[インタビュー]

「買収先の技術と既存製品の統合を急ぎ、クラウド市場に臨む」─米CAのマクラッケンCEO

2010年3月8日(月)田口 潤(IT Leaders編集部)

日本で数多くのユーザーを擁し、しかも運用管理ツールやバックアップツールなど多彩な企業IT向け製品を持つ割に、骨太の製品戦略が見えにくいベンダーの1社が米CAだ。特に仮想化やクラウドの時代における製品戦略をどう考えているのか。2010年1月に会長兼CEOに就任したばかりのウィリアム・マクラッケン氏がこのほど来日。3月4日に率直な質問をぶつけてみた。(聞き手は本誌編集長、田口 潤)

──ITの世界で今何が起きていて、どの方向に向かおうとしていると認識しているか。

 ここ数カ月、社内外の人々と事あるごとにその議論を重ねてきた。そうした席で話題となるのは、やはりクラウドの流れである。個人的意見としては、クラウドのうねりは一過性のものではなく“本物”だと考えている。これまで、IBMを中心に45年もの間、IT業界に身を置いてきた。メインフレームからオープンシステムへ、そしてインターネットの隆盛など、数々の変化を肌身で感じてきており、その経験を踏まえた見解でもある。

──もう少し、直接的な理由を挙げるとしたら?

 経済的視点に立てば、昨今の景気後退は、限られたコストで生産性を高めるにはどうすべきかという課題を企業や政府に突きつけた。それは、自前主義を貫く姿勢を疑問視することにつながった。一方で技術的な面を見れば、仮想化やネットワーク、運用管理などの要素技術が格段に進歩し、何十年も夢に描いてきた「必要な時に必要なだけITリソースを使う」という環境が現実味を帯びてきた。これらの動きが同時期に起こり、クラウドに寄せる期待が一気に高まったわけだ。
 かつて、大企業においては、開発案件のバックログを7年分も積み残しているという話がざらにあった。そんな状況で企業がビジネス環境の変化に即応できないのは自明である。今、ITの世界は大きな転機を迎えている。経営者がビジネスを変えたいと考えた時、18カ月でもなく、6週間でもなく、ただちに行動を起こせる時代が到来している。とりもなおさずクラウドあればこその話だ。

「クラウドの台頭は一過性のものではない」と強調する米CAのウィリアム・マクラッケン会長兼CEO
「クラウドの台頭は一過性のものではない」と強調する米CAのウィリアム・マクラッケン会長兼CEO

──とはいえ、クラウドに対して懐疑的な意見も少なくない。

 セキュリティの面で心配はないのか、本当にコストメリットが得られるのか、サービスレベルは保証されるのか…。まだ不透明な部分はあるのは確かだ。だが、こうした疑念を取り払う上でCAが長年培ってきた知見が生かせると考えている。

──その割には、他のベンダーに比べて、仮想化やクラウドに対するメッセージが弱い気がする。

 今まさに製品ラインナップも含めたメッセージを取りまとめているところだ。クラウド関連のM&Aも積極化しており、足場固めを急いでいる。2009年11月にはネットワーク性能管理のNetQoSを、また今年になってからはサービスレベルマネジメントのOblicoreを1月に買収し、さらに2月には仮想化環境でのシステム構築ツールに強い3Teraの買収が最終合意に至った。
 たとえば3Teraの「AppLogic」を使えば、クラウド上に提供されるリソースプールの中から、WebサーバーやDBサーバーなどの仮想アプライアンスを自由に組み合わせたり、AppStoreで提供されるアプリケーションを稼働させたりすることで、システムを柔軟に設計・構築できる。それもドラッグ&ドロップのビジュアルな画面でできるのが特徴だ。こうした先進的な技術と、CAがかねてから蓄積してきた運用管理やITガバナンス、セキュリティといった技術を統合し、顧客にとって信頼できる、そして運用に手が掛からないソリューションを提供していく考えだ。

──具体的な製品ポートフォリオ、およびパブリック、プライベートどちらに軸足を置くのかを聞きたい。

 当面の間、大企業はプライベートクラウドを志向し、中小企業や新興企業はパブリッククラウドの活用を考えるだろう。当社はどちらも視野に、製品群をそろえていく。目下、あまたある既存製品や買収で加わった製品のラインナップを整理統合している段階だ。クラウド関連製品のポートフォリオについては、5月に開催するイベント「CA World 2010」の会場で最終的に明らかにするので、それまで待ってほしい。

──仮想化やクラウドを軸に大手ベンダーの合従連衡が相次いでいる。CAは?

 IBMやOracle、HP、Microsoftなども、もちろん虎視眈々とこの市場を見ているだろうし、当然ながらクラウド環境の運用管理ツールにも力を入れるだろう。自社製のハードやDB、OSといった製品を持つベンダーは、自社製品一色の垂直統合を推進しがちだ。ここで我々は管理ツールを中心とした水平展開を貫いている点が異なる。ユーザー企業が単一ベンダーに統一するのは非現実的だ。これまでのノウハウを生かした技術力に加え、メジャーなハード、ソフトとのインタフェースを取り揃える「中立性」で、当社の価値を訴えていきたい。

──日本市場については、どう見ているか。

 日本は米国に続く第2の市場で期待は大きい。多少のタイムラグや企業文化の違いはあるかもしれないが、新潮流へのシフトに伴うポテンシャルは高いはずだ。私が1月にCEOに就いた後、この早いタイミングで来日したのも、その表れだ。日本CAの社長であるバスター・ブラウンと議論し、ソフトの早期ローカライズや、その延長線上に実現する日米同時ローンチなどについて、本社サイドがどうサポートすべきかを話し合っている。
 これは日本市場に限ったことではないが、我々はクラウドだけに軸足を置くわけではない。仮想化、セキュリティ、SaaSはクラウド時代に向けた重要なピースだが、一方でそれぞれが大きな市場であり重点を置くべきテーマと位置付けている。さらに、メインフレーム分野も見過ごせない。これら5つの柱のバランスを考慮しながら、IT業界におけるCAの存在感を高め、ユーザー企業に貢献していくのが私のミッションだ。

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