データマネジメント データマネジメント記事一覧へ

[イベントレポート]

「だれでもデータサイエンティスト」目指すリクルート

データマネジメント2016

2016年3月16日(水)杉田 悟(IT Leaders編集部)

トヨタが2016年1月、シリコンバレーにAI(人工知能)の開発拠点「Toyota Research Institute」設立を発表し、米国政府の研究機関DARPAやGoogleからAIの大物を招へいしたことは記憶に新しい。それよりひと足早く、2015年11月にシリコンバレーにAIの研究機関を立ち上げた日本企業がある。それがリクルートホールディングス(リクルート)だ。2016年3月11日に東京・目黒雅叙園で開催されたデータマネジメント2016で、リクルートでAIを牽引する石山洸氏が、同社のAI研究所が進める「データマネジメントの民主化」を解説した。

リクルートホールディングスの石山洗氏

 リクルートがシリコンバレーに設立したのは、日本にあったRecruit Institute of Technology(RIT)を移設したものだ。移設にあたってRITは、新規事業のための広範技術のための研究機関からAI専門の研究機関に生まれ変わった。石山氏によると、そのRITが目指しているのが、「だれでもデータサイエンティストになれる社会」の実現だという。

 その内容に触れる前に、トヨタにも負けないRITの陣容を紹介しておく。トップに就任したのが、元Googleの研究者であるAlon Halevy氏。エンタープライズの情報統合基盤を提供するNimble Technologyの創業者でもある。そして、アドバイザーに世界的なAIの権威をずらりと並べた。

 米カーネギーメロン大学教授のTom M. Mitchell氏は、世界で初めて機械学習の学部を設立した人物で、機械学習の代表的な研究者だ。元・米ワシントン大学教授のOren Etzioni氏は、情報検索分野における著名な研究者で、AAAI(米国人工知能学会)フェローを務める。米コロンビア大学教授のDavid M. Blei氏は、膨大なデータの中からパターンを見つけるための代表的な機械学習手法であるトピックモデルの第一人者。

 このようなメンバーでRITが推し進めている研究が「例えばレンジでチンする機械学習」だ。レンジでチンするがごとく、誰もがかんたんに機械学習を使いこなせるようになることを目指している。

 ビッグデータやAIの文脈で必ず語られるのが、「データサイエンティスト」人材の不足だ。日本のデータサイエンティスト協会によると、データサイエンティストには「ビジネス力」「データエンジニアリング力」「データサイエンス力」という3つのスキルセットが求められる。この3つのスキルセットを合わせ持っていることが必須とされており、デジタルビジネスを推し進める世界中の企業が欲しがっている人材だ。

 石山氏は「10人のデータサイエンティストの専門家を抱え、50プロジェクトを走らせている企業に、コードを書けない人でも機械学習が利用できる環境が整備され、社員全員で5000あまりのプロジェクトを随時走らせている企業は勝つことができる」としている。前者は、一部の優れたデータサイエンティストにプロジェクトが集中している、よくある企業の例。後者が、RITが目指す企業の姿だ。

DataRobotの機械学習プラットフォームを活用

 それを実現するのが、リクルートが2015年11月に出資し提携を結んだ米データロボット(DataRobot)の技術だ。同社が提供するのは、汎用の機械学習プラットフォーム。ここには数千万個のアルゴリズムが保有されており、データを入力するだけでアルゴリズムや前処理、特徴量、変換処理、パラメーターチューニングなどの膨大な組み合わせの中から、ベストな予測モデルを自動的に見つけ出してくれる。

 これを使えば、データサイエンティストの業務を効率化することはもちろんのこと、今まで機械学習とは無縁だった、コードを書くこともできない一般の社員が機械学習を使いこなせるようになるというのだ。そうなればアイデアの偏りがなくなり、「社員全員で5000あまりのプロジェクトを随時走らせる」ことも現実味を帯びてくる。

 最後に、RITのアドバイザーであるTom M. Mitchell氏の主張である「マルチラリティ」を紹介しておく。これは、人工知能が人間の能力を超えることで代表される技術的特異点「シンギュラリティ」に相対する言葉だ。例えば、人工知能が人間を超える特異点は1つきりだが、マルチラリティでは「特異点は複数」あると主張している。

 言い換えると、シンギュラリティは1つの価値観で成り立っているが、マルチラリティは複数の価値観を持つということになる。機械学習に代表されるAIが、データサイエンティストなど一部の人のものである限り、そこから生まれるものは単一の価値観に基づく限られたものでしかない。しかし、全員がAIを使いこなせれば、様々な価値観を持つ数百億個の価値が生み出されるはずだというのがマルチラリティの考え方だ。

 RITでは、リクルートへの貢献だけでなく、科学への貢献、社会への貢献も視野にデータマネージメントを始めとするテクノロジーの民主化に取り組んでいるという。

この記事の続きをお読みいただくには、
会員登録(無料)が必要です
  • 1
  • 2
関連キーワード

AI / JDMC / データマネジメント / リクルート / セブン&アイ・ホールディングス / コメリ / 村田機械 / 楽天 / IHI / 東京証券取引所 / イオン / 日立製作所 / データサイエンティスト / データエンジニアリング / そごう・西武

関連記事

トピックス

[Sponsored]

「だれでもデータサイエンティスト」目指すリクルートトヨタが2016年1月、シリコンバレーにAI(人工知能)の開発拠点「Toyota Research Institute」設立を発表し、米国政府の研究機関DARPAやGoogleからAIの大物を招へいしたことは記憶に新しい。それよりひと足早く、2015年11月にシリコンバレーにAIの研究機関を立ち上げた日本企業がある。それがリクルートホールディングス(リクルート)だ。2016年3月11日に東京・目黒雅叙園で開催されたデータマネジメント2016で、リクルートでAIを牽引する石山洸氏が、同社のAI研究所が進める「データマネジメントの民主化」を解説した。

PAGE TOP