[五味明子のLock on!& Rock on!]

変わりゆくコーディングスキルのニーズ ~ CiscoとSalesforce.com、それぞれの「コード」へのこだわり

2017/06/26 - 06/30

2017年7月4日(火)五味 明子(ITジャーナリスト)

先週は米国で数多くのITカンファレンスが行われた1週間だったが、筆者はラスベガスで開催された「Cisco Live US 2017」とサンフランシスコでの「TrailheaDX '17」に参加する機会を得た。前者はもちろんCisco Systemsの年次プライベートカンファレンスであり、後者はSalesforce.comがデベロッパカンファレンスとして位置づけた、今回で2回めとなるイベントだ。この2つのカンファレンスの取材を通して見えてきた「現場に求められるコーディングスキル」について、今回は触れてみたい。

ネットワークがコードになる日 - そのとき“シスコ職人”はどうする?

 既報(http://it.impressbm.co.jp/articles/-/14672)の通り、Cisco Live US 2017で最もフィーチャーされていたのは、Ciscoがカンファレンス前にすでに発表していた新しいネットワーク構想「The Network. Intuitive.」だ。核となるアーキテクチャは「Cisco Digital Network Architecture(DNA)」と呼ばれ、ASIC搭載のプログラマブルスイッチ「Cisco Catalyst 9000」シリーズを中心に、直感的なダッシュボードの「DNA Center」、メタデータのふるまいを通して暗号化されたままのトラフィックからマルウェアを検知する「Encrypted Traffice Analytics」などで構成されている。

「次世代ネットワークはコードがネットワークになる」というCiscoの新戦略。ネットワークエンジニアにもっとも求められるスキルセットは汎用的なコーディング能力だと多くのエグゼクティブが強調している
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 The Network. Intuitive.の特徴について、キーノートに登壇したCiscoのチャック・ロビンスCEOは「マシンラーニングを繰り返すことで人間のインテント(意図)とデータのコンテキスト(文脈)を正確かつ迅速に読み取り、ネットワークの信頼性とスケーラビリティをより高め、複雑性を排除する」と語っている。とくに威力を発揮するのはマルウェアのリアルタイム検知とオペレーションコストの削減だ。

 6月20日にCisco DNAが発表された時、このアーキテクチャおよびThe Network. Intuitive.で最も注目されたポイントは「AIイネーブルなネットワーク」だったと記憶している。実際、ロビンスCEOはCatalyst 9000シリーズについて「IOSを全面的に書き換えた」点を強調していたが、2017年のIT業界を代表するバズワードでもあるAIを実装した新製品であれば、Cisco最大の年次カンファレンスの場でのリリースにふさわしい。

 だが、現場で何人かのエグゼクティブに話を聞くと、どうもCiscoが今回の新ネットワークにこめた意図はAIそのもののクローズアップではなく、AIのパワーでもってネットワークがよりプログラマブルになったという点だ。つまりネットワークエンジニアには、Ciscoスイッチの特殊な設定や独特のオペレーションに特化するスキルよりも、「ネットワークはコードであるという認識が必要であり、コードを書く技術の向上が求められる」とCisco エンジニアリング部門シニアバイスプレジデント ラビ・チャンドラ(Ravi Chandra)氏は語っている。

 Catalyst 9000はプログラマブルスイッチとして設計されているが、「Catalyst 9000をベースにしてAPI指向のプログラマブルネットワークを構築することで、よりモダンなアプリケーションワークロードの稼働を可能にする」(チャンドラ氏)ことを目指しており、スイッチの提供形態も売り切り型ではなく、いくつかのサービスを実装したサブスクリプション型が予定されている。大ざっぱにいえば、The Network. Intuitive.ではこれまで“シスコ職人”が手がけていたオペレーションについてはAIが担当する部分が大幅に増えることになる。

Cisco Live会場に展示されていた次世代スイッチ「Cisco Catalyst 9000シリーズ」の実機
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Ciscoのエンタープライズネットワーキング&モビリティ部門でマーケティング担当バイスプレジデントを務めるプルシャント・シェノイ氏

 Ciscoのエンタープライズネットワーキング&モビリティ部門でマーケティング担当バイスプレジデントを務めるプルシャント・シェノイ(Prashanth Shenoy)氏は「21世紀のネットワークエンジニアに最も必要なスキルセットは、以前の“シスコ職人”的な特殊技術ではなく汎用的なコーディング能力」とはっきりと言い切っていた。Ciscoの技術に特化したネットワークエンジニアがこれをどう受けとめるかは別にして、ネットワークの世界にも確実にプログラマブルの波が急速に押し寄せているのは間違いない。

デベロッパエクスペリエンス(DX)の向上がカスタマエクスペリエンス(CX)を導く

 “Network is Code”を掲げるCiscoとは対象的に、プログラミングの世界に“Code”だけではなく“Low Code / No Code”のコンセプトを持ちこんでいるのがSaaSベンダーのSalesforce.comだ。同社のお膝元であるサンフランシスコで開催された「TrailheaDX '17」<6/28 - 6/29>(http://it.impressbm.co.jp/articles/-/14683)には6000名を超えるSalesforceデベロッパ/アドミンが参加し、盛況のうちに幕を閉じたが、このカンファレンスでSalesforce.comが一貫して呼びかけていたのは「デベロッパとアドミンの融合」であり、「Code / Low Code / No Codeの間にあるギャップを埋める」というメッセージだった。

 周知の通り、Salesforce.comはSaaSベンダーの中でもCRM(顧客関係管理)に特化した会社である。したがって、Salesforceアプリケーションの開発者はコーディングスキルのいかんにかかわらず、顧客にとってより良いエクスペリエンスを提供することが何よりも重要になる。そのためにはHeroku(Salesforce.comのPaaS環境)やForce.comで日常的にコーディングするデベロッパだけでなく、コードを書く量は多くなくともワークフロー構築やマシンラーニングによるアプリケーションの処理能力向上に関わるアドミン、この両者の相互補完が欠かせないという姿勢から開発者向け製品もリリースされている。重要なのはコードよりもアプリケーションであり、アプリケーションを開発するという最終ゴールのためにCode、Low Code、No Codeの三者が同じ言葉を使って協力しあうことが前提なのだ。したがって、コーディングスキルが高くなくても開発に参加しやすい一方で、Salesforceアプリ開発の現場でしか通用しない独特の用語(“サンドボックス”や“組織”など)も少なくない。

 今回のTrailheaDX '17においてSalesforce.comは3つの大きな発表を行っているが、中でも「デベロッパとアドミンの融合」という点から見て興味深いのはサードパーティツールによるSalesforceアプリケーションの開発を実現する「Salesfoce DX」だ。まだオープンベータの段階ではあるが、「これまでForce.comやLightning、HerokuといったSalesofrceに閉じた環境でしかCRMアプリケーションの開発ができなかったが、Salesforce DXにより、JenkinsやGitHub、あるいは標準的なテキストエディタからの開発が可能になる。

Salesfoce以外の標準的な開発環境でのアプリ開発を可能にするソースドリブンな「Salesforce DX」はデベロッパとアドミンのギャップを埋める存在として期待される。正式リリースは2018年の予定
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Salesofrce.comでプロダクト担当マーケティング バイスプレジデントを務めるディラン・スティール氏

 自由なプログラミング環境を好むデベロッパにとってこれは朗報だ。いうなればCodeとLow Codeのギャップを埋め、デベロッパエクスペリエンス(Developer Experience)を向上させる製品となる」とSalesofrce.comでプロダクト担当マーケティング バイスプレジデントを務めるディラン・スティール氏は筆者とのインタビューで語っている。今後もSalesforceアプリ開発者の裾野を拡げるため、そしてカスタマエクスペリエンスの向上をはかるため、同社による“標準化”へのアプローチはより進んでいくと見られる。

◇ ◇ ◇

 ネットワークをコード化し、API指向を取り入れ、従来のイメージからの脱却を図ろうとするCisco、アプリケーションセントリックでありながらもCodeとLow Code、No Codeの間にある壁を取り除き、開発現場におけるサイロ化の解消を図るSalesforce.com──。レイヤーが異なる両者だが、「コード」への訴求はますます強くなっていくことは間違いない。

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