[河原潤のITストリーム]

日本国内に広がれ、クラウドの“はじめの一歩”:第4回

2010年2月3日(水)河原 潤(IT Leaders編集委員/データセンター完全ガイド編集長)

国産ソフトウェア製品の連携強化と国際競争力向上に取り組む業界団体MIJS(Made In Japan Software Consortium)は1月20日、SaaS/クラウド・コンピューティングをテーマとしたセミナーを開催しました。MIJS加盟企業の大半はソフトウェア・パッケージ・ベンダーで、パッケージのSaaS化を足がかりにクラウド対応に着手した段階です。そんな各社がSaaSやクラウドをどのように位置づけてビジネスを推進していくのかについては多くの方が興味を持っていたようで、会場は大盛況でした。

最終セッションはパネルディスカッションで、MIJS加盟のソフトウェア・ベンダーに、ユーザー企業が忌憚なき意見や要望をぶつけるといった形の進行となりました。今回、ユーザー企業パネリストとして招かれたのは、東急ハンズでIT物流企画部部長を務める長谷川秀樹氏です。壇上では、「グーグルやセールスフォース・ドットコムのようなベンダーが日本から登場しないのはなぜか」「データの所在にまつわる問題で、IT部門がクラウドの採用に及び腰である」といった、ベンダー側とユーザー側の課題を中心に白熱した議論が展開されました。

東急ハンズでGoogle Appsの全社展開プロジェクトを統括した長谷川氏は、時に過大評価され、時に過小評価されるクラウドの“正味の価値”を見ようと日頃から提唱しています。パネルディスカッションでは、長谷川氏自身の経験からの、歯にきぬ着せない発言で幾度となく会場を沸かせました。その中でもポイントに思えた氏の見解を次にまとめてみます。

  • クラウドを大げさにとらえているユーザーが多い。今起こっているのは、十数年前にインターネットのビジネス活用が始まったときと同じ動きであり、合理的だと判断できる領域からまずは試すべきだ。
  • データの所在への懸念は、クラウド・ベンダー所有のデータセンターと自社所有のデータセンターとで、セキュリティ面でどちらが勝っているかを考えれば払拭される。
  • 信頼性への懸念は、サービスの稼働率保証を確認し、自社運用システムと比較すれば払拭される。東急ハンズが採用した当時のGoogle Appsの稼働率保証は99.9%(年間ダウンタイムが約3時間以内)で、現在では99.99%に達している。
  • システムダウン発生初期に復旧予定時刻が見えてこない/ITベンダーやIT部門がシステムダウンで被ったビジネス上の損失を補填してくれないといった事情は、クラウドでも自社運用でも同じこと。ITの側としては、投資のバランスをエンドユーザーに納得してもらうしかない。
  • 国産のクラウドが世界に打って出るチャンスは当然ある。サービス提供モデルなのだから、各国語での説明をきちんと付しておけば、サービスの内容に納得した世界中のユーザーがクリックし成約となる。そこでは、海外顧客に対する日本人のシャイな性格や営業の下手さといったことは一切関係がない。

クラウド懸念派のユーザー企業には、“はじめの一歩”がそれほど困難なことではないと思わせ、日本のITベンダーには、クラウド市場で飛躍できないことへの弁解の余地を与えない——そんな長谷川氏のアドバイスですが、いかがでしょう。「いやいや、Google AppsやSalesforce.comのようなSaaSの利用というよりも、今、我が社ではPaaSやIaaSのレベルでのクラウドを検討しているのだが…」という方も、もちろんおられるでしょう。ただ、ユーザー企業やITベンダーが大挙してはじめの一歩を踏み出し、国内全体でクラウドの波に乗っていく動きは重要であり、そうして生み出される日本のクラウドの大波は、規格の標準化やサービス間連携、インフラの整備、価格競争などの面において、“次の一歩”や“その次の一歩”の取り組みを後押しするものにもなると思うのです。

河原 潤(かわはら じゅん)
ITジャーナリスト/IT Leaders 編集委員。
1997年にIDG入社。2000年10月から2003年9月までSun/Solarisの技術誌「月刊SunWorld」の編集長を務める。同年11月、「月刊Computerworld」の創刊に携わり、同誌の編集長に就任。エンタープライズITの全領域を追いかける。2008年11月、「月刊CIO Magazine」の編集長に就任。CIOの役割と戦略策定、経営とITのかかわりをテーマに取材を重ねる。2009年10月にIDGを退社し、ITジャーナリストとして始動。
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