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[CIOのための「IT未来予測」将来を見据え、目前のITを評価せよ]

広がるAIの応用分野と、それが示す現時点での限界

2017年4月17日(月)大和 敏彦(ITi代表取締役)

AI(人工知能)は着実に応用分野を広げ、成功事例が出てきている。一方で東大入試突破を目標にしていた「東ロボくん」の開発が凍結されたり、ガン治療にAIを使う米MDアンダーソンがんセンターのプロジェクトが保留されたりなど、現時点でのAIの限界やAIプロジェクトの進め方を考えさせられる出来事が起きている。今回は、AIの成功事例や停止されたプロジェクトからAIの活用と限界について考えてみたい。

(6)自動運転

 画像認識やセンサーの技術と機械学習によって、自動車の自動運転の実現や高度化が急速に進もうとしている。それを先取る形で、現時点の技術による自動運転の応用範囲が広がっている。ロボット掃除機の「ルンバ」が、その一例だ。ルンバは、部屋の形状や家具の配置などを地図データとして作成することで、センサーによって障害物を避けるだけでなく、同じ場所を通らず無駄が少ない効率よいルートで掃除をし充電器の位置を探し出して充電する。

 米Amazon.comが買収したロボット「Kiva」は、AIを使って棚を移動させるロボットで、倉庫や集配センターにおけるピッキングのための棚の移動を最適化する。Kivaに商品の選択と運搬を任せることで、作業員の無駄な動きを削減できる。

進化する中でAIの不得意分野も明らかに

 AIによる最適化やAIでなければできない高速化や自動化の応用が広がりつつある。だが一方で、現時点のAIの不得意分野も明らかになってきている。『自動運転やIoTが求めるAIの進化』で述べたように、AIは以下のようなテクノロジーによって、その進化が大きく加速した。

●機械学習、ディープラーニングの技術
●専用ハードウェア、半導体による高速化
●インターネット、クラウドによる膨大なデータ蓄積と活用

図2:AIの進化を加速した機械学習とディープラーニング図2:AIの進化を加速した機械学習とディープラーニング
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 機械学習やディープラーニングによる学習によってルールやロジックを定義しなくても、膨大なデータの分析からも確率的に正しい答えや判断、実行は可能である。大量データを分析し、統計的に正しいルールや因果律、相関を見つけ出し、モデル化や判断基準を作成し、それに基づいて判断する(図2)。

 ただ、確定的なルールが見つかる確率は一般に、データ量が少ないと低くなる。また統計的な最適解であるため、100%の正確さが求められる場合には、注意が必要になる。この問題が明らかになった例が「東ロボくん」プロジェクトである。

 同プロジェクトの発表では、文章の1カ所が空欄で該当する語を4択で答える問題と、文の順番を正しく並び替える整序問題への対応が挙げられている。こうした問題は、100%正確な回答でなければ得点にならない。東ロボくんの正答率は90%を越えるまでになった。だが、そのために語数は500億語、文の数で言えば19億文を勉強させる必要があったという。より広い分野や複雑な問題に対処するためには、さらに膨大なデータの蓄積が必要になる。

 プロジェクトリーダーである国立情報学研究所の新井 紀子 教授は、この問題の本質を次のように突いている。

 「東ロボくんは、文の意味を理解しているわけではなく、近いパターンを見つけ出して回答とするという意味で、人間のやり方とは明らかに違う。統計的手法を使って意味が分かったふりをしているだけで、本質的な意味はわかっていません」

 もちろん精度を高めるために様々な工夫もなされている。AlphaGOが採用した「強化学習」では、AlphaGO同士が何千万回も対戦し、自ら様々なパターンの手を打つことでデータを生み出し、データを増やして精度を高めた。同時に、過去のデータにない手に対する最適対処を学習した。同様に、デジタルツインと試験環境を完備し効率的にテストデータを収集することも精度向上に役立つ。

AIを何のために活用するのか、ゴールの明確化が重要

 AI活用で成功するためには、AIの得意分野と限界を理解し、応用目的を検討しなければならない。米MDアンダーソンがんセンターにおけるAI活用プロジェクトの保留は、目的や使い方に関する合意不足が問題だった。同プロジェクトでは、当初の対象が白血病から肺がんに変わったように、AIの活用目的が予算獲得のプロセスで不明確だったことから保留された。IBMのWatsonは既に、肺がん治療の決定をサポートする際に90%の正確さを発揮しているというのにだ。技術的な方向性だけでなく、目的やゴールに対する理解が明確でなければプロジェクトは成功しない。

 AIが有効に活用できる分野は増えてきた。だが実際は、まだ多くの分野におけるAIの実力は、ツールとしての活用が可能なレベルである。AIの得意分野と限界を理解し、活用の目的とゴールを明確にして“使えるAI”を選択する必要がある。もちろん、意味の理解や、人間の知的プロセスの深い理解と再定義の研究は続いており、それらの活動によってAIは、さらに進化する可能性を秘めている。

 それでもAIの活用そのものが目的ではない。最適化や自動化などのゴールに対し、AIにどこまで依存するかの検討を進めていかなければならない。

 なお本連載は今回を持って一旦、休載します。長らくのご愛読、ありがとうございました。近く、新しい形での連載を再開する予定です。引き続き、よろしくお願いします。

筆者プロフィール

大和敏彦(やまと・としひこ)
ITi(アイティアイ)代表取締役。慶應義塾大学工学部管理工学科卒後、日本NCRではメインフレームのオペレーティングシステム開発を、日本IBMではPCとノートPC「Thinkpad」の開発および戦略コンサルタントをそれぞれ担当。シスコシステムズ入社後は、CTOとしてエンジニアリング組織を立ち上げ、日本でのインターネットビデオやIP電話、新幹線等の列車内インターネットの立ち上げを牽引し、日本の代表的な企業とのアライアンスおよび共同開発を推進した。
その後、ブロードバンドタワー社長として、データセンタービジネスを、ZTEジャパン副社長としてモバイルビジネスを経験。2013年4月から現職。大手製造業に対し事業戦略や新規事業戦略策定に関するコンサルティングを、ベンチャー企業や外国企業に対してはのビジネス展開支援を提供している。日本ネットワークセキュリティ協会副会長、VoIP推進協議会会長代理、総務省や経済産業省の各種委員会委員、ASPIC常務理事を歴任。

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