[ザ・プロジェクト]

ITの脱・資産化を粛々と進行中、クラウド活用で運用コスト4割削減へ─松竹

2011年6月23日(木)川上 潤司(IT Leaders編集部)

国内ベンダーが提供するIaaSと、海外ベンダーが提供するSaaSの両方を活用しているのが松竹だ。IT基盤などの運用管理費用の削減が目的だが、国内ベンダーのIaaSにはまだ不満がある一方、海外ベンダーのSaaSは高く評価している。一体、何が違うのか。松竹の責任者に聞いた。 聞き手は本誌編集長・田口 潤 Photo:陶山 勉

山下 良則 氏
山下 良則 氏
松竹 システム室 室長
大手消費財メーカーで生産管理、サプライチェーンや経理関連システムの開発・導入プロジェクトなどを担当した後、IT部門のマネジメントに携わる。2007年に松竹株式会社に入社後、システム室長として全社のIT戦略、統制、投資を統括管理している。

─ 2010年8月に、業務システムをクラウド化したと聞きました。どんなシステムが対象ですか。

山下: 作品データベースシステム、在庫管理システム、宣伝浸透度調査システムの3つです。TISのTEOS(TIS Enterprise Ondemand Service)というIaaSを採用しました。

─ 何かきっかけがあったんですか。

山下: これまで使っていたハードウェアが、5年間のリース切れを迎えたんです。これを置き換えるにあたり、もう自前でハードを持つのはやめようということになった。自前では運用保守にコストがかかりますし、業務の拡大や縮小に応じてCPUやディスクといったリソースを増減しにくいですから。

─ なぜTISのサービスを選択した?

山下: もともと同社にシステム運用保守を委託していたというのもありますが、最大の理由は費用です。同様のサービスを比較検討したところ、TEOSの月額料金が最も安かった。

─ 実際、どれくらい運用コストを下げられるんですか。

山下: トータルで4割減ると見ています。

─ それは大きい。でも、移行に伴う作業は大変だったのでは。

山下: いや、そうでもなかったですよ。既存システムを、そっくりそのまま仮想環境にボリュームコピーするだけでしたから。OSやデータベース、アプリケーションの変更や改修は一切発生しませんでした。

─ ふむ。そうは言っても、何か苦労があったでしょう?

山下: う〜ん、これといって思いつかないですねえ。

─ これは困った。スムーズに運びすぎで、記事にしにくい(笑)。

他システムへの展開も視野
条件は週単位の変更

山下: ただ、TEOSには不満もあります。現状では、CPUやディスク容量を月単位でしか変更できないんですよ。

─ もっと細かく変更したい?

山下: はい。こちらとしては、処理量の上下に応じてダイナミックにリソースを割り当てたいんです。業務システムに求める性能は、常に一定ではありませんから。例えば、月末や月初に処理が集中する経理システムは、週単位でリソース割り当てを変更したい。ピーク時以外、リソースを遊ばせておくのはもったいない。

─ 使わない分まで料金を支払うのは無駄だ、と。

山下: 一方、チケット予約システムは時間単位の課金が望ましいんです。というのも、歌舞伎や演劇のチケット予約は、発売開始直後の数時間に集中し、それ以降はがくっと減る。みなさん、いい席を取りたいですから。

─ 処理量に応じてサーバーのスペックを柔軟に変えたい。もっともなニーズだし、IaaSを名乗るからには実現可能なはず。TISはなぜそういうサービスを提供しないんでしょう。

山下: 技術以外の問題、具体的には事務手続きがネックになるらしいです。TISには運用保守も委託しているんですが、サーバーのスペックが細かい契約内容に影響し、それを文書化するのに時間がかかるとか。

─ なるほど。そういう事情があるんですね。

山下: でも、使う側からすればなんとかしてほしいところですね。TISには「週単位の変更が可能になったら、他の業務システムにも順次TEOSを採用していく。他社サービスに浮気はしない」と言っています。

─ ユーザーが新サービスを逆提案している?

山下: そうなりますね。サービスの利便性が高まれば、利用企業が増える。そうしたらベンダー内での運用効率が高まりますから、より有利な料金設定を引き出せる。そう期待しています。こうしてメディアの取材を受けるのも、当社の事例を知って採用を検討する企業が増えてほしいと考えてのことなんですよ(笑)。

─ サービスにはまだ改善の余地はあるものの、今後もクラウド利用を推し進めていくということですね。

山下: そのつもりです。まあ、TEOSがクラウドかどうかという点には若干の疑問が残りますけど。

─ というと。

山下: “雲”の向こうのどこにサーバーやデータがあるか分からない。クラウドって、そういうイメージですよね。ところが、TEOSの場合は「データセンター内のこのマシンで当社のシステムが動いている」と特定できる。

─ 従来のホスティングとあまり変わらない?

山下: そういうことです。

─ 確かにそうですね。

山下: 2010年6月から利用しているグループウェアは、正真正銘のクラウドサービスなんですが。

─ お、ぜひそっちの話も伺いたい。どのサービスを導入したんですか。

山下: Google Appsです。

図 松竹が活用しているGoogle Appsの画面。名前ではなく、組織階層から宛先を選べる
図 松竹が活用しているGoogle Appsの画面。名前ではなく、組織階層から宛先を選べる

ノーツ後継にクラウド採用
出先での情報共有を容易に

─ それ以前から、グループウェアは使っていたんですよね。

山下: ええ。ロータス・ノーツを導入していました。メールや掲示板のほか、ノーツDBを使って人事評価システムを開発・運用するなど、結構使い込んでいましたよ。

─ それをなぜ、リプレースしたんですか。

山下: ソフトウェアのサポート終了が近づいていたからです。ハードも老朽化していた。

─ ずっとノーツを使っていたんだから当然、日本IBMからも何か提案を受けたんですよね?

山下: はい。バージョンアップの提案を受けました。でも、コストが合わなかった。それと今回は、インターネットメールが大前提だったんですよ。当社の社員は出張が多い。国内各地の映画館や劇場回りだけでなく、海外の映画祭に参加することもあります。どこにいても、インターネットにさえ接続すれば社内と同じようにメールを使える環境がほしかった。

─ ノーツをリモートから利用する方法もあると思いますが。

山下: それだと、VPN(Virtual Private Network)を構築しなければなりません。専用のクライアントソフトも必要で、手間と費用がかかります。

─ その点、Gmailであればブラウザさえあれば利用できる。

山下: ええ。同時に、これを機にグループウェアの運用にかかる手間やコストを削減したいという思いもありました。従来、システムの監視や保守は外注していましたが、クラウドにすればその必要がなくなります。それだけではない。システム部門はセキュリティ対策やアカウント管理といった業務から開放されます。

─ ハードを所有する必要もないですしね。

山下: その通りです。そこで、Google Appsに目を付けました。

─ 無料サービスのほう?

山下: いいえ、1アカウント当たり年額6000円のPremier Editionです。我々システム室のメンバーだけでなく一部の業務担当者にもお願いして、1年半ほど試用しました。

写真左は、松竹が本社を置く東京・東劇ビル。右は京都にある同社の南座(ともに提供:松竹)
写真左は、松竹が本社を置く東京・東劇ビル。右は京都にある同社の南座(ともに提供:松竹)
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