[インタビュー]

震災がIT部門に与えた“宿題”─IT部門は異常時の企業を支える役割を担え

大震災から何を学ぶべきか Part2

2011年6月7日(火)IT Leaders編集部

未曾有の大震災は、ITの堅牢性や利用価値の高さを浮かび上がらせた一方で、 企業のIT部門にいくつもの“宿題”を与えた。IT部門は震災から何を学び、宿題にどう答えていくべきなのか。 基幹系から情報系まで、企業ITに造詣が深い札幌スパークルの桑原里恵氏に聞いた。

− 2011年3月11日に発生した大地震は、東日本の広い範囲に甚大な被害をもたらしました。サプライチェーンの寸断や電力不足などにより、東北地方以外の企業も大きな影響を受けています。そうした影響への対策と並んで重要なのは、今回の震災から企業のIT部門は何を学び、次に生かすか、ということです。

桑原: 学びということでは大きく2つに分けて考えたいですね。まず、何ができて、何ができなかったのかを整理すること。何もかもダメだったわけではない。しかし、乗り切ったからといって十分だったわけでもありません。そしてもう1つは、震災後のこれから、どういった価値観で企業システムと向き合っていくのか。企業も社会も震災の体験によって、強く影響を受けています。価値観の変化に向けて、IT部門も自らの役割やシステムのあり方を見つめ直す。それによって、課題だけでなく新たな可能性を描けるのではないでしょうか。

− それほど大きな事態だったということですね。

桑原: 震災前、IT部門はハードやアプリケーションの障害などの非常事態に対して、どう対処するかといった視点でシステムを整えてきました。自分たちのシステムをきちんと動かすこと。その点ではIT部門は役割を果たしてきたと思います。しかし、今回のように業務自体がまったく機能しないとか、組織やルールを超えて何としてでもモノを届けるといった状況下では、システムを使うどころではありません。そもそも、電力や通信が広範囲で落ちて、システムが機能しないということもありました。そうした異常事態を震災後に振り返って、IT部門が本来担うべき役割は何なのか、その大きさをしみじみと考えました。

− 裏を返せば、異常事態にIT部門は役割を果たせなかったと。

桑原: 正しくは、IT部門の機能面のカバレッジを考えれば、震災直後だけを見ても、もっと役立てるシーンがあったのではないかということです。

− もう少し詳しくお願いできますか。

桑原: ご存じの通り、ITがオフィスの隅々まで入り込んだことで、IT部門のカバレッジは広がってきました。何をしても、ITがある。端的な例がコミュニケーション・インフラです。かつて有線の電話や初期の携帯電話を管轄しているのは総務部などでしたが、IP電話の導入やモバイル化などでIT部門の管理下に移ってきました。コミュニケーションの中心はネット上にあります。

− なるほど。そのコミュニケーション・インフラをより効果的に機能させることができたのではないかと。

桑原: まず、企業活動のライフラインとして、通信手段を確保しなければなりません。そして、そのインフラを異常時の活動に、率先して使いに行ったかどうか。例えば、震災が起きたとき、企業が真っ先にすることの1つは、従業員や家族の安否確認です。さらに、帰宅困難者を自宅など安全な場所へ誘導するために情報提供したり、サプライヤーの被害状況も速やかに把握しなければなりません。

− しかし、実際には停電による通信網の遮断や携帯電話の発信制限などもあり、ほとんど無力だった。

桑原: 速やかに状況把握できた企業と、そうでない企業が如実に分かれたような気がしています。元々、安否確認のシステムを備えていた企業もありますが、ポータルやフリーのクラウド・サービスを組み合わせて、とっさにしくみを作った企業もあります。大事なことは、想定を超えた事態が起きた時に、ITを使ってどう企業活動を支えるかということです。

− 平時はコミュニケーション・インフラまで担っているのに、いざというタイミングで事務処理システムの管理に戻ってしまったわけだ。TwitterやFacebookが震災直後の状況把握に役立ったという話とも因果がありそうです。

桑原: コミュニケーション・インフラの1つとして、IT部門がSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)のような仕組みを活用する手はあったでしょうね。なにしろ大企業なら数千人、数万人の従業員が一斉に帰宅したわけですから、それぞれが帰宅途中に携帯電話のカメラで撮影した画像などを集約すれば、すぐに膨大な情報量を確保できます。それを自社内にとどめず、広く公開して、社会に貢献することもありえます。

震災で明らかになった基幹系の仕組みの限界

桑原: 被災地が広域にわたった今回の震災でもう1つ感じたのは、業務の遂行に必要な情報、特に被災時あるいは直前のサプライチェーンの情報を確保することの大切さです。

− 多くの部品メーカーや資材メーカーが被災して、サプライチェーンが寸断されたメーカーも出ていますね。

桑原: まさに異常時のサプライチェーン・オペレーションですよね。そのとき影響の見極めや最善策を講じるための基礎情報として最も役立つのが、取引先や顧客と製品を関連づけたマスター情報と、直近の在庫など基幹系システムで管理しているデータです。

− 確かに。それらの情報を直ちに用意することは、異常時におけるIT部門の使命の1つだとも言えそうです。

桑原: 人が動くために必要な情報を提供することですね。ところが、これらのデータを速やかに用意することは案外難しい。

− ちょっと待ってください。震災前日はもとより、直前のデータを得ることもさほど難しくないのでは?

桑原: それが今日の基幹系システムの場合、ある瞬間の状態を情報として見せるのは、口で言うほど簡単ではないのです。トランザクションの処理を目的としたシステムは、順調にモノが動くことを前提に、どんどん進んでいきます。しかも、震災でバラバラに業務もシステム処理も止まっていく。どこまでモノとデータが合致しているのかが見えなくなります。その上、サードパーティの物流会社に引き渡した途端、今どこに何が何個あるか見えなくなるといった問題もあります。

− 企業の垣根を超えた流通在庫は把握できない。

桑原: それが悪いという議論ではありません。状態を可視化する情報を基点に、システムの動きを考えておく必要がある。同時に、「企業」の枠で情報を考える今までのシステムの仕組みは、もはや限界にきている。そのことを今回の震災が明らかにしたのではないかということです。

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