[河原潤のITストリーム]

「後世に残るものを発明する」ということ:第3回

2010年1月27日(水)河原 潤(IT Leaders編集部)

ジャストシステム創業者の浮川和宣氏と浮川初子氏が設立したMetaMoJi(メタモジ)が2010年1月14日、プレスを集めて事業説明会を開きました。ジャストシステム会長・副会長の職を突如辞任、そして新会社の設立という、2009年10月末から12月初めにかけての慌ただしい動きに驚かされ、その後の同社が気になっていたところでした。

 MetaMoJiの発表会は、はじめに浮川和宣代表取締役社長が経営ビジョンと事業構想を説明し、そのあと浮川初子代表取締役専務が技術的方針を説明するという構成でした。

 「テクノロジー・ホールディングスとも呼べる会社形態」(浮川社長)で、コア技術開発/技術を核としたビジネス・インキュベーション/投資管理・事業体開発/特許などの知財管理の4つを事業の柱に、非上場のプライベートカンパニーとしてMetaMoJiを経営していくことや、ジャストシステムから事業譲渡されたXBRL技術/製品やXMLサーバーアプリケーション開発環境のPXLをアプリケーションの開発基盤としていくこと、会社の陣容(在籍する16人の従業員は全員ジャストシステム出身で、その大半がR&D部門)などが両氏から明かされました。

 会社のビジョンは丁寧に語られたものの、具体的な事業については「すべてはこれから始まる」(浮川社長)とのことで、もう少し詳しく聞かせてほしかったというのが正直な感想ではあります。

 ただ、「スペースバーで文字入力変換という機能は私の発明。ちゃんと世に残っている。MetaMoJiでも後世に残る技術を発明していきたい」という浮川社長の言葉は、個人的にとても印象に残りました。ジャストシステム時代、日本語ワープロ市場を牽引した一太郎や、すぐれた変換効率で日本語入力メソッドは別途買うものだという認識を定着させたATOKといった製品/技術を世に出してきた浮川社長の言葉なので、実現が相当期待できる、“具体性のある思い”だと受け取ったのです。

 後々になっても自分や他人が役立つようなものを生み出すということは、何らかの生産行為にかかわるすべての人々が持っていてしかるべき目標であり、強く意識はしていなくとも、そうした活動をこれまでにも行ってきたと思います。

 例えば、「初めての取り組みで非常に苦労したが、その過程で画期的なやり方を編み出した。このやり方を属人化しないようマニュアル化して残しておけば、次に取り組む人が楽になる」といった具合に。

 「後世に残る」「発明」となると構えてしまいますが、「今後当面は役立つ」から、「今後10年は役立つ」といった具合に、何かを生み出すときには活用される期間を長めに設定することを意識してみよう、と浮川社長の言葉に触発されて思った次第です。

 発表内容に話が戻ります。MetaMoJiが今後展開する事業4本柱の1つである「特許などの知財管理」は、テクノロジーの研究開発事業を核とする企業として当たり前の項目なのですが、ここから、2005年にジャストシステムと松下電器産業(現パナソニック)との間で争われたソフトウェア特許権侵害訴訟(ヘルプアイコン訴訟)のことを思い出しました。

 「一太郎ショック」などと呼ばれ物議をかもしたこの事件での大変な経験がMetaMoJiにはあるので、同社には、知財管理分野においても後世に残るようなプラクティスを生み出すことを期待しています。

 

河原 潤(かわはら じゅん)
ITジャーナリスト/IT Leaders 編集委員。
1997年にIDG入社。2000年10月から2003年9月までSun/Solarisの技術誌「月刊SunWorld」の編集長を務める。同年11月、「月刊Computerworld」の創刊に携わり、同誌の編集長に就任。エンタープライズITの全領域を追いかける。2008年11月、「月刊CIO Magazine」の編集長に就任。CIOの役割と戦略策定、経営とITのかかわりをテーマに取材を重ねる。2009年10月にIDGを退社し、ITジャーナリストとして始動。

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