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米国の連邦政府/自治体のIT化 2009年中に約25%がSaaS利用へ

2009年4月10日(金)

SaaS/Govカンファレンス 米国の連邦政府や州政府、自治体において、SaaSの利用が進みつつある。2月に米国で開催された「SaaS/Govカンファレンス」では、2009年中に25%の政府機関がSaaSの利用に踏み切ることが報告された。ただし「直近に導入する計画なし」も70%を超える。ワシントンDC市の事例発表も含め、同カンファレンスをレポートする。 (本誌)

2009年2月、米国ワシントンDCで米国の連邦政府や自治体に的を絞ったSaaS専門のカンファレンスが開催された。2007年から開催され、今回が3回目である。主催は、米政府機関専門の調査会社であるINPUT社と、SaaSの普及の一翼を担う米国ソフトウェア情報産業協会(SIIA)。プログラムの中から、INPUT社によるSaaSの利用動向と、事例発表を紹介する。

画像:SaaS/Gov 2009の会場風景。ホテル内ということもあり、アットホームな雰囲気が漂う。米GoogleとSalesforce.comのほか、9社がスポンサードしていた

講演
米政府におけるSaaS活用状況

INPUT社は「Outlook for Cloud Computing in the Government Market」と題して、米国政府や州政府におけるSaaSの利用状況、予測を報告した。それによると、2008年度(2007年10月〜2008年9月)の米国連邦政府のIT予算は、719億ドル(7兆2000億円)だった。そのうちSaaS関連の予算は2億5000万ドル(250億円)である。州政府・地方自治体はそれぞれ484億ドル(4兆8400億円)、2億ドル(200億円)であり、IT予算全体に占めるSaaSの割合は微々たるものに過ぎない。しかしINPUT社によると、年率25%を超えるペースで急拡大しているという。

表1に、同社が政府・官公庁のIT担当者45名(連邦官庁29名、州官庁16名)を対象に、SaaSとクラウド・コンピューティングの利用計画についてアンケート調査を行った結果を示す。これを見ると2009年中には、4分の1強が何らかの形でSaaSを利用することになる。SaaSの利用で先行しているのは州政府だが、より積極的なのは連邦政府であることも分かるだろう。

表1 米国連邦政府や州政府の15%はすでにSaaSを活用中
  連邦政府 州政府 全体
既にSaaSを利用している 11% 21% 15%
現在、SaaSを評価しており、2009年中に導入する 19% 0% 12%
SaaSを評価しているが、直近に導入する計画はない 33% 29% 32%
SaaSを評価していないし、導入する計画もない 37% 50% 41%

SaaSの利用を推進する要因は、ITコストの低減、スケーラビリティと機能の向上、先進アプリケーションの利用、コラボレーションの高揚などが挙げられる。一方で消極的な人々からは、プライバシやセキュリティ、他のアプリケーションとのインテグレーションの問題、標準仕様がない、カスタマイズに限界がある、といった懸念の声が挙げられた。

このあたりは、政府官公庁も民間企業も、大きくは変わらない。INPUT社の担当者は、「セキュリティやインテグレーションなどの課題は今後、改善され、今日の阻害要因はむしろ推進要因に変わっていくと見ている」と語った。

事例(1)
サンフランシスコの非営利サービス

次に事例である。サンフランシスコ市で、ホームレスや精神障害者の看護をしているNPO(非営利組織)、「ファミリーサービス・エージェンシ(FSA)」の代表者が、SaaSについて講演した。FSAはサンフランシスコ市の近郊6ヵ所に215人のスタッフを抱え(半数はボランティア)、1万2000人の患者にサービスを提供している。

FSAは、公的・私的な78種類の基金と24の募金プログラムから収入を得て運営しているが、2004年に赤字に転落した。医師は古いタイプライタを使ってカルテを作成し、パソコンは古い経理パッケージを動かすのがやっとのものだった。そのままではHIPAA(Health Insurance Portability and Accountability Act)と呼ばれる、健康保険情報の互換性と信憑性を保証するための条例の遵守が困難な状況だったという。

全面的にパソコンを買い換え、ソフトを用意する予算がないため、Salesforce.comを採用。ITに詳しいスタッフ2人が初期設定を行い、Webベースのデータ入力画面を、医師などが使い慣れている紙の帳票と同じようなレイアウトに変更した。誰が何をどう記録し、変更したかの履歴が残されるのでHIPAAに準拠できるようになったのが大きな効果だとしている。

事例(2)
ワシントンDC市の事例

続いてワシントンDCの副CTOが登壇した(CTO=最高技術責任者、米国の行政機関にはこの役職が存在する)。同市役所では、情報の透明性、コスト削減、市民の参画、最新の情報を市民に提供、の4つを目標に掲げている。

これらを実現するために、積極的にクラウド・コンピューティングを利用している。外部クラウドとしては、市民への情報提供にYouTube(動画共有)やMySpace(SNS)、Fricker(写真共有)、Twitter(情報交換)といったサイトを活用している。Google Mapsを利用した名所案内もある。一方、内部ではサーバとストレージのバーチャリゼーション(消費電力の節約のため)、デスクトップのバーチャリゼーションとシンクライアントを活用したソフトウェア配布を行っているという。

同市のユーザー向けアプリケーションは85種類あり、Google Apps、Quick Base【注】のプラットフォーム上で実行されている。職員8000人のうち5000人がアクティブなユーザーである。

【注】QuickBaseは、Intuit社が提供しているPlatform as a Service(PaaS)。元来、Intuit社は経理、税金のパッケージソフトウェアで成功を収めてきた。2年前からPaaSを始めた。

AmazonのEC2も活用

オバマ大統領の就任式だった1月20日(火曜日)には、同市のWebサイトにアクセスが殺到して障害が発生するのではないかと危惧した。そこで、その前の週の金曜日に急遽、Amazon.comのEC2を契約。同市のWebサイトのミラーサイトを構築して、万一の障害に備えた(幸い、当日に障害は発生しなかった)。

同市ではこうした新しいサービスを提供するようになって、インターネット接続の帯域幅は10%増大した。

* * *

そのほかの政府機関・官公庁におけるSaaSの利用例を表2にまとめたので参考にして欲しい。日本では監督省庁が民間企業にSaaSの利用を促しているが、まずは官公庁が自らSaaSを利用して、コスト削減、サービス向上の手本を示して欲しいものである。

表2 米国政府・自治体におけるSaaSの利用例
  政府・官公庁 利用しているSaaS 利用目的
連邦政府 財務省コンサルティンググループ RightNow Technologies 他の省庁へのコンサルティングとそのパフォーマンス測定のサービス
国務省 Salesforce.com 不拡散・軍縮基金の財務管理アプリケーションをForce.com上で開発
国防総省・陸軍 Salesforce.com 新兵のリクルート
国防総省・空軍 RightNow Technologies 新兵のリクルート
国勢調査局 Salesforce.com 州や地方自治体との関係管理
航空宇宙局(NASA) Salesforce.com イノベーションパートナーシッププログラムにおいて、テクノロジーパートナである産業界や学界、政府機関、国立研究所との関係管理に活用
環境保護局 RightNow Technologies 市民からの問い合せ管理や情報提供
証券取引委員会と金融取引業規制機構 Kaulkin Information Systems 文書管理ワークフロー
ニューヨーク州陸運局 RightNow Technologies 自動車の登録に関する問い合わせ管理や情報提供
州政府 コロラド州税務局 RightNow Technologies 住民との関係管理
シカゴ市 LexisNexis 請求・課金処理
地方自治体 マイアミビーチ市 WorkLenz プロジェクト管理と資材管理
ワシントンDC市 Google Apps コラボレーション
QuickBase データベース・アプリケーション
山谷 正己
米国Just Skill, Inc.社長
名桜大学客員教授
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