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[データマネジメント—“活用されるシステム”の極意]

データマネジメントの全体最適化は、組織間でのデータ連携から:第3回

2010年9月21日(火)大西 浩史(NTTデータ バリュー・エンジニア 代表取締役社長)

情報システムを経営に生かす-その根源となるのはデータの品質である。SOA(サービス指向アーキテクチャ)やクラウドコンピューティングなど技術革新の 激しいITの世界だが、データ品質の維持管理の視点が欠けていては恩恵を享受することはできない。「活用されるシステム」を具現化するための、データマネジメントの勘所を解説する。

 第3回は、複数システム間のデータ連携が不十分なことにより発生する問題点と、その対応策について説明する(図1のBの部分)。

データの品質低下は様々な要因で起こり得る
図1 データの品質低下は様々な要因で起こり得る

 仕入れから販売に至る商材の流れや業務プロセスを効率化するはずのサプライチェーンマネジメント(SCM)。しかし、企業間でデータの流通が滞り、商流の川下になればなるほど、実際には同一の対象(顧客、商品など)を指し示すデータなのに表記が異なって組織間で共通の認識・識別がず、SCM本来のメリットを蝕んでいるケースが散見される。

 図2をご覧いただきたい。注目するのは、ある文具メーカー(左端)から商品を仕入れるサプライヤー2社の商品データベース(商品マスター)である。

情報を受け取る「下流」ほどデータの「識別性」が低下する
図2 情報を受け取る「下流」ほどデータの「識別性」が低下する

 同一のファイル製品の情報を入力した際に、表記の方法にかなりの差異が見てとれる。

 上流の文具メーカーが付与した品名は、「ABCファイル White(A4サイズ)」だ。ところが、仕入れるサプライヤー2社の商品データベースに登録されている品物の呼称やコードには差異が出ている。ここで差異が出るのは、サプライヤーのシステムの入力桁数の制約、入力すべき項目やデータを登録する組織や担当者ごとに持っている入力ルールの違いによる。

 他にも入力ルールや項目の違いの例を挙げると、サプライヤーbの品名中にある「W」は、ファイルの「色」情報を示すが、サプライヤーaは「備考欄」に、「白」と漢字で入力している。サプライヤーbはメーカー型番情報を掲載しているが、サプライヤーaは掲載していない。

 さらに、このファイル製品はエコマーク対応商品であるが、サプライヤーbのデータベースにはその情報を入力する欄があらかじめ用意されていない。そのため、当該商品がエコマーク対応かどうかを、見積書を見た第三者はすぐに判別できない。

 ここで問題となるのは、当該ファイル製品をサプライヤーa、bから仕入れる、「下流」のユーザー(右端)である。同一であるはずの発注品「ABCファイル White(A4サイズ)」を、同一物品であると認識できない可能性は極めて大きい。購買担当者が気づかなければ、相見積もりによる価格の比較や、発注先別のコスト比較ができず、適正な調達価格を見極められなくなり、調達する企業側にはデメリットになる。一方で、商品を販売する側にもデメリットがある。この例では、「サプライヤーbのファイル製品はエコマーク対応ではない」と誤解されて、サプライヤーbは販売合戦に負ける可能性もある。

 このように同一の対象物が異なるものに見える問題については、サプライヤー数や商品数が多いほど、また商流の川下になるほど事態が深刻化する。データが流通していく過程で変節が施されることで、「下流」になるほどSCM全体における情報の錯綜や、目視確認等を要することによる業務プロセスの非効率化、調達差益の逸失による経済的ロスが蓄積するのだ。

ダイレクトメールの送付ミスで顧客満足度が低下

 次に、1人の顧客のデータが複数人分に重複して登録されている場合に発生する問題点と、その背景を考えてみる。図のように、社内の様々な顧客データベースに同一顧客のデータがバラバラに登録されていると、これらの人を同一人物と同定できないトラブルが起きる。これにより、顧客の購買データを商品のクロスセルやアップセルに活用できず、販売機会の損失を招くのはよくある光景だ。

各組織の顧客データベース上で同じ人が別人として登録されている
図3 各組織の顧客データベース上で同じ人が別人として登録されている

 顧客満足度や企業イメージを損なった事例を示そう。保険商品や投資信託といった複数の金融商品/サービスを提供する事業者のケースだ。この企業では、各部署がそれぞれ構築するシステムで個別に顧客データを管理していた。

 ある日、金融サービスを提供する部署の担当者に対して、顧客の1人から「ダイレクトメールは要らないと断ったのに、なぜ再三送り付けるのか!」とクレームが届いた。送付不要の希望を聞き入れていた部署のデータベースには、その情報を登録して以降送付しないようにした。しかし、まったく独立したシステムとして存在している他の部署のデータベースには、その情報が反映されていなかった。そのため、ダイレクトメールは意に反して送付され続けており、顧客の怒りを買うことになったのだ。

 このように、考えてみれば当たり前ともいえるデータマネジメントができていないことにより、ビジネス機会を逃す/損失を被る企業が多いことを筆者は数多く目の当たりにしている。

 この企業に限らず、システムを構築した時点では、多くの場合、システム間におけるデータ連携は考慮されていない。 なぜ、そうなるのか。

 ここ20年ほど、企業内のすべてのデータを一元的に扱っていたレガシーシステムから、業務ごとにデータを管理するオープンシステムへ移行し、さらに近年はSaaSなどクラウドコンピューティングも進むことで、企業外にデータを保有することも多くなった。こういったシステム構築のトレンドの変化により、データの分散化が進み、整合性の確保が置き去りにされ、企業内のデータ連携を取ることが非常に難しくなっていったということが1つの理由として挙げられる。

 もう1つ重要な別の理由として、自組織内の業務課題を解決するために必要なシステム開発を進める事業部門と、経営者/経営企画部門/マーケティング部門などの全社横串で情報を活用したい部門の、データに対するニーズの違いが挙げられる。“自組織の業務に必要なこと”だけを考えていくと、必然的にスコープも部門最適に狭まってしまうのである。

 そのことは、システムで保有するデータの取り扱いにも影響してくる。たとえば、データの粒度、データベース上での表記の仕方など各部門のシステム単位で個別に決められているといったことだ。これでは、いざデータをシステム間で連携させようと思っても、「コードの体系や意味がシステム間で違う」という問題が発生し、全社最適の観点から見た時に、データを活用し業務効率化を進める妨げとなる。

 そして今、システムに対して経営者が求めているのは、組織さらには企業の壁を超えたグループ企業を横断した「ヒト・モノ・カネ」の動きを掌握し、変化を捉えて次の判断を導く「情報活用」である。こういった要請に、個々の組織内の処理をスピードアップするために作られてきた今のシステム、そして、その中に蓄積されているデータでは対応しきれなくなっているのが現状である。

 では次に、この状態を克服する方法を考えてみよう。ここでは、“現時点で存在する、連携が取れないデータを修正する視点”と、“そもそも連携が取れないデータを発生させない視点”が存在する。前者の視点は次回以降の連載でも触れるため、今回は後者の考え方を説明したい。

(次ページでは、連携が取れないデータを発生させないための3つのポイントについて解説!)

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