[技術解説]

最新ネットワーク技術を理解して3つの恩恵を得る

次世代ネットワークの姿 Part2

2011年12月13日(火)渋屋 隆一、清水 健雄

ネットワーク知識の必然性──仮想化やクラウド技術の台頭により、サーバーやストレージといった コンピューティング資源とネットワーク資源の融合が着々と進んでいる。 変更や追加に強く、激変するビジネス環境に柔軟に追従できるシステムを作るには、 ネットワークをめぐる最新動向を知っておく必要がある。

受発注や在庫管理、顧客管理といった業務の多くがシステム化された今、企業にとってネットワークはまさに生命線となっている。ネットワークの故障は即、業務の中断を意味する。

ところが不思議なことに、ネットワークは専任の担当者や外部ベンダー任せという企業が少なくない。「ネットワークはデータが流れる土管のようなもの。太さを決めたら、あとは専門家に任せておけばよい」という考えが根強いのだ。確かに、これまではそれでなんとかなっていた。だが、システム構築技術の変遷とともに、サーバーやストレージ、ネットワークの融合が進んでいる。ネットワーク知識なくして、システムの最適化は望めない(図2-1)。

図2-1 従来型の企業ネットワークと、その変革を促す経営ニーズ
図2-1 従来型の企業ネットワークと、その変革を促す経営ニーズ

1950〜1980年代は、メインフレームによる集中処理の時代だった。マシンルームに設置した大型のホストコンピュータが、データを処理して保持。クライアント端末は処理能力を持たず、データを表示するだけだった。ホストコンピュータへの接続には、専用線と独自のプロトコルを利用した。ネットワーク技術が取り沙汰されることはまずなかった。

1990年代、PCが登場してクライアント/サーバー型のシステムアーキテクチャが普及。データの処理や保持が分散化した。これに伴い、クライアントとサーバー間のトラフィックが一気に増加したほか、管理負荷や情報漏えいリスクが増大した。こうしたなか、物理的に離れた拠点間でいかに広帯域・低遅延の通信を確保するかや、セキュリティをどのように確保するかが、ネットワークにおける主要な関心事だった。

一方、この時代にはシステムのサイロ化が進んだ。アプリケーションとインフラは1対1でひも付き、新たなシステム導入にはハード調達が必ずついてまわった。このため、企業内には異なるプラットフォームが乱立し、その間を接続するネットワークは複雑化。さながらスパゲティの様相を呈していた。それでも、LANやWANの高速化が進んだことから、大きな問題としては顕在化しなかった。

2008年ごろ、クラウド時代が到来。企業システムは、再び集中へと向かった。ただし、メインフレーム時代と異なるのは、柔軟性だ。仮想化技術を用いてCPUやメモリー、ハードディスクといったリソースをプール化。要求に応じて自在に組み合わせることで、システムを迅速に追加・変更可能になった(図2-2)。

こうしたクラウド時代、ネットワークの重要性は極めて高くなった。リソースの付け替えを広範囲で実現し、システムの柔軟性を最大化するには最新ネットワーク技術の導入が欠かせななくなりつつある。

仮想サーバーの遠隔移動やテレワーク推進のキーに

最新のネットワーク技術が企業システムにもたらす恩恵は、大きく3つある。1つは、物理的な距離を超えたサーバーリソースの再配置である(詳細はPart3)。トンネリングやバーチャルシャーシなど、ネットワークを論理的に分割しつつ一元管理する新しいネットワーク技術により、データ伝送経路の自由度が大幅に向上。稼働中の仮想サーバーを無停止で異なる物理サーバーへ移動させる「ライブマイグレーション」が容易になる。例えば、仮想サーバーの移動先にネットワークポリシーを自動で引き継げるので、ライブマイグレーションのたびにサーバーやネットワーク機器を1台ずつ設定変更する手間が不要になる。これまで不可能だった長距離間でのライブマイグレーションも可能になる。

もう1つの恩恵は、システム利用形態の自由度を高められること。近年、ワークスタイル改革に取り組む企業が増えている。仮想デスクトップやスマートデバイスを活用し、場所にとらわれない新しい働き方を推進することにより、社員の生産性向上や事業継続性の確保を目指す動きである。

しかし、公衆無線LANサービスや3G(第3世代携帯電話回線)、LTE(次世代携帯電話回線)を用いたシステム利用にはセキュリティリスクがつきまとう。これを軽減するのが、次世代型の認証やファイアウォール技術である(詳細はPart4)。このほか、個人所有の端末から社内システムにアクセス可能にする「BYOD(Bring Your Own Device)」を支援する技術分野として、MDM(Mobile Device Management)が挙げられる。MDMにより、ネットワーク越しにスマートデバイスのパスワード管理や利用状況の把握、機能制限、データ消去などを実行できる。

自社導入に比べてコストを抑えられるクラウドサービスの利用を後押しすることが、最新ネットワーク技術の3つめの恩恵である。

いまや、CRMなどの業務アプリケーションやメールといったクラウドサービスの利用は珍しくなくなった。しかし、大量のトラフィックを発生させる“重い”サービスの利用はあまり進んでいない。例えば、一昔前のSDからHDへと画質が向上したビデオ会議システム。社内コミュニケーションの改善や出張費削減といった効果が見込めるにもかかわらず、「ネットワークへの負荷が高い」という理由で利用を断念する企業は少なくなかった。複数ユーザーが画面共有やチャット、ファイル転送といった機能を同時に利用するWeb会議システムもしかりだ。

アプリケーションに応じてネットワーク品質の最適化を図るQoS(Quality of Service)を実現するネットワーク技術が、企業をこうした制約から解放する。帯域制御や、WAN最適化がこれにあたる。

次ページに、来るべき企業ネットワークの姿とそこで活用される技術を示す。Part3、4では、この図に登場する技術から主なものを解説する。

従来のノートPCに加えて、スマートフォンやタブレットPCなど、社内ネットワークにアクセスする端末が多様化している。社員が個人所有するデバイスからのアクセス解禁を求める声も多い
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図2-2 コンピュータシステムの歴史
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