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次世代データセンターの施設要件と動向─堅牢性だけでなく、発熱対応や環境保全性の確保へ

2009年2月5日(木)岩佐 義久、陳 傑、加藤 肇

データセンター施設は堅牢性が重要視されてきた。地震や火災をはじめとする災害リスク、テロや不法侵入といった物理セキュリティ・リスクなど各種リスクに対して信頼性を確保することは、今も第一命題であることに変わりはない。しかし、最近は堅牢性以外にも、電源および発熱負荷の高密度化への適応、省エネルギーを中心とする環境保全性など、多様な要件を考慮する必要性が高まっている。
※本稿は日本IBM発行の「PROVISION Winter 2008 No.56」の記事に加筆・編集して掲載しています。

図1 主な金融系企業のデータセンター竣工年図1:主な金融系企業のデータセンター竣工年

現在運用されている主な大規模データセンターの中には、1980年代以前に構築されたものも多い。24時間365日稼働するデータセンターの設備機器更新の目安となる15年を越えたものが、全体の6割程度を占める(図1)。それ以降に建設されたものを含め、多くのデータセンターが現在、改修工事や更新工事による再構築もしくは新たなデータセンターの構築を検討する必要性に迫られている。

理由は、単に建物や設備機器が老朽化し、寿命がきたからだけではない。データセンターの施設が、情報システムのテクノロジの進展に対応しきれないといった問題もある。非効率的な設備システムによるエネルギーの浪費に対し、企業活動としてエネルギーコストと環境負荷の削減が求められていることも起因している。

データセンター施設は、まさに過渡期にあると言える。これからデータセンターを構築するに当たって考慮すべき重要要件は三つある。基本となる「高信頼性」に加え、ITの技術動向を踏まえた「テクノロジへの適応性」、省エネルギーにより地球環境への負荷を削減できる「環境保全性」だ。

データセンター施設の基本─高信頼性を確保する

データセンター施設の信頼性向上を目的としたガイドラインが各所から発行されている。いずれも長年の経験やデータを基に作成されており、データセンター構築の際に基本要件として引用したり、目標レベルとして参照したりすることは、高信頼性確保に向けて有用な手段になる。

一方、データセンターを取り巻くリスクは多種多様化してきている。基準やガイドラインだけではリスク対策として網羅できないこともあり、データセンターごとにリスクを定義し、対応方針を定めたうえで適切な対策を実施することが求められる。

01 データセンター施設の基準やガイドライン

世界中に存在している基準やガイドラインは2種類に大別できる。情報システムの重要度や稼働要件などに合わせて施設の信頼性要件を等級別に区分・規定しているもの。そして、等級を区別せず施設として備えるべき要件を基準として記述しているものだ。代表的な基準やガイドラインの例を見てみよう。

等級を区分している例

「Tier Performance Standards」
発行:The Uptime Institute(TUI)

米国でデータセンターを所有・運用している企業約60社の専門家で構成したチームが中心となり、施設の構築や運用を通じて蓄積してきた情報やノウハウを集大成としてまとめた。要求されるパフォーマンスに合わせて施設要件をTierⅠ〜Ⅳの4レベルに区分している。ベンチマーク用として一般公開され、多くの企業が参照していることから業界のデファクト・スタンダードになってきている[1](表1)。

表1 Tier Performance Standardsの主な項目と概要
項目 Tier I Tier II Tier III Tier IV
ITサポートActive設備機器の構成 N N+1 N+1 N after any failure
供給経路 1 1 1 active & 1alternate 2 simultaneously active
不停止メンテナンス No No Yes Yes
障害耐性(単一障害) No No No Yes
区画分け No No No Yes
連続冷却(負荷密度に従属する) Yes (Class A)

*詳細はTUIのWhite Paper「Continuous Colling Is Required for Continuous Availability」を参照

ANSI/TIA-942-2005
発行:American National Standard Institute(ANSI)

TUIのTierレベルを基にし、レベルごとに建築・設備・通信など220項目にわたり詳細要件を展開している[2]。

DP Facility Reliability
Requirements(IBM社内標準)

各国の自社データセンター施設で蓄積された経験やノウハウを基に、IBM社内標準としてガイドラインを策定。ITサービスの要件に応じて、施設要件を信頼性の観点からLevel1〜4に区分し、レベルごとに全273項目の要件を規定している。施設の運用に関する要件も含む。

等級を区分していない例

ISO/IEC17799:2005

セキュリティの観点でまとめた国際規格で、第9章でデータセンターの物理的要件を規定している。

「金融機関等コンピュータシステムの安全対策基準」
発行:財団法人金融情報システムセンター(FISC)

情報システムの安全対策の観点で設備基準・技術基準・運用基準を規定している。設備基準にデータセンター施設に関する対策要件がある[3]。

IT-1002「情報システムの設備環境基準」

発行:社団法人電子情報技術産業協会(JEITA)情報システムの設備環境条件という視点で、満たすべき施設要件を中心に基準を策定。IT-1001Bでは具体的な対策事例を解説している[4]。

02 多様化するリスクへの対応

こうした基準やガイドラインへの適合は遵守すべき最低限のラインともいえる。近年では、爆弾や車両突入といったテロ・リスクも無視できなくなっており[5]、各種対策を実施するケースも増えている。

データセンターの信頼性をさらに高めるには、計画の段階で考えられるすべてのリスクを定義・分析することが大切だ。具体的には、自然災害、施設・設備、人的行為(人為)に起因するリスクに対し[6]、情報システム戦略や重要度に応じて対応方針を定めることが肝要である(図2)。

図2 データセンターを取り巻くリスク

テクノロジーの進展に柔軟に適応する

情報システム機器の高性能化に伴い、システムの設置環境は高密度化が進み、データセンターの消費電力と発熱量は増加する一方である。そのため多くのデータセンターにとって、とりわけ機器や施設内の発熱への冷却対策と随時拡張に対する適応性は重要な要件になっている。

01 情報機器導入時の熱環境予測と冷却対策

高発熱の情報システム機器を導入する際に起こりやすい問題として、単位面積当たりの発熱量がコンピュータ・ルームの冷却能力を上回ることが挙げられる。この問題を考慮せずに機器を設置した場合、コンピュータ・ルーム内に熱だまりが発生し、最悪のケースではシステム停止に至る恐れもある。そのため導入計画時には、発熱量を把握すると共に、設置後の熱環境を事前に把握することが必要だ。

熱環境を把握する方法の1つに、サーマル・シミュレーションがある。温度分布や気流分布を予測して、適切な冷却対策を実施するものだ。停電が起きて空調設備が停止した際の解析もシミュレーションの項目に含んでいる。高密度のコンピュータ・ルームでは、空調が数分間停止しただけで室内の温度が著しく上昇する可能性がある。このため、あらかじめ停電まで想定した冷却対策を考慮しておくことは、データセンターの信頼性を確保する点で大きな意味がある。

機器を集中配置するのではなく、コンピュータ・ルーム全体に分散配置するのも、高発熱の情報システム機器を設置する際の冷却対策の1つだ。発熱量を平均化することで熱だまりが生じるのを防ぎ、コンピュータ・ルーム設計上の冷却能力を超えないようにする。ただし、この方法は広い設置スペースが確保でき、かつ高密度機器の割合が少ない場合に可能な手段である。

設置スペースが限定されて機器の設置が高密度になる場合は、情報システム機器自体に冷却装置を設ける方法もある。その一例が、IBMのRear Door Heat eXchangerである。サーバー・ラックの背面に冷却装置を設置してコンピュータ・ルーム内に排出される熱を減らし、空調システムの負荷を軽減すると同時に熱だまりの発生を防ぐ。サーバーの稼働状況に応じて冷却能力をきめ細かく制御できるため、省エネルギーの効果もある。

02 システム設置環境の変化への柔軟な施設対応

データセンターを構築する際、将来のビジネス拡大を想定して設置機器を予測するのは困難である。予測できたとしても、それに合わせて最大設備容量で施設を計画すれば、構築期間と莫大な初期コストがかかる。過剰な設備装置によるエネルギー浪費が生じることも考えられる。

こうした問題を解決し、ビジネス拡大やテクノロジ進展に柔軟に対応する方法としてユニット・タイプのデータセンターがある。IBMモジュラー・データセンター提供サービスは、ラックなどの情報システム機器、UPS(無停電電源装置)や分電盤などの電源設備、空調設備をユニット化したもの。構築期間の短期化に加え、設備の随時拡張や増設を可能にしている。

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