[真のグローバルリーダーになるために]

【第34回】競争でも攻めてはいけないポイントがある

2016年5月20日(金)海野 惠一(スウィングバイ 代表取締役社長)

香港の鉄道カードシステムを巡る大型案件において、競合相手の中国IT大手の北京鳳凰との2度の面談の結果、入札での直接対決を避け、北京鳳凰が落札し日本ITCソリューションがプロジェクトマネジメントを担当するという案が先方から出てきた。しかし、日本ICTソリューションの佐々木は「人を致して人に致されず」すなわち「主導権を渡してはいけない」という孫子の兵法の言葉を思い出していた。先方からの提案を預かったまま、佐々木と事業部長の三森は、ホテルのバーでクールダウンしながらも、今後について語り合っていた。

 日本ICTソリューションの三森事業部長は、北京鳳凰の蘇総経理は「実を取るタイプ」だとみて、話を続けていた。

 「日本企業はプロジェクトを落札できないと、実績として認められないところがあります。形だけの問題ですが、中国ではそういうことはないでしょう。どんな形であれ、プロジェクトに参画したかどうかで十分評価されるはずです。そこを狙えば、我々には、まだ交渉の余地があります。6月24日にドラフトができると言っていましたね。それを見てから、もう一度、蘇さんに会いましょう」

 「事業部長、もう一度会ってどうされるのですか?」

 「会って我々に落札させてくれと言います」

 「そんなことを言って、彼らは納得するのでしょうか?」

 「納得しないかもしれません」

 「では、どうしてもう一度、会うのですか?」

 「あの会社には創業者がまだ健在でしょう」

 「というと蘇総経理のご尊父ですか?」

 「そうです。董事長です。中国人は親の言うことを聞きます。ですから董事長としてではなく、総経理の父親として会うのです。

 日本では福沢諭吉が昔、『徳育如何』という論文で、『道徳教育は国民の自主的な議論に基づいたものであるべきだ』と発表してから戦前までは、親に孝養を尽くそうという考えは日本にもありました。戦後、教育勅語が廃止され修身教育がなくなってしまってからは、親を敬うという風習は今の日本にはありません。ですが中国では、そうした儒教の考えが依然として存在しています」

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