[株価から見るIT企業の強みと弱み]

公共依存から国内外でのM&Aによる成長路線拡大へ[NTTデータ 証券コード9613]

2009年3月5日(木)長橋 賢吾(フューチャーブリッジパートナーズ 代表取締役)

NTTデータ(証券コード9613)の株価が2008年10月末の急落から回復傾向にある(2008年12月末時点)。背景には、同社の足元の堅調な業績があるが、景気低迷に伴いIT投資は減少の方向にあることも確か。なぜNTTデータの業績は堅調なのか。筆者は、同社の戦略によるところが大きいとみる。つまり官公庁需要依存からの脱却と、M&Aによる事業拡大である。今回は、(1)官公庁と同社の関係、(2)M&Aによる事業拡大について整理し、これを踏まえて同社の今後の企業価値を考えてみよう。

官公庁向け売り上げは減少へ

 NTTデータといえば官公庁、特に中央官庁に強みをもつイメージが強い。事実、2007年3月期における売上高に占める公共比率は32.9%(図1)。情報サービス企業大手の平均的な比率は10%程度だから、NTTデータの公共へのウェイトはかなり高い。

図1 NTTデータ 分野別売上高推移(左軸、単位:百万円)および売上高公共比率(左軸、単位%)

 なかでも、同社の中央官庁向け売り上げにおいて多くの割合を占める社会保険オンラインシステム(年間700億円程度、各種資料より筆者が推定)、およびゆうちょ銀行の基幹システム(年間800億円程度、同)は、日本で最大規模のシステムとして知られている。

 なぜシステム運用に年間700億円も必要なのか? 厚生労働省が2005年にまとめた「社会保険オンラインシステム刷新可能性調査の結果について」(http://www.sia.go.jp/topics/2005/h0331.html)によれば、日本の社会保険庁の年間システム費用1108億円に対して、米国の社会保障庁の運用費はおよそ半分の462億円。両国では業務範囲が異なる部分もあるので単純比較はできないが、一つ言えるのは日本ではハードウェア維持費用が高い点だ。日本の場合、メインフレーム維持費用などのセンター設備・端末設備費用が全コストのうち61%を占めている。

政府の最適化計画が影響

 このメインフレームを中心としたハードウェア(レガシー系)維持のための膨大な費用は社保庁に限らない。それ以外の中央官庁にも共通する。そして、レガシー系以外では実現できないかというと当然、そんなことはなく、オープン系サーバーでも代用が可能な部分が多い。

 これを踏まえた最適化計画の一環として、政府は2012年までにレガシー系からオープン系へ移行することを決定しており、すでに一部で移行が始まっている。そのためNTTデータの官公庁向け受注は、2006年3月〜08年3月期にかけて増加した。

 ただし当然のことながら、増加は一時的なもの。政府は最適化計画によって、システム運用費を年間で最大25%削減することを計画している。このため単純に考えれば、NTTデータの中央官庁向けの売上高は2012年以降、25%減少する。そのほかの要因もあって、将来的に公共部門の落込みは避けられない情勢だ。

 それを補うべくNTTデータは、M&Aによる成長戦略に力を入れている。その基本方針は2点ある。(1)国内IT市場におけるシェア拡大、(2)海外への進出への足がかり、である。

 まず(1)について見よう。日本のITサービス市場規模は07年度でおよそ11兆円、過去5年の年平均成長率は5.2%(図2)。少子化や海外への生産拠点のシフトが進むとすれば国内ITサービス市場の成長率は今後、5.2%を下回る水準となる。

図2 情報サービス産業売上高(左軸、単位:百万円)および前年比(右軸、単位:%)

M&Aによる成長を加速

 一方、NTTデータの今期売上高は1.12兆円であり国内シェアは10%に達する。これだけの規模になると国内市場の伸びが鈍化すれば、同社の成長率も低下せざるを得ない。そこで成長を確保するために、同社はM&Aによって国内ユーザー企業の情報子会社を積極的に買収している。最近の例を挙げると、日本たばこ(JT)の情報子会社であるNTTデータウェーブ(今期予想売上高120億円)や新日鉱ホールディングスの情報子会社NTTデータCCS(同140億円)がある。

 (2)は成長の活路を海外に求めるもの。2010年3月期に海外売上高1000億円を掲げ、海外のITサービス企業の買収を積極化している。SAPを使ったシステム構築に強みをもつアイテリジェンス社(07年12月期の売上高は1億6370万ユーロ=262億円、07年12月の為替レート1ユーロ160円を適用)およびBMWの情報子会社のサークエント社(同期の売上高2億8600万ユーロ=457億円、為替レート同上)を買収。アイテリジェンスは今期から、サークエントは来期から同社の業績に寄与する見込みだ。

 今期は年後半からの景況感の悪化はあるものの、国内・海外の買収効果で計画並みの売上高1兆1200億円、営業利益1050億円の達成は可能と判断している。株価が堅調なのも、景況感が悪化し、野村総研を含む他社がそろって下方修正するなかで、M&A効果による増収増益の確度が高いことが要因と考えられる。

●Next:NTTデータは増収増益を継続できるのか?

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