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"アイ"は現場を変える!? ファームアイとアイフォーカス・ネットワークが最先端技術で挑むニッポンの課題

2017年10月5日(木)五味 明子(ITジャーナリスト)

2017年9月最終週の最終日となった9月30日、2つの国内企業の発表会が都内で行われた。ひとつはヤンマーとコニカミノルタによる農業ITの合弁会社「ファームアイ」の設立会見、そしてもうひとつは国産AIエンジンの開発に取り組む「アイフォーカス・ネットワーク」の新社長就任会見だ。どちらも社名に"アイ"が含まれる両社だが、それぞれどんな"アイ"をプレゼンスにしようとしているのか。今回は両社が"アイ"でもって向き合おうとしているニッポンの課題、そしてそれらのソリューションとなるITの可能性について考えてみたい。

日本の農業の課題解決にリモートセンシングで臨むファームアイ

(写真1)ファームアイ 吉田社長

 ヤンマーとコニカミノルタの合弁会社として誕生したファームアイは、ドローンによる広範で精密なほ場のリモートセンシングサービスを農家に提供する事業会社だ。設立記者会見で発表された内容の詳細に関しては別稿(https://dcross.impress.co.jp/docs/news/000124.html)を参照していただだければと思うが、長年に渡って国内農家を対象にさまざまなかたちで営農支援を行ってきたヤンマーと、農業分野にも実績のある高いセンシング技術とデータ分析技術をもつコニカミノルタがタッグを組み、「現代農業が抱える課題にITを駆使して果敢に取り組み、データにもとづく土作りを進めていく」(ファームアイ 代表取締役社長 吉田博氏)ことを謳っている。

 ここであらためて吉田氏が言う"現代農業が抱える課題"を眺めてみよう。現在、少子高齢化による就労人口の減少はあらゆる産業に大きな影響を及ぼしているが、こと農業に関してはかなり以前から深刻な労働力不足、そして後継者不足が指摘されてきた。実際、2005年に335万人だった農業就業人口は2015年には209万人、約40%(126万人)の減少となっている。この傾向はさらに進み、2020年には167万人までに落ち込むことが予想されている。

 少子高齢化が引き起こす問題は、単に農業就業人口の減少や後継者不足といった"量"だけにとどまらない。後継者へのノウハウ伝承や集約/大規模化する農地の管理といった"質"の面でもさまざまな弊害が生まれている。とくに農地の大規模化は就業人口の減少と反比例するかのように急激なペースで進みつつあり、ITを含む機械による効率化/省力化が叫ばれているにもかかわらず、その普及が追いついていないのが現状だ。また、個人の"経験と勘"にひもづく農業のノウハウをデータとして体系化する作業も容易ではなく、貴重なナレッジが誰にも継承されることなく消えてしまう可能性も日増しに大きくなっている。

(図1)日本の農業を取り巻く状況は厳しく、少子高齢化による就労人口の減少、平均年齢の高齢化、そして農地の集約化と大規模化は歯止めが効かない状態が今後も続くことは確実。ITによる効率化がもっとも望まれる分野でもある
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 ファームアイはこうした日本の農業が向き合わなければならない課題に対し、ドローンによるリモートセンシングを軸にして「これまで見えなかったものを"見える化"する」ことから解決の緒(いとぐち)を提供するとしている。ドローンに取り付けたセンサーカメラが"目(アイ)"となって広いほ場を空から一気に面で計測する。その目には人力では決して見えてこなかったさまざまなデータが写りこんでいる。これらのデータをもとに作物の生育状況や土壌の肥沃度を的確に分析することで、レベルの高い営農支援メニューを提供していくことが可能になるという。

 「リモートセンシングによる"データにもとづく土作り"が普及すれば、作業の効率化や省力化につながるだけでなく、新たに農業に携わる方や経験の少ない農家でも的確で効率的な農業を営むことができる」と吉田氏は強調する。

(図2)リモートセンシングにより高精細なほ場のデータを把握することで、いままでよりも深いレベルでのコンサルティングや営農支援が可能になる。ヤンマーが従来から展開するITによる営農支援「SMART ASSIST」との組み合わせも期待できる
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 2023年度にはリモートセンシング事業で100億円の事業規模を目指すというファームアイだが、国内だけでなく海外での実証実験も近いうちに開始する予定だ。少子高齢化が抱える問題の縮図ともいえる国内農業の現状を、ITによってどこまで支援することができるのか - ファームアイのチャレンジは日本の農業だけでなく、日本のITの可能性を占う上でも興味深い取り組みといえる。

"成長するAI"で顧客のビジネスを支援するアイフォーカス・ネットワーク

(写真2)アイフォーカス・ネットワーク 早川社長

 「AIは100%の精度でなくてもいい。むしろ80%の段階から顧客と一緒に成長できるAIであるほうが重要」 - 9月付けでアイフォーカス・ネットワークの代表取締役社長に就任した早川典之氏は就任会見の席上でこう発言した。

 アイフォーカス・ネットワークは「世界一低コストで導入しやすいAIエンジン」の開発を掲げ、2012年に設立されたBtoBtoC企業だ。起業メンバーは当時、アイエニウェアおよびサイベースの代表取締役社長を務めていた早川氏の部下だった面々である。このころ、両社はちょうどSAPに買収されており、早川氏もSAPジャパンにデータベース&テクノロジ営業統括本部長として一時、籍を置いていた。その後、オープンテキストなど数社の外資系企業の日本法人トップを務めた早川氏は、かつての部下たちにふたたびAIベンチャーの社長として迎えられることになる。「外資系企業はこれでもう卒業した。今後は日本人の手によるAIソリューションを提供する立場として、市場の発展に力を尽くしていく」(早川氏)。

 アイエニウェア時代から"Unwired" - いまで言うIoTの潮流にフォーカスし、サイベース時代はアナリティクスビジネスに深く関わってきた早川氏が"日本発のAI"にこだわるのは、「日本人のビジネスに適した、対話を基本とした柔軟なAIプラットフォームが必要」(早川氏)と考えるからだ。ここで言う"柔軟なAIプラットフォーム"とは、顧客とともに成長することができるAIを指している。日本人が好むきめ細やかなサービスを機械化することは容易ではない。それならば最初から修正変更しやすいプラットフォームをベースにAIシステムを構築するほうが効率的ということになる。

(図3)アイフォーカス・ネットワークは5種類の異なるタイプのAIエンジンをもっており、場合に応じて使い分けが可能。会話AIやオントロジーAIにより、自然な流れの会話をチャットボットで実現することも容易
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 「最初から100%完璧なAIではなく、80%程度の精度でもすばやく顧客にサービスを提供できるエンジンのほうが現実のビジネスでは求められている。AIも人間と同様に、実世界で使われながら賢くなっていく」と早川氏は強調するが、同社の顧客事例でもある楽天カードの自動応答チャットボットはまさにその最たるユースケースだろう。

(図4)アイフォーカス・ネットワークが提供するAIエンジンは現在は「Qlofune」という名前だが、来年には「ENOKI」に変更される予定。フォーカスするのは「過去の経験を再現し、企業活動を支援する」(早川氏)レベルのAI
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 楽天カードのユーザがチャット中に入力した問い合わせの内容を、会話の処理に特化したAIエンジンが理解し、最適な返答を自動ですばやく行うシステムだが、ここで入力された内容のひとつひとつがAIエンジンの精度を高めていく役割を果たす。つまりエンドユーザとの対話(会話)がそのまま顧客のAIアセットとして蓄積されていくのだ。最初はある程度の精度から、しかし早く始めることにこだわり、その後、ビジネスの展開スピードにあわせてAIエンジンもユニークに成長していく - 日本企業は最初から100%完璧なシステム納品を求めるケースが多いが、その分、ビジネスの変化に迅速/柔軟に対応できないという悩みを抱えがちだ。そうした中、今後、こうしたアジリティ重視の"アイ(AI)"のアプローチが現場でどう受け入れられるかに注目していきたい。

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