[技術解説]

想定用途に合致すれば果実は大きい─クラウドアプライアンス製品責任者による座談会

運用管理のルール決めは効果を左右

2011年5月17日(火)IT Leaders編集部

クラウドアプライアンスを使うと、本当に短期間で安価にプライベートクラウドを構築できるのか。すでにユーザー企業への製品導入実績がある大手ベンダーの製品責任者に、期待通りの成果を上げるためのポイントを議論してもらった。システムリソースの割り当てをどの程度まで自動化するか。利用部門への課金をどれだけ細かく管理するか。運用管理のルール決めは効果を左右する重要な要素の1つになる。(聞き手は本誌編集長・田口 潤)

新木 陽一 氏
新木陽一氏
日本IBM
ソフトウェア事業 Tivoli事業部 第二CTP シニア・クライアント・テクニカル・スペシャリスト
1991年4月、日本IBMに入社。金融業や製造業の運用システム構築プロジェクトを数多く担当。現在はクラウドを含む運用全般のシステム構築を支援するシステム管理ソリューション・アーキテクトとして活動している

 

角野 みさき 氏
角野みさき氏
NTTデータ
法人システム事業本部 Lindacloud開発担当 部長
2003年2月、NTTデータに入社。テレコム業界の設備系システムの構築や設備監視ソリューション「iNetNMS」の立ち上げに参画。2009年4月より現職。Lindacloudの開発責任者として製品企画・開発を牽引している

 

清水 照久 氏
清水照久氏
日本オラクル
Fusion Middleware事業統括本部 ビジネス推進本部 部長
2002年9月、日本オラクル入社。システム事業推進本部や製品戦略統括本部において、ミドルウェア製品の市場開拓や販売チャネルの開拓を推進。2010年6月から現職としてExalogicの製品戦略の責任を担っている

 

荒木 裕介 氏
荒木裕介氏
日本ヒューレット・パッカード
エンタープライズサーバー・ストレージ・ネットワーク事業統括 サーバーマーケティング統括本部 
インダストリスタンダードサーバー製品本部 製品企画部
2001年、日本HPに入社。x86サーバーのプリセールスのほかブレードサーバー・仮想化ソリューションを担当し、数多くのサーバー仮想化案件に従事してきた。現在はHP BladeSystemのプロダクトマーケティングを担当している

 

─ プライベートクラウドの構築向けという点や、ハードとソフトが一体になっている点で、各社のクラウドアプライアンスは共通ですが、想定している用途や開発の思想には違いがあると感じています。そのあたりを整理するうえで、まずは皆さんが統括している製品の位置づけを教えてください。

清水: 日本オラクルの「Exalogic」は大量のトランザクションを処理する用途を想定しています。ただし、ハードやソフトには標準的な技術を用い、その中で最大限の処理性能を引き出すことを考えています。

─ 多数のメールサーバーやWebサーバーを集約するプライベートクラウドではなく、主にミッションクリティカルなアプリケーションを想定している?

清水: ええ、集約したサーバーの上で基幹系のアプリケーションを動かす。しかも、特殊なハードを使わないことがポイントです。搭載するプロセサ間の通信にはInfiniBandを使って高速化していますが、今ではInfiniBandのカードは一般に売られていますし、そうしたパーツを組み合わせて動作確認などの労力をかければ、Exalogicと同じ構成のシステムを作ることができます。

─ 日本HPはいかがですか。

荒木: プライベートクラウドには仮想化技術を駆使したサーバー集約と、高性能なハードを必要とした大規模システムを分散処理するという大きく2つの側面があります。そのうち集約については「BladeSystem Matrix」を用いてサーバーからストレージ、ネットワークまで統合管理することで運用管理負荷の低減を目指しています。後者に関しては、「ProLiant SL」と呼ぶスケールアウト型の製品ラインを用意しています。

新木: 仮想化によるサーバー集約と管理コストの削減といったコンセプトは、当社(日本IBM)の「CloudBurst」も同様です。CloudBurstはエンドユーザーからの仮想マシンの利用申請や承認のプロセスを管理する機能を搭載していますから、運用まで含めた全体的なコスト削減を図れるのがメリットです。

─ 一方、Hadoopをベースにしたシステムやシンクライアントの用途を想定している点で、NTTデータの「Lindacloud」は方向が違いますね。この点はいかがですか、NTTデータの角野さん。

角野: おっしゃる通りです。Lindacloudはサーバーなどの構成を固定した、いわゆる「吊るしの背広」です。それに加えて、社内のナレッジ活用やファイル管理など用途まで特定している点で、各社の製品と位置づけが異なります。

─ 他社と同じように仮想化を基盤にしたアプライアンスを製品展開する手もあったはずですが、どうして敢えて違う方向性を打ち出したのですか。

角野:明確な特徴がなければ、当社がクラウドアプライアンスを提供しても見向きもされないと考えたからです。ですから、1つには価格を安く設定しました。さらに用途を絞り込んで、ユーザー企業がほとんど手を加えなくて済むように可能な限り完成度を高めています。

導入業種や規模はさまざま
地方自治体でも本稼働

─ ひと口にクラウドアプライアンスといっても、適用分野が少しずつ違う。実際にどのような業種の企業が何を目的に導入するケースが多いのでしょうか。

荒木:BladeSystem Matrixの場合、特に業種に偏りはみられません。大手企業がプライベートクラウドのインフラとして導入するケースもあれば、データセンター事業者がサービスのインフラとして導入することもあります。

─ CloudBurstは?

新木:HPと同じように、データセンターを持っている大手企業がプライベートクラウドの構築目的で導入するところもありますが、本番環境として使っているケースとなると、現段階では地方自治体の中に多いと言えます。地域の企業に仮想サーバーを貸し出すサービスとして提供するような例です。

清水: Exalogicはトランザクション数が多く、高い同時処理性能が要求される通信業や金融業にピタっとはまっています。1日や1カ月の特定時期にトランザクション数がグンと高まるような流通業のシステムで採用されているケースもあります。これまでのところ、もともと大きなサーバーを使い慣れている企業からの反応が総じて強い印象です。

─ 逆に、反応がイマイチの業種もある?

清水: 業種というより、どのようなアプリケーションを動かすかまで決まっていなかったり、サーバーを何となく集約してみようといった企業の反応は弱いですね。結局のところ、ミッションクリティカルではないからExalogicはあまり馴染まないんですよ。

角野:Lindacloudの導入企業は、業種も規模もさまざまです。ただ、アプライアンスの種類によって傾向は出ています。導入数が一番多いのが、ファイルの複製を自動生成して複数サーバーに分散保管するNAS版で、全体の5割ほどを占めています。次に多いのがシンクライアント版の約3割。残りが、大規模分散システム向けのHadoop版です。

─ 技術的にみると、Lindacloudの中で真新しいのはHadoop版ですが、ユーザー企業の目はNASに向いている。

角野:用途やメリットが理解しやすいうえ、ニーズが根強いのがファイルサーバーやデータバックアップなのだと理解しています。それにNAS版は割と安価なので、「それを3つください」という企業もあるんです(笑)。

─ ファイルサーバーやバックアップサーバーだと試験利用ではなく、本番利用?

角野:そうです。もちろん「勉強のために買いたい」という企業もありますが、どちらかというと本番で使われるケースが多いと思います。

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