[五味明子のLock on!& Rock on!]

Red HatとAWSの戦略的提携 & DockerのCEO交代を通して感じたエンタープライズITにおける潮目

2017/05/01 - 05/05

2017年5月8日(月)五味 明子(ITジャーナリスト)

5月第1週はゴールデンウイークと重なったため国内のIT業界にはほとんど動きがなかったが、海外ではビッグニュースが相次いだ。今回は「Red Hat Summit 2017」とDockerのCEO交代に注目してみたい。

Red Hat Summit 2017 - AWSとの提携強化、新開発環境「OpenShift.io」など

 2017年5月2日~4日の3日間にわたって米ボストンで開催されたRed Hatの年次カンファレンス「Red Hat Summit 2017」には約6000名を超える参加者が集い、盛況のうちに閉幕した。残念ながら筆者は現地には行っていないが、期間中の発表内容からすると、主なトピックとしては以下を挙げることができる。なお、編集部から当イベントに参加したメンバーがいるので、詳細については近日中に報告記事がアップされるはずだ。

  • AWSとの戦略的提携を発表、OpenShift Container PlatformからAmazon Redshift、Amazon AuroraなどAWSのマネージドサービスがダイレクトに利用可能に
  • コンテナベースでクラウドネイティブなアプリケーション開発環境「Red Hat OpenShift.io」を開発者向けに無償提供
  • Disney、Pixarなどのユースケースに見るOpenStackおよびコンテナ関連のビジネスの拡張

 中でも注目は、AWSとの距離を縮める方向にRed Hatが戦略をシフトしたこと。プライベートクラウドやハイブリッドクラウドを推進してきたRed Hatは、これまでAWSとはパートナー関係にありながらも、パブリッククラウドベンダーとして圧倒的なパワーを誇るAWSとは一定の距離を置き続けてきた。今回、その距離を一気に縮める提携を発表したことは、AWSと近しい関係を構築するほうがメリットが大きいと判断したといえる。

 昨年、VMwareがAWSと戦略的提携を発表し、VMwareのユーザーにAWSのリソースを利用可能にする「VMware on AWS」を明らかにした。今回のRed HatとAWSの提携はそこまでの強いインパクトはないものの、プライベートクラウドとパブリッククラウドの境界線がより曖昧になっている流れの象徴として非常に興味深い。

Dockerのベン・ゴラブCEOが退任、新CEOにConcur創業者のスティーブ・シン氏が就任

 Red Hat Summit 2017のオープニングキーノートが行われていた5月2日(米国時間)、Red Hatも深くそのビジネスに関わるDockerから衝撃的なニュースが流れてきた。Docker創業者のベン・ゴラブ(Ben Golub)氏がCEOを退任し、新しいCEO兼チェアマンとしてConcurの創業者であり、SAPのボードメンバーであるスティーブ・シン(Steve Signh)氏が就任するというものだ。

DockerのCEOを退任した創業者のベン・ゴラブ(Ben Golub)氏

 シン氏は2014年、自身が創業したクラウド上の経費精算システムConcurを80億ドルという巨額でSAPに買収させたIT業界の敏腕経営者として知られている。なお、ゴラブ氏はボードメンバーとしてDockerの経営に引き続き関与する予定だ。

 創業者として、スタートアップの経営者として、そして急激に拡大するコンテナ市場とオープンソースコミュニティの橋渡し役として、ゴラブ氏が果たしてきた貢献の大きさは誰も異論がないところだろう。一方で、エンタープライズ企業によるDockerの採用が増えるにしたがい、オープンソースコミュニティを重視するスタイルをビジネスと両立させることが難しくなってきたのも事実だ。Sun Microsystemsの例を引くまでもなく、ITベンダーがオープンソースでビジネスを成功させるのは簡単ではない。現在のところ、誰の目にも明らかな成功を収めているのはRed Hatだけといってもよい状況であり、その事実がエンタープライズビジネスとオープンソース開発のバランスの難しさを物語っている。

 今回、ゴラブ氏が自らCEO退任という選択をしたのも、Dockerを本当の意味で商業的に成功させるために、よりエンタープライズグレードなサポートに力を入れる決断の現れと見ることができる。これまでどのオープンソース企業も手に入れられなかった“第2のRed Hat”の称号を得られるのか、今回のCEO交代はDockerにとって重要な試金石となりそうだ。

ホートンワークスジャパンの執行役員社長 廣川裕司氏

 なお余談ではあるが、オープンソースベンダーとして“第2のRed Hat”を目指すもう一つの企業としてHadoopを中心にデータビジネスを幅広く展開するHortonworksがある。4月21日、日本法人のホートンワークスジャパンが同社の執行役員社長 廣川裕司氏の就任会見を行ったが、廣川氏といえばRed Hatの日本法人であるレッドハットの社長を9年間にわたって務めた人物としてご存知の方も多いだろう。

 会見の席上、廣川氏は「Hortonworksにはオープンソースのパワーをバリューに変えられる人材が揃っている」と明言していたが、古巣のRed Hatのように、優秀な開発者を引きつける最先端の技術力とエンタープライズ企業から求められる絶対の安心感、この2つをバランス良くオペレーションしていくことこそが、Hortonworksのみならず、オープンソース企業が次のステージに上るための鍵であるのは間違いない。
 

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