働き方改革では、勤務制度改革やITツールの活用などに焦点が当てられがちだが、生産性の向上を図る上では、オフィスやコワーキング・スペースなどの「働く場所の質」にも注意を払いたい。社員に気持ちよく働ける環境を提供するためにコストを掛けることは、決して無駄な投資にはならないはずだ。

生産性向上に向けてオフィス空間の改善を

 どうにも気分が乗らない、アイデアが煮詰まった、次の作業に向けて頭を切り替えたい──。愛煙家ならば喫煙コーナーで一服して一息つくところだが、昨今はアクセスの悪いビルの一角に追いやられる傾向が強いし、そもそも喫煙人口そのものが減っている。誰もが気軽に気兼ねなく小休止できるリフレッシュ・スペースを求める声は高まるばかり。さて、あなたの会社にはあるだろうか?

 人が集中力を持続できる時間は、せいぜい40~50分と言われている。もちろん個人差はあるが、何時間も集中し続けられる人はそうはいない。仮に勤務時間が9~18時とすれば、昼休憩のほかに午前に2~3回、午後に3~4回の休憩が必要になることになる。別の観点では、座りっぱなしも健康に良くないとされる。スマートウォッチなどのウェアラブル端末の中には、小一時間も移動せずにいると「そろそろ立ち上がりましょう」と促すものもある。そんな時、立ち上がったついでにリフレッシュ・スペースまで歩いて行って飲み物でも口にすると確かに気分を一新できるもの。生産性の向上を図りたいなら、社員を机に縛りつけておくのは逆効果であり、休憩を取りやすいスペースを積極的に用意することを検討したい。

 休憩場所だけ不十分という声も聞こえてきそうだ。差し迫った時に限って「ちょっといい?」と話し掛けられて集中できないため、近くのカフェに逃げ込んだことのある人は少なくないだろう。もちろん、円滑なコミュニケーションはとても重要だが、時と場合によっては周囲のノイズをシャットアウトしたいことは誰しもある。オフィスよりもカフェの方が仕事が捗るというのは由々しき問題。そこでもし、社内に自由に使える「コワーキング・スペース」があれば、どうだろう。気分を変え集中して仕事することができるようになり、生産性の向上につながるシーンが少なからずあるはずだ。

 リフレッシュ・スペースに加えて、コワーキング・スペースまでとなると、とてもではないがスペースが足りない、非現実的だと思われるかもしれない。だが、生産性の向上、ひいては働き方改革を目標にオフィス空間のリノベーションを進めるのであれば、一旦は制約条件を取り払ってまずは理想像を描いてみるのも一考だ。フリーアドレス制やテレワーク(在宅勤務やモバイルワーク)の導入などと一体で検討し、現状とのギャップを埋められる可能性を探って、少しでも魅力的なオフィス空間の実現を図りたいものだ。

作業時の姿勢を改善して効率をアップ

 理想的なオフィス創りの一環として、机や椅子などの什器類にも配慮を巡らせる動きもある。勤務時間の大半をデスクワークに費やす社員にとって、仕事をするときの姿勢は、作業効率や疲れに大きく影響するためだ。オフィスのしつらえを再考する際には、従業員の身体的負担を減らすという視点もまた欠かせない。

 体の負荷を減らすためにエルゴノミクス・チェアを採用する企業は多いようだが、中には個々人の体格に合わせてデスクの高さにも自由度を持たせているケースもある。電動の昇降式デスクを使い、楽な姿勢で仕事に臨めるようにするといった取り組みだ。電動で簡単に高さを変えられるので、フリーアドレス制を採用している企業でも導入しやすい。

内田洋行の電動昇降デスク「OPERNA」。650~1250mmの高さ調整が無段階で可能内田洋行の電動昇降デスク「OPERNA」。650~1250mmの高さ調整が無段階で可能

 個々人の最適な高さに調節できるだけでなく、立ち姿勢と座り姿勢のどちらにも対応できる点も、電動の昇降式デスクの特徴だ。立ち姿勢と座り姿勢のどちらが仕事の効率がよいかという議論は置いておくとして、立ちっぱなし、座りっぱなしの「ぱなし」状態が、体に良くないことは納得していただけるだろう。特に腰痛持ちの人は、座っているといつの間にか背が丸まって腰の負担が大きい姿勢になっていることが多い。昇降式デスクを使えば、30分だけ立ち仕事に切り替えるといったことが簡単にでき、姿勢改善に役立つ。また、昼食後の眠気が襲ってくる時間帯に、立ち仕事に切り替えるというのも効果的だ。電動の昇降式デスクは、オフィス家具メーカー各社から販売されているので、興味があれば検討してみるとよいだろう。

充実してきたコワーキング・スペース

 ここまで主に内勤者向けのオフィス空間の改善について触れてきたが、ここからはモバイルワークでの働く場所について考えてみたい。

 一昔前、「ノマド」という言葉が流行ったころは、カフェで仕事というと、フリーランスのものという雰囲気だったが、今やオフィス街のカフェではスーツ姿のビジネスパーソンがノートPCを広げて仕事をしている風景が定着している。店側もそうした客を見越してコンセント付きの席を増やしたりしているが、やはりカフェはカフェで仕事に最適化されている空間ではない。電源が確保できるとは限らないし、ネットワーク環境も十分とは言えない。ふかふかのソファーはくつろぐ分には心地よいが、腰が沈んで仕事はしづらい。

 結局、モバイルワークに本格的に取り組むのであれば、勤務制度やITインフラの整備と並行して、働く場所についても何らかの手当を考える必要がある。大企業の中には、サテライトオフィスを構えたり、各事業所にコワーキング・スペースを設けたりして、社員に開放するといった施策を進めている会社も増えている。だが、中小中堅企業の場合は、固定のサテライトオフィスは維持費が負担になるし、事業所にコワーキング・スペースを設置しても、事業所数が少ないと効果が薄い。

 そこで、モバイルワークの需要拡大を受けて増えてきている民間のコワーキング・スペースの活用を検討したい。例えば、カラオケボックスのパセラが展開する「パセラのコワーク」は、もともとはカラオケ利用者の少ない日中の時間帯をコワーキング・スペースとして提供するサービスとしてスタートしたが、需要の拡大に応えるためか、朝9:30から深夜23:00まで利用できるコワーキング・スペース専門店(東新宿店)も登場している。

 コワーキング・スペースでは、ネットワーク(Wi-Fi)や電源が使えるが、その他のサービス内容は、提供事業者や店舗によってまちまちだ。プリンターやスキャナーが無料で使えるところもあれば、有料の場合もあるし、設置されていないこともある。また、フリードリンクなどのサービスがあるケースもある。

 料金体系は時間単位の課金が基本だが、月極契約が可能なところもある。利用する社員の数や頻度によっては、月極のほうが割安になることもある。いずれにせよ、コワーキング・スペースは、快適に仕事ができるかどうか、利用しやすい場所にあるかどうかの二つが最重要なので、どこかと契約する場合は、営業部など最も利用する社員が多い部署と協力して選定を進めるべきだろう。

 働き方改革において各種のITツールが果たす役割は大きいが、それとセットで検討したいのが物理的な執務環境そのものの見直しだ。先進的な企業の中には見学コースを設けている場合もある。そうしたリアルな場に足を運んでみれば大きな刺激やヒントが得られること間違いなし。自社に欠けていることを自身の目で確かめることが、今後の取り組みの足がかりとなるだろう。