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[インタビュー]

数年後に多くの業務システムが混乱!? 米ガートナーが「ERP戦略の欠如」に警鐘

2016年3月31日(木)田口 潤(IT Leaders編集部)

米有力調査会社のガートナーが「2018年までの数年間に企業情報システムの多くが混乱を来す可能性がある」との見解を公表した。企業はERP(Enterprise Resource Planning)を中核に、調達や顧客管理、人材管理などのアプリケーションを構築してきた。だが、その一部または多くがクラウドサービスに置き換わる。そこに「バイモーダルIT=2つの流儀のIT」という考え方が加わる結果、相当規模の混乱は避けられないという。

 「2018年末までに、ポストモダンアプリケーションの統合戦略と実行能力がない企業は90%に上る。結果として統合環境は混乱の様相を呈し、複雑さが高まりコストも増える」──。米有力調査会社のガートナーは2016年3月初めに行った発表でこう指摘した。

 「ポストモダン」など分かりにくい言葉が含まれるが、簡単に言えば、企業ITの中核を成す業務システム、すなわちERP(Enterprise Resource Planning)が今後数年の間に大きな混乱を余儀なくされるという指摘だ。その要因は2つある。1つはERPがこれまでのメガスィート(大規模統合ERP)からポストモダンERPに移行すること。もう1つはバイモーダルIT、つまり2つの流儀のITが企業情報システムで主流になることだという。

 ここでバイモーダルITとは、「モード1のIT」と「モード2のIT」という2つ特性を備えるITがあるという考え方。前者は主に企業内の業務向けシステムで安全性や確実性を重視する。後者は、多少の問題があってもアジャイルなサービスインと迅速な改良を重視する外部向けのシステムだ。別の表現ではモード1のITは「SoR(Systems of Record)」、モード2のITは「SoE(Systems of Engagement)」と呼ばれる。

写真1:米ガートナーのERP専門アナリストであるナイジェル・レイナー(Nigel Rayner)氏

 ではポストモダンERPとは何か、バイモーダルITがなぜ、どのように混乱を招くのか。そして混乱を避けるためにはどうすればいいのか。3月中旬に来日したガートナーのERP専門アナリストであるナイジェル・レイナー(Nigel Rayner)氏に聞いた。

−−企業の業務システム、つまりERPは、これまで「モード1のIT」と考えられてきました。この見方は正しいでしょうか?

 確かに企業内の業務サポートを主眼とする伝統的なERPシステムは、モード1をベースとした設計でした。モジュール同士は密に統合され、必然的に大規模なアプリケーションです。進化のスピード、つまりバージョンアップはゆっくりでもあります。企業の業務は頻繁に変わると様々な混乱や問題を引き起こすので、これは決して悪いことではありません。ERPの構築や運用管理はモード1で行われるべきだったのです。

 しかし今日では、モード1一辺倒では済まないのも間違いありません。モード2のアジャイルな変化対応を必要とする業務が増えてきています。例えばタレントマネジメントを想定して下さい。企業は有能な人材をリテンションする(惹き付ける)ために不満を察知したり、希望に合うポジションに引き上げたりする必要がありますよね?

 人材へのニーズや個々の人材の考え方、彼/彼女らを取り巻く環境は日々変わるだけに、タレントマネジメントのシステムは迅速でアジャイルであるべきです。何らかのイノベーション、例えばソーシャルなどを取り込んでいく必要もあります。こうなるとアプリケーションとしてはモード2寄りになります。

 ただし、すべての企業にこれが求められるかというとそうではないし、タレントマネジメントはすべてモード2であるかというとそうとも限りません。その境界は、企業やビジネス部門の戦略によっても変わる、あいまいさを持っています。

−−顧客に近いアプリケーションであるCRM(Customer Relationship Management:顧客関係管理)も同様ですか。

 そうです。CRMの中にはフィールドサービス(保守サービス)のようにモード1が求められるものがあります。一方でマーケティング支援のように柔軟性とアジリティが求められるものもあります。特に競争が激しい業界に属する企業のCRMはモード2であることが必要でしょう。

−−だとすれば、ことさら斬新なモバイルアプリケーションやIoT(Internet of Things:モノのインターネット)、あるいはAI(Artificial Intelligence:人口知能)といった新たなアプリケーションを持ち出さなくても、企業の情報システム(IT)部門は、モード1に加えてモード2の流儀も実践できなければならないことになります。つまりアジャイル開発やDevOps(開発と運用の融合)、あるいはオープンイノベーションと呼ばれる共創の取り組みなどです。

 全くその通りです。経営層や社内ユーザーの観点に立つと、構築に時間がかかったり、変更が難しいというわけにはいかないアプリケーションが増えています。「モード1だけではビジネス要件を満たせない」という表現もできるでしょう。しかしITベンダーやIT部門は、自分たちの都合でアプリケーションを構築し、管理する傾向があります。それで済めば楽だからです。今日のIT部門は、この点に敏感に、そして注意深くなる必要があります。

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