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「理論追求型の研究者に対する社会のニーズはほとんどない」NECの矢野会長が日本の教育体制を辛辣に批判

2010年8月20日(金)

IT分野の人材育成についての提言や教育支援を実施するICT教育推進協議会と、IT分野の資格取得を支援するTraining Center Japanは2010年8月17~18日の2日間、IT教育関係者向けのイベント「情報通信技術教育者合同会議2010」を開催した。18日の基調講演にはNECの矢野 薰 代表取締役会長が登壇。日本の教育体制や学生に求めるスキルについて熱く語った。以下に内容を抜粋して示す。

講演するNECの矢野 薰 代表取締役会長
写真 講演するNECの矢野 薰 代表取締役会長

日本の教育機関が教えようとしているスキル、IT業界が人材に求めるスキル。両者にはいまだに差がある。IT企業はシステムプラットフォームに関する技術やプロジェクトマネジメント能力といった実践的なスキルを必要としているのに、教育機関では十分に指導されていない、というのが現状ではないだろうか。「クラウド」や「仮想化」といった新技術についても、今やとても重要なキーテクノロジーであるにも関わらず、大学や大学院で専門のカリキュラムを設けているところはほとんど存在しない。

専門スキルだけではなく、基礎スキルに対する教育も十分ではない気がする。企業が求めるスキルのうち、重要なものとして文章作成力、品質へのこだわり、タイムマネジメントの3つを挙げることができる。だがこうした能力を身に付けている学生は多くないと感じている。学生の肉体面や精神面でのタフネスもどんどん弱くなっている。これは国家として対処しなければならない課題の1つだろう。

企業が求めるレベルにまでスキルを高められなかった学生は卒業させないという“出口管理”を徹底し、高い就職率を誇る秋田の国際教養大学の取り組みは参考になる。全大学の総定員数が大学受験者数を上回る大学全入時代を迎えた現在、高い就職率の確保というのは各大学の重要課題のはずだ。

進路やスキル取得などの学生指導をするにしても、企業での就労経験がなく、企業が何を必要としているのか理解できないという教員も少なくない。“教員のインターンシップ”は歓迎だ。問題意識を持つ教員は、研究目的での長期休暇が取れるサバティカル制度などを活用し、1年間ぐらいは企業に就業してみてはどうか。企業出身で大学の教員になる人はいるが、大学の教員が企業に来るというケースはほとんどない。人材交流の“一方通行”は自然ではない。

日本の大学や学生は危機感を持つべき

新興国や欧米の大学のIT教育では、理論に軸足を置きつつ、プロジェクトマネジメントや設計手法といった企業が求める実践的なカリキュラムを重視している。これは各国が競争力を獲得するために、明確な戦略を持って教育を変えてきていることの現れだ。例えば中国は2001年に35の大学にソフトウェア関連学部を新設。韓国は1997年に情報通信部とIT関連機関が情報通信大学(ICU)を設立し、投資金額の7割を政府が負担する、といった取り組みを進めている。一方で、日本の大学は未だに理論重視から抜け出せていない。

差は大学レベルにとどまらない。日本の教育機関を終えた学生を新卒として採用する場合、日本人学生よりも海外からの留学生を採用するというインセンティブがますます大きくなっている。私の知る限り、留学生はおしなべて日本人学生よりスキルも意識も高い。日本語が流ちょうであるばかりでなく、彼ら彼女らにとっての母国語、つまり、英語をはじめ日本企業にとって魅力的な外国語を自在に操る能力を持っている。日本に本拠を置く企業である以上、日本人の雇用に貢献したいという意識は当然ある。だが日本人の学生は本気になって努力しないと、就職において留学生に勝てないという危機感を持つべきだ。

研究開発においても差が出ている。当社は研究開発拠点を米国と欧州、中国に抱えているが、ユニークな研究はほとんどこうした海外拠点から出てきている。日本では研究活動をやめた方がいいと思うぐらいだ。求めているのは理論を重視する研究者よりも、実践的な技術や知識を持つ専門職というのが持論。理論追求ばかりに熱心な研究者に対する社会的ニーズが本当にあるのか、私は疑問を感じる。

社会基盤としてのITの重要性は変わらない

IT業界の雇用や経済への存在感は依然として大きい。情報通信白書によると、2008年のIT業界の市場規模は96.5兆円、雇用者数は408万人。国は「コンテンツ産業に注力せよ」と言っているが、コンテンツ業界の2008年の市場規模は11.8兆円。雇用者数に至っては26.5万人と、IT業界の15分の1しかない。狭き門であることを考慮して議論しないとフェアではない。

ITはいまや社会全体の基盤であり、さまざまな場面で必要になる。ベンダーやシステムインテグレータだけでなく、一般企業や行政を含め多様な組織において雇用を生み出せる、雇用の受け皿としての役割を忘れてはならない。

業界全体の成長余力もまだある。調査会社の米ガートナーとIMF(国際通貨基金)が共同で調査した結果を見ても、中国やインド、中東などの新興国は、人口やGDP(国内総生産)に対して市場の大きさはまだまだ小さい。ここに成長の余地があると考えている。

今までのIT業界で言われていた3K(きつい・帰れない・給料が安い)という状況も急速に変わりつつある。当社が現場で働く技術者に社内調査をした結果、「仕事量の多さからストレスを感じていますか」という問いで「そのとおりである」「ややそのとおりである」と回答したのは3割程度にとどまっている。

一方で、ITの仕事を自己実現の場と捉えている技術者が増えている。「いまの会社で働くことが自分自身の成長にプラスになっていると思いますか」や「現在の仕事にやりがいを感じていますか」という問いには、「そのとおりである」「ややそのとおりである」との回答が過半数を超えた。

新卒社員の選抜メンバーを海外へ

新入社員の中から、将来グローバル事業の中核要員として期待できる30人を選出して育成する「Global Track to Innovator(GTI)」という取り組みを始めている。選出した新入社員1人ひとりにメンターをつけ、国内で約20日かけて語学などの研修を実施。入社後約1年後から、海外の現地法人などで1~2年間、各自の専門領域に応じた海外業務研修を受けさせる。研修先のオフィスには日本人は他に1人もおらず、必然的に現地のスタッフとコミュニケーションせざるを得ない。海外では常にアグレッシブさが求められる。研修に耐えた新入社員は、研修前はおとなしくても帰国後は見違えたようにアグレッシブになる。

2010年7月、小惑星探査機の「はやぶさ」が約7年間の宇宙探索の果てに地球への帰還を果たした。当社が開発や運用に関わったこの探査機は、数々のトラブルや故障をものともせず、ミッションを果たした。何があってもあきらめないという心の強さが、社会で生きるため、ひいては成功するためには必要だ。心の強さは先天的なものではなく、後天的なもの。かくいう私も元々は強い人間ではなかったが、企業の中でもまれた結果、強さを手にした。心の強さは、努力次第で誰でも身につけることができる。自ら起業するぐらいの気概が日本の学生にはほしい。

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