[木内里美の是正勧告]

IT担当者の「熱意」と「意欲」─中国訪問で感じたこと

Vol.14

2009年11月6日(金)木内 里美(オラン 代表取締役社長)

2009年8月末、中国四川省の州都である成都を訪れる機会があった。精華大学の知人である土木工学系の馬智亮教授を通じて、中国の用友軟件股フェン有限公司(以下英文名のUFIDA で表記)というソフトウェア会社が開催するユーザーカンファレンスでの講演依頼メールが届いたからだ。UFIDAは中国の国営・民営企業に主に管理情報システムを提供し、約70万のユーザーを持っているという。会議の中で中国大手施工企業の高級管理者のためのセッションを設け、テーマは施工企業が如何に情報化を推進するべきかという内容であると記されていた。

ユーザー会に2000人が集結

馬教授との親交は、東京大学に研究留学していた折に大成建設の情報化の取材に来られた時からで、教授が北京に戻ってからも日中の建設分野の制度の違いなどについて情報交換をしていた。突然の依頼メールだったが、成都まで行く機会はなかなかないだろうという思いが頭をよぎった。まして地元の建設会社と直接会い、討議をするような機会は二度とないに違いない。

馬教授に受諾のメールを送って間もなく、UFIDAから丁重な招待状と立派なプログラムが届いた。すべて中国語だったが、滞在日程の確認や電子航空券の予約案内などを手際よく処理してくれた。

指定のフライトは、成田から北京経由成都行きのエア・チャイナのビジネスクラスである。成田を発って約7時間で成都に到着した。空港では馬教授とUFIDAの社員が出迎えてくれて、成都市郊外にある国際会議センターに併設されたホテルに案内され、夜は幹部との会食で歓迎を受けた。

写真:UFIDA

翌日のカンファレンスは、UFIDA1社のユーザー会にもかかわらず、2000人が集う、実に盛大なものだった(写真)。午前中は四川省の副省長や要人が基調講演を行った。午後はグループコントロール、製造、流通、不動産、建設、CIO、銀行の7つに分かれた分科会が行われ、会場は熱気に溢れていた。どうやら日本人は私だけのようである。

私は建設分科会の冒頭で招待講演を担当し、日本の建設業の現状と情報化について1時間の講演を行った。俄か覚えの拙い中国語の挨拶に拍手が沸く。馬教授の通訳に頷きながら聴く熱心な聴衆。1時間の講演はあっけなく終わった。

その後、馬教授による世界の建設業の情報化分析や北京建互科技展有限公司の邱氏による建設業情報化の評価制度に関する講演、ユーザー企業の情報化事例紹介と続き、分科会の締めくくりには筆者と聴衆の質疑応答が用意されていた。

質疑応答は経営や事業に集中

聴衆は情報化を進める部門長やCIOなどである。情報システムに関する質問を想定していた筆者の予想は完璧に外れた。「大成建設の直近の業績はどうか?」、「建設プロジェクト毎の資金の過不足はどのようにコントロールされるのか?」、「事業の資金計画はどういうやり方をしているか?」、「建設業の多角経営についてどう思うか?大成建設はどういう多角経営をやっているのか?」、「IT投資の経営への影響をどう評価しているか?」…鋭く熱心な質問は、経営や事業に関するものばかりである。この視点は当然のことではあるが、妙に新鮮に感じられた。日本の情報化をテーマにしたカンファレンスでこのような質疑が行われることは経験がない。

今回のカンファレンスで感じたのは、何よりも彼らの熱意である。高額な費用を負担してでも、わざわざ日本から呼び寄せて何かを吸収しようとする。そのパワフルさとアグレッシブさに、彼らが持つ競争力の源泉を感じた。そして馬教授やUFIDAの社員達の丁重な歓迎と細やかな気遣い、いろいろな場面でみる個の主張の強さ…。商才と信義と言われる中国人の気質を感じた成都訪問だった。

木内 里美
大成ロテック監査役。1969年に大成建設に入社。土木設計部門で港湾などの設計に携わった後、2001年に情報企画部長に就任。以来、大成建設の情報化を率いてきた。講演や行政機関の委員を多数こなすなど、CIOとして情報発信・啓蒙活動に取り組む
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