[真のグローバルリーダーになるために]

【第42回】遠慮ない質問に真摯に答え信頼を得る

2016年9月2日(金)海野 惠一(スウィングバイ代表取締役社長)

香港の鉄道カードシステムを巡る大型案件の入札日が近づいていた。日本ITCソリューションの課長である佐々木は、競合相手、北京鳳凰の蘇総経理に最後の説明に向かう。入札資料の最終調整会議では、北京鳳凰用、入札用、本社用の3種の資料を用意した。佐々木と三森事業部長は、北京鳳凰用の資料を携えて北京に向かう。

 入札資料の最終調整会議の翌朝、佐々木は三森とホテルのロビーで待ち合わせを、一緒にタクシーで飛行場に向かった。香港から北京への飛行機は定刻に着いた。彼らはもう北京に慣れていた。今回はホテルにチェックインせず直接、北京鳳凰を訪問することにした。

 北京鳳凰がある中関村南大街の中電信息大厦には午後3時前に着いてしまった。中関村の街を少し歩きまわったが、それでも北京鳳凰には3時半に到着した。いつもの会議室に通され、しばらく蘇総経理を待った。今回もコーヒーを出してくれた。ここのコーヒーは日本で飲むのと同じレベルで、ありがたかった。

 最近の中国では、こうした些細なことではあるが、様々なところで変化が起きていることを佐々木は実感していた。しばらくすると蘇総経理が、いつものように邱副総経理と郭海外事業部長を連れだって会議室に入って来てた。蘇総経理が挨拶をした。

 「やあ皆さん、お元気ですか。北京もこの2週間でだいぶ暖かくなりました。ただ最近は冬の暖房がなくなっても空気は酷いものです。我々はここに住んでいて慣れているとはいえ、やっぱり気分は良くないですね。

 車の排気ガスが原因の1つです。これまでは中国石油天然気集団公司が石油の利権を支配していたのですが、最近、習近平主席の『ハエもトラも叩く』という腐敗撲滅運動で、この企業のトップが入れ替わり改革が進んできています。ですので、ガソリンからのSOx排出も改善されるでしょう。日本からも東京都がだいぶ協力してくれていますので、北京の空気も良くなる方向になっていくでしょう」

 いつものように陽気な彼は2人の日本人に向かって挨拶をした。

 「そうですね。日中の政治問題も、そろそろ解決の動きに向かっていくでしょうから、早く解決してほしいですね。そうすれば我々も、日中のビジネスをもっと本格的に進められます。現在は日本企業の本社側が、ここ中国に対する投資には慎重になり好機を逃していて残念です。

 ところで本日は、御社に詳細な提案書を持って参りました。是非とも忌憚のないご意見をお聞かせ下さい。よろしくお願いいたします」

 三森が挨拶を返すと、佐々木が持参した資料を3人に配布し、説明を始めた。資料は30ページあり、最初のページにはA3版の全体図を入れて分かりやすく作成してあった。

 「それでは説明を始めます。1枚目のA3版の見開きを広げてください。現状分析・設計・製造フェーズとテストフェーズの全体像が書いてあります。その中で青い部分は御社が担当し、薄緑の分は弊社が担当するように色を塗り分けています。かっこ書きは積み上げた工数と金額の合計です。2ページ目が組織図、3ページ目が全体スケジュールです。それでは、この資料に沿って進めてまいります」

 佐々木が説明し、ページをめくる都度、北京鳳凰のメンバーから数多くの質問があった。中国人は日本人と違って欧米人に近い。「総括責任者と全体PM(プロジェクトマネジャー)では役割がどう違うのか」「指示命令系統の明確化と作業項目の明確化はどう違うのか」など、数え切れない質問があった。午後4時に始まった会議は午後6時になっても終わりそうになかった。

優れているのは容易に勝てる相手に勝つ者

 それらの質問に佐々木は丁寧に答えていった。こうして彼らに一所懸命になっているのは、用意周到の準備が最後の詰めには最も大事であることを理解しているからである。すなわち、孫子の兵法の軍形篇にある一片を念頭に、佐々木は話を進めていた。

 「勝を見ること、衆人の知る所に過ぎざるは、善の善なる者に非(あらざ)るなり。戦い勝ちて、天下善なりと曰うは、善の善なる者に非るなり。故に、秋毫(しゅうごう)を挙ぐるも多力と為さず、日月を見るも明目と為さず、雷霆(らいてい)を聞くも聡耳(そうじ)と為さず。古の所謂善く戦う者は、勝ち易きに勝つ者なり。是の故に、勝兵は先ず勝ちて而る後に戦いを求め、敗兵は先ず戦いて而る後に勝を求む」

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