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オンデマンドCRM「Salesforce」をプラットフォームとしてSaaSが日本のIT産業を活性化する

2008年2月20日(水)井芹 昌信

セールスフォース・ドッコムの「Salesforce」は、顧客管理や営業支援のさまざまな機能の中から、ユーザーが必要な機能のみを必要なときに利用できる、統合型オンデマンドCRM(Customer Relationship Management)だ。これまで企業ごとに独自に開発するケースの多かったビジネスアプリケーションの分野に、SaaS(Software as a Service)の考え方を取り入れたものである。このWeb 2.0の思想を取り入れた新しいイノベーションは、日本のIT社会にどのような変化を要求するのだろうか。ビジネスの戦略やこれからの展開について、同社日本法人代表取締役社長の宇陀栄次氏にお話を伺った。

インタビューア:井芹昌信(インプレスR&D All-in-One INTERNET magazine2.0 発行人)

コンシューマ向けWebテクノロジーをビジネスアプリケーションで利用する

井芹:まず、セールスフォースのテクノロジーと戦略について教えてください。

宇陀:ビジネスモデルとテクノロジーは表裏一体のものだと思うのですが、ひと言で表現すると「ビジネスWeb」ということです。元々Webは、コンシューマWebという形でどんどん話が進んで、技術も拡大しました。この技術をビジネスアプリケーションにどう応用するかというのがキーです。一日に1億2000万とか3000万トランザクションというのは我々には普通のことなのですが、法人向けアプリケーションの世界では「そんなにあるのでは、いずれどこかで破綻するでしょう」とおっしゃる方がいます。しかし、コンシューマWebのトランザクションは、その10倍ではきかないですよね。それが、ほとんど無停止で動いています。例えば銀行のシステム統合では年に何度か止めて作業するという例がありますが、GoogleでもYahoo!でも「今週はメンテナンスのために停止します」などということは聞いたことがない。それならコンシューマWebは何もメンテナンスをしていないのかといったら、決してそうではありません。多分、トラブルもバグもスループットもいろいろな問題がたくさんあって、それをフィックスしながら動かしている。実際、台風が来た時にアクセスが集中してサーバがダウンし、緊急に対応したという話を聞いたことがあります。けれど、我々はそういうことはほとんど気にしないで使えているわけです。従来の法人向けITでは、例えばトヨタとか大手銀行といった大企業のシステムで培われた技術を、いかに中小規模の企業向けにブレークダウンするかという発想だったと思います。しかし本当は、中小規模の企業は大企業よりもコンシューマに近い位置にいる。だから、コンシューマ向けの技術を企業向けに強化する方が、コストパフォーマンスなどいろいろな意味でもメリットがあると思うのです。

井芹:つまり、これまでインターネットがコンシューマで培ってきたテクノロジーを、ビジネスの世界に適応させるということですね。

宇陀栄次氏
セールスフォース・ドットコム代表取締役社長
宇陀 栄次氏
http://www.salesforce.com/jp/

宇陀:具体的な例を紹介しましょう。例えば、Yahoo!に自分でカスタマイズするMy Yahoo!という機能がありますね。あれはカスタマイズというよりパーソナライズだと思うのですが、ああいうものを法人のアプリケーションで経験したことがありますか。ないと思います。個人のパソコンでカスタマイズしているということはあるでしょうが、それはパーソナライズではなくマイアプリケーションやマイファイルに過ぎないわけで、センター側のアプリケーションではそこまではやっていません。セールスフォースでは、例えばある薬品会社の例ですが、入力した自分のお客さんの履歴を自動的に計算・ソートして、前回訪問してから最も日数がたっているところが出てくるように、ラウンダーの方が自分で設定できます。「このお客さんの所にはしばら行っていないな」ということが毎日分かるのです。そこには、住所や電話番号などのURL情報もついているので、そこからアポイントをとり、カレンダーを出して予定を入れる。終わったら数値が0に戻るので、次のお客さんが一番上にくるというわけです。そういうことが、各ラウンダーごとに簡単に設定できます。つまり、パーソナライズという機能は、ビジネスアプリケーションでもこういう使い方があるのです。我々のやり方はオンデマンド型と言われたり、新奇なことのように言われますが、冷静に考えたら非常にポピュラーなことです。例えば、自家用車を買う場合は、いろいろな思いを込めて値段と相談しながら、メーカーやブランドを考えて、グレードをどうしようかと悩み、お金を都合して買います。しかし一方で、その気持ちとは関係なく、必要があればさっとタクシーに乗りますよね。「自家用車を持っているのにタクシーを使っていいのだろうか」などと悩む人はいないと思います。また、旅行に行った先々に家を持つという人もいません。旅先ではそれなりのグレードを選んで宿泊し、そこではセキュリティも担保されていろいろなサービスも提供される。つまり、所有することと必要な時に借りること、用途が明確に違う部分があると思うのです。

ITでも、じっくり作って自分のものとして持ちたいというものも今後もあるでしょう。しかし、そんなに思い詰めて検討する必要があるのかというアプリケーションだってあると思います。セールスフォースは、ITにおけるタクシーやホテルのような位置づけになります。ただし、この場合に重要なのが先ほどのパーソナライズです。これしかだめですというと、きっと受け入れられない。カスタマイズやパーソナライズができるという柔軟性があるから、所有から利用へということができるわけです。また、自分たちで作って所有するのは時間も人もお金もかかるが自分の思い通りになるのに対して、借りるのは所詮は既製品という既成概念があります。しかし、ITに関しては既製品の方が優れている場合もあります。なぜなら、いろいろな人の知恵の集約だからです。

井芹:従来は、日本ではシステムインテグレーターなどに特注して自分たちだけのものを何億もかけて作るか、こなれてはいるけれど融通のきかないパッケージかの2種類しかありませんでした。その間にもっと別のマーケットがあったわけですね。でも、今までのシステムインテグレーターのマーケットとの競合は起こるのではないでしょうか。

宇陀栄次氏

宇陀:重なる部分がまったくないというわけではありませんが、共存できるものだと思います。現に、ある大手のインテグレーターの方が「最初は、SaaSというのは我々インテグレータにとっては競合する存在かと思っていたが、むしろお互いのいいところを融合して提案するという可能性があるということが分かってきました」とおっしゃっていました。どういう意味か私なりに解釈したのは、お客さんの要望全体の中で、この部分はどうしてもうちで特注で作るしかないしそれなりの価格で納得してもらえるが、この部分は手間のわりに利益にならないということがあるのだと思います。しかし、インテグレーターとしては、ここはやるけれどこちらはやらないという受け方はできません。だから結局全体で受けるが、すると利益率的にもよくない。そういう場合、どこでも使うような簡単なアプリケーションは、お客さんと合意したうえでSaaSのものを組み込めばいいということです。

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