[イベントレポート]

レッドハット、オープンソースの“クラウドOS”を発表、IaaSソフトとPaaSを提供へ

Red Hat Summit and JBoss World 2011

2011年6月1日(水)田口 潤(IT Leaders編集部)

存システム資産を是としたクラウドへの移行・実現手段を提唱──
クラウドコンピューティングを企業ITにどう取り込むのか? この難題に対し、米IBMやRedHatが解を示そうとしている。IBMの提案はBPMとSOAを軸にしたシステム連携、RedHatはプライベートクラウド構築に向けた“OS”の提案だ。

米国カンファレンス報告 レポート2
2011年5月3日〜6日 米ボストン/米Red Hat

「クラウドコンピューティングは、オープンソース(OSS)によって開発された技術で成り立っている。我々は、それを企業情報システムに持ち込む。これがカンファレンスに込めたメッセージだ」(Jim Whitehurst米RedHat社長)。

米Red Hatは5月3日〜6日、年次カンファレンス「Red Hat Summit and JBoss World 」を米ボストンで開催した。この言葉通り、内容はクラウド─特にプライベートクラウド─に焦点を当てたものだった。クラウド関連の新製品とサービス、「CloudForms」「OpenShift」を開催に合わせて発表したことが、それを象徴する。

日本でも着実に認知度が上がっている同社は、米国ではサーバー用OSの「RedHat Enterprise Linux(RHEL)」やミドルウェアの「JBoss」で、すでに確固たる地位を築いている。それをテコに、仮想化およびプライベートクラウドの領域で、“台風の目”になろうとしているのだ。

ではCloudFormsなどは、どういった製品なのか。米RedHatの次の一手はどんなものか。Red Hat Summit and JBoss Worldの内容を紹介する。なお、カンファレンスの来場者数は2500人超。前年比で30%以上増加した。日本からもNTT、日産自動車、東京証券取引所といったユーザー企業のほか、ネットワン、沖電気工業などのパートナー企業から総勢30人以上が参加。4日めの基調講演には、日産の行徳セルソCIOが登壇している。

写真1 会場となった米BostonのSeaPort World Trade Center
写真1 会場となった米BostonのSeaPort World Trade Center

新製品
ハイブリッドクラウドに動く

まずは発表された新製品から。CloudFormsはプライベートまたはハイブリッドのクラウド(IaaS)を構築するソフトウェアである。“クラウドのプラットフォーム”を意味するネーミングだ。「16のOSSプロジェクトの成果を集大成」(Whitehurst社長、写真2)しており、(1)企業内の物理サーバーや仮想サーバー(VMwareやRedHatのカーネルVM)に加えて、外部のパブリッククラウドもIaaSの構成要素にできる(マイクロソフトのHyper-Vもサポート予定)、(2)コンピュータ資源割り当てのセルフサービス化や課金管理などNIST(米国国立標準技術研究所)のクラウド定義に準拠した機能を網羅する、(3)IaaSに加え展開からパッチ適用、バージョン管理などアプリケーション管理機能を備える、などが特徴だ。既存の仮想化ソフトも取り込んだ、「言わば“クラウドOS”」(この分野に詳しいembomaの高見禎成CTO)である。

写真2 クラウド技術はオープンソースで成り立っている」と力説するJim Whitehurst米RedHat社長
写真2 クラウド技術はオープンソースで成り立っている」と力説するJim Whitehurst米RedHat社長

数が限られる他社の仮想化ソフトは分かるにしても、なぜパブリッククラウドもIaaSの一部に組み込めるのか。「“DeltaCloud”プロジェクトが策定したクラウドの標準APIを使う。これがパブリッククラウドのサービスのAPIを抽象化する」(Bryan Che同社上級ディレクタ)と説明する。AmazonやIBM、NTTコミュニケーションズなどがDeltaCloudに対応済みか、対応を表明しているという(写真3)。CloudForms製品版の出荷は、2011年後半になる予定だ。

写真3 CloudFormsは有力パブリッククラウドと連携動作する
写真3 CloudFormsは有力パブリッククラウドと連携動作する

もう1つのOpenShiftはソフト開発者向けのPaaS、厳密にはテスト・実行環境を持たないDEaaS(開発環境)だ。利用できるプログラミング言語とフレームワークの豊富さが特徴で、例えば言語はJavaやPython、Rubyなど10種以上、フレームワークはSpringやRailsなど8種以上が利用可能だ。データベースもSQL、NoSQL、それに分散ファイルシステムを使えるという。開発したソフトはDeltaCloud API準拠のクラウド=CloudFormsに展開、稼働できる。OpenShiftには無料で使える簡易版のExpress、自動スケールアウトをサポートするFlex、フルバージョンであるPowerの3つのサービスがあり、RedHatはExpressのベータ版を提供中。パッケージで提供する可能性もある。

米IBMのWebSphereやオラクルのWebLogicと並ぶ存在になったミドルウェア、JBossにも新製品が追加された。Java EE6に対応したJBoss Enterprise Application platform6と、JBoss Enterprise Data Grid 6である。後者はアプリケーションサーバー側が分散データキャッシュを持つことで、DBMSに負荷をかけることなく、大規模なトランザクション処理を可能にする。オープンソースプロジェクトであるInfinispanの成果を取り入れた。

基調講演
VMwareを意識した発言が目立つ

基調講演は会期中、毎日開催され、登壇者は合計で12人(パネルを除く)。レッドハットからは4人が演壇に立ち、異口同音にオープンソース・ベースのクラウド技術の重要性を強調した。「現状のクラウドはどうか?1社ですべてを提供しようとするベンダーが、ユーザーをロックインしようとしている。昔の(囲い込みの)やり方を、(クラウドという)新しい名前でやろうとしているわけだ。企業のITがそれを選ぶことは、次のマイクロソフトを作り出すようなもので、クラウドのあるべき姿とは正反対。クラウドは、オープンソースによりユーザーに主導されるものだ」(Whitehurst社長)。

同氏がいう「1社」とは、文脈から判断する限りマイクロソフトでもオラクルでもなく、仮想化ソフトで先行するVMware。翌日、演台に立ったPaul Cormier副社長はより直接的に、「VMwareがスポンサーする組織『Cloud Developers’ Bill of Rights』は、オープンに見えて実はロックインの危険が高い。加えてその製品のオープン性は、我々の友人であるレドモンドの会社(=マイクロソフト)と同程度である」と言い切った。

そのほかの登壇者のほぼ半数を占めたのがパートナー企業。つまりアクセンチュア、IBM、HP、インテル、シスコシステムズである。各社とも自社の製品やサービスをアピールするとともに、「OSSは年々、重要なコンポーネントになっている。我々はレッドハットとともに次に向かう」(IBM)など、レッドハットとの関係を強調した。米国IT産業におけるレッドハットの求心力の高まりを示すといえ、インテルなどの講演を聴くと「Wintelの次はRettelか」とさえ感じた。

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Red Hat / OpenShift / PaaS / IaaS / JBoss / BPM / 日産自動車 / VMware / Linux

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