイズだった。それがHANAに移行すると1.5TBに、S/4 HANAでは0.7TBになった。

 S/4 HANAでは、インメモリー処理によってその問題を解消している。データをその場で分析し、同時に業務プロセスをより早く回せるようになる。例えば業務のすべてに対し、締めの処理を毎日でも実行可能にした。財務報告を例にすると、14日かかっていたのが1日にできる。これも当社自身の例だが、400人日の労力削減を実現したし、CFOは事業部門と日々、最新データに基づいて議論できるようになった。

 製造部門でも同様だ。MRP(Materials Requirements Planning:資材所要量計画)では情報を入力し計算しプラニングする。複雑な処理なので時間がかかるため、これまでは夜間や週末にバッチで処理する必要があった。しかしデジタルビジネスが広がる中では、ロットサイズが小型になり計算量が増大していくので従来のやり方では限界がある。S/4のMRPなら計算をリアルタイムにできる。

−−違いはデータベースだけか?ほかに何かあるのか?

 データの定義は変更しておらず、SAP ERPとS/4 HANAは同じだ。ビジネス機能については機能の項目は変わっていないが、リアルタイム処理になることで、よりシンプル化している。ユーザーインタフェースは「Fiori」と統合した。異なる画面があちこちにあったのを集約したので、より直感的に使えるようになった。ぜひ実際に見てほしい。

 SAP以外のシステムとの連携に関しても、SAP ERPのすべてのインタフェースはS/4 HANAでも用意する。そうした点で変化は最少だ。しかしアドオンする場合には、コアをそのままにして、「SAP HANA Cloud Platform」というPaaS(Platform as a Service)で実装してほしいと考えている。S/4のコアに手をいれることもできるが、それが正しい選択なのかどうかを検討してもらいたい。

−−話は変わるが、2015年11月に「S/4HANA Enterprise Management(EM)」と同時に、「SAP S/4HANA Lines-of-Business(LoB)」を発表した。発表文では「LoBはEMソリューションに含まれるデジタルコアの機能と〜中略〜たとえば財務向けのSAP Cash Management、人事向けのSAP SuccessFactors、調達向けのAriba Network〜中略〜などを結びつける」と説明されている。「EMのコアとSaaSなどのサービスを連携する機能」だと解釈できるし、日本での報道も同趣旨のものが多い。なぜ連携機能をLoBという名称にしたのか?なぜSAP製ミドルウェア群である「NetWeaver」の拡張ではないのか。

 その理解は正しくない。ソフトウェア連携機能であるNetWeaverは、従来よりもシンプルで簡素なものになっているが、今もアンダーレイヤーに存在する。一方で企業は、S/4 HANAと組み合わせた形でSuccessFactorsやAriba Networkなどを導入する。ファイナンスやSCM、R&Dなど事業領域をデジタル化するわけである。LoBは、そうした事業部門向けのフェデレーティッド(連携した)なスィート製品だ。当社ではすでに10種類を提供している。

−−なるほど、それなら理解できる。しかし、そうだとすればLoBはSAPに閉じたソリューションだけで構成される印象がある。Salesforce.comやOffice365など他社のサービスとEMの連携はサポートしないのか?

 そうではない。PaaS上で他社のクラウドソリューションと連携できるようにする。SalesforceのようなSaaSやLinkdInなどのSNS(Social Networking Service)を、SAP HANA Cloud Platformを使ってEMと連携させる形だ。一例だが、API(Application Programming Interface)エコノミーを可能にするapigeeをご存じだろうか。これを使えば必要な機能の多くを即座に入手できる。

−−最後にもう1つ、日本のERPベンダーであるワークスアプリケーションズはERP製品にインテリジェントなAI機能を盛り込み、業務システムの使い勝手や生産性を大幅に高めようとしている。SAPはどういう方針か?

 いいことを聞いてくれた。もちろんやっている。例えばSuccessfactorsでは既に、誰かが特別休暇を取ったとき業務は滞りなくカバーされるか、新人採用時に何をすべきかといったことをサポートするルールベースを提供している。マシンラーニング(機械学習)が裏側にあるので、使えば使うほど賢くなる。

 一方、米Amazonの「Echo」という言語認識デバイスと連携させることも既にやっている。マシンラーニングをはじめ、インテリジェントなサービスは差異化のキーであり、なによりも顧客に貢献すると考えている。

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