[技術解説]

サーバー統合だけではない仮想化の魅力

早わかり、仮想化のすべて Part3

2008年10月17日(金)IT Leaders編集部

いつの間にか管理困難なほどに増えたサーバーを、適正台数に減らせる点に着目して仮想化に取り組む企業は多い。しかし仮想化の利点は本来、「情報システムの機動力を高められる」こと。ここに目を向けると、“隠れた”キラーソリューションが浮かんでくる。例えば、基幹業務パッケージのアップグレード。仮想化技術の活用によって、要する費用と時間を大きく減らせる可能性がある。ほかにもサーバーの縮退運転による消費電力の削減など、仮想化技術の適用範囲は広い。

仮想化でERPのアップグレードを乗り切る

SAPジャパン SAP Co-Innovation Lab Tokyo マネージャー
渡邊周二

ヴイエムウェア テクノロジーアライアンス部長
森田徹治

基幹系システムにERP(統合業務)パッケージを使っている企業にとって、最新版へのバージョンアップは避けて通れない。法制度の変更への対応や新しい機能やテクノロジーを使うことが、パッケージ・ソフトの醍醐味であるからだ。しかし現実にはアップグレードを凍結している企業が少なからず存在する。「安定稼働しているシステムを修正したくない」のが大きな理由だが、バージョンアップといえども相当のコストと工数がかかる側面もある。

事実、SAPでは、システムの安定稼働を目指すため、「3システム・ランドスケープ環境」で開発することを推奨している(図3-1)。これは「開発機」と「テスト機」、「本番機」の3セットのサーバーを用意して開発やバージョンアップを進めるもの。3セットのすべてに、同じOSとデータベース・ソフト、ERPパッケージなどを導入。まず開発機を使ってERPパッケージのパラメータの設定や、追加プログラム(アドオン)を付加する。その後、開発機のERPパッケージの設定情報や追加プログラムをテスト機に移行して動作を検証。すべての機能が問題なく動作することを確認したら、最後にテスト機のERPパッケージの設定情報や追加プログラムを本番機に移行して本稼働させる。

画像:図3-1

バージョンアップの場合はこれに加えて、「移行機」を用意するのが普通だ。移行機はバージョンアップ準備用のサーバーである。稼働中の本番システムに対し、バージョンアップに必要な修正ファイルをすべて適用して動作確認したうえでバージョンアップ作業に入る。本番システムに最新の修正ファイルが適用されていないことがあるからだ。

基幹系システムは年末年始や夏季休暇に計画的に停止して、それまでに公開された修正ファイルをまとめて適用したり、場合によってはカーネル(ERPコア)を更新したりする。計画停止後に公開された修正ファイルやカーネルについては、次回の計画停止まで持ち越しになっていることがある。そこでバージョンアップに必要な修正ファイルを適用した移行機を用意する。

つまりバージョンアップをするには、それぞれにOSやデータベース・ソフトなどをインストールした4セットのサーバーを用意しなければならない。しかも、サーバーはSAPのプロダクト毎に1台必要なので、複数のプロダクトを使っている場合、必要なサーバーの台数はその数倍になる。だがバージョンアップが終われば、移行機や開発機などの稼働率は低下するのでIT投資の面からは効率が良くない。

サーバー減らし、セットアップも楽に

そこで考えられるのが、仮想化技術の活用である。移行機や開発機などの稼働率はプロジェクトの進捗によって変化し、常にすべてが高負荷状態とは限らない。したがって新サーバー上に4台の仮想サーバーを用意し、それぞれ移行機、開発機、テスト機、本番機として使い分ければ、理論的にはサーバーを1台にすることも可能なはずである。加えてサーバーのセットアップの作業も楽になるはずだ。

こう考えてSAPジャパンは、ヴイエムウェアとインテルの2社と共同で、ERPパッケージのバージョンアップにサーバー仮想化ソフトを活用し、問題なくできるかどうかを検証した。

具体的にはヴイエムウェアのサーバー仮想化ソフト「VMware Infrastructure 3」を使って、SAPのERPパッケージを「R/3 Enterprise ext 2.00」から「SAP ERP 6.0 SR2」にバージョンアップした。同時にデータベース・ソフトをマイクロソフトの「SQL Server 2000(32bit版)」から「同2005(64bit版)」に、OSを「Windows Server 2003(32bit版)」から「同2003(64bit版)」にバージョンアップした(図3-2)。検証結果を先に示すと、当然と言えば当然かも知れないが、実際にバージョンアップのコストや作業負荷を減らせることを確認できた。

画像:図3-2

もう少し詳細に、通常のバージョンアップと仮想化技術を活用した場合で、作業フローがどう変わるかを整理しておこう。次ページの図3-3に示すように、サーバーの調達から新しいERPパッケージのパラメータ設定までのプロセスは、ざっと7ステップからなる。このうち大きく変わるのはステップ2とステップ5の2カ所だ。ステップ2は移行機をセットアップする工程。ステップ5は新システムに使う開発機、テスト機、本番機をセットアップする工程である。

画像:図3-3

仮想化技術を使う場合のステップ2では、新サーバー上に移行機として使う仮想サーバーを作る。実際の作業内容は、まず新サーバーにVMware Infrastructure 3をインストールする。それから「VMware Converter」と呼ぶツールを使って、現行システムの本番機で稼働するOSやデータベースソフト、ERPパッケージを仮想サーバーに自動変換する。通常のバージョンアップのように新サーバーにソフトウエアを手作業でインストールする必要がないのがポイントだ。ただし、通常のバージョンアップと同様にERPパッケージの修正ファイルを適用し、カーネルを更新しなければならない。

ステップ5では開発機やテスト機をセットアップする。通常SAP製品はシステム毎に一意のシステムID(SID)を設定する。開発機(DEV)やテスト機(TST)といった具合だ。SIDはディレクトリ名やファイル名にも使われ、個別のSIDを保持するのに開発機やテスト機のそれぞれにシステムコピーを実施する必要がある。

ただ、OSとデータベース・ソフトをインストールしたシステムの状態を仮想化技術で複製すれば、それらをインストールする作業は1回で済む。新サーバー上に1台の仮想サーバーを作りOSなどを導入。続いて仮想サーバーを2台分複製して開発機、テスト機、本番機として使い分ける。

安心して“手戻り”ができる

仮想化技術を使ったバージョンアップのメリットは、サーバー台数の削減やセットアップ作業の軽減など数値化できるものばかりではない。ある種の「安心感」も得られる。開発やテストの際中に不具合が見つかった時、以前の状態に戻せるのだ。

VMware Infrastructure 3には、ある時点の仮想サーバーの状態を保存しておく「Snapshot」という機能がある。保存した仮想サーバーを読み込むと、仮想サーバーの状態をSnapshotを作成した時点に復元する。これにより、修正モジュールの適用中や適用後に不具合が出ても、適用前の状態にすぐ戻れる。

ERPパッケージのパラメータ設定は数100項目にも及ぶうえ、追加プログラムも付加していることが多い。そのため通常は開発機を以前の状態に復元するのは難しい。やむを得ず復元すれば大きな手戻りが発生する。企業の基幹系システムでの利用が広がり、「第2のOS」と言われ始めた仮想化技術だが、ERPパッケージの導入やバージョンアップに活用すると、その魅力はさらに大きくなる。

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