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メタボな既存システムのスリム化は実現できる? 富士通が発表した「Reshaping ICT」の考え方と実用性

2012年2月6日(月)

「メタボな体のままでは、新しいことがやりにくい。例えば、最新のファッションやスポーツを楽しめない。長い目で見た健康にも良くない」。これは人の話だが、情報システムにもまったく同じことが言える。長年の間に複雑化・肥大化した既存のシステムのままでは、新しいシステムや技術にお金を回せないし、実装が困難だ。企業の”健康”、そして競争力にも悪影響を及ぼすーー。

こんな問題意識のもと、「Reshaping ICT」というサービスを構築中の富士通は、1月中旬に記者向けの勉強会を開催した。その名前の通り、企業が保有する既存の情報システム資産を整理統合し、リニューアルする、いわば”企業ITのメタボ解消サービス”である。富士通が企業のシステム資産を預かって運用する中で、ムダをそぎ落としたり、スパゲティ状態になっているシステムを改修するのが、基本だ。

これだけの情報だと「売上拡大を目指したサービスに過ぎず、ユーザーの利点は少ないのでは?」、「富士通が提供するクラウドの利用を促される新手のベンダーロックインだろう」、「昔からやってきているレガシーマイグレーションなどと何が違うのか」といった疑問が出てくるだろう。実際、発表会ではなく、勉強会(=説明会)だけに費用モデルなど詳細は示されなかった。しかし勉強会で富士通が述べた問題意識や内容を見ると疑問は残るにせよ、相当に考えられたサービスだと言える。以下では(1)問題意識(現状認識)、(2)サービス内容、(3)目指す効果、の順に、Reshaping ICTを見てみよう。

ICT投資の80%が保守・運用、新規はわずか8%

まず(1)の問題意識から。「企業ITの役割は、かつての業務効率化やコスト削減のツールから、現在では経営判断の迅速化や顧客との関係強化を支援するものへと変わった。ところが現実には、必ずしも、そうなっていない。大きな理由が、ICT投資の大半が既存システム向けで新規向けは、わずかといったIT投資に関わる問題だ。それだけでなく、既存システムの維持や保守に人を貼り付けるざるを得ないなど、人材の高度化の面でも足かせにもなっている」。勉強会の説明役であり、富士通のSI部隊を技術、ノウハウで支援する役割を担っているサービステクノロジーグループ共通技術本部の柴田徹本部長は、こう語る(以下の発言はすべて同氏)。

柴田本部長によると、日本ではICT投資の80%が保守・運用。新規システム投資は8%しかない。海外はそれぞれ67%、14%だという。同時に、既存ICT資産のスリム化に向けて取り組みが進む仮想化やクラウドへの移行は、それだけでは大きな利点は生まれないと指摘する。「既存システムを仮想化して得られるコスト効果はあるにせよ、抜本的な変化とは言えない。下手をするとセキュリティ管理はより複雑になるし、グローバル化に求められる迅速なシステム展開も容易になるわけではない」。富士通がこう指摘する資格があるのかという疑問はさておき、指摘自体は的を射ているだろう。

では、この問題から脱却するために、富士通は何を提供するのか。つまり(2)のサービス内容は何か。まとめると「モダナイゼーション」、「成長開発」、それに「ICT投資評価」の、3つのアプローチを組み合わせて提供するという。最初のモダナイゼーションとは、ここ数年、同社がSI事業として手がけてきたサービス。既存ICTのアプリケーションやデータベースを全体を対象に、「見える化(棚卸し)」と「スリム化(統廃合)」、「最適化(標準化)」を施すものだ(図1)。

図1 Reshaping ICTでは、運用の中でモダナイズを実施、ICT基盤の最適化を支援する

図1 Reshaping ICTでは、運用の中でモダナイズを実施、ICT基盤の最適化を支援する

Reshaping ICTの3つの中身--モダナイズ、成長開発、投資評価

モダナイゼーションは要する費用を別にすれば分かりやすい話であり、「これまで実施した案件ではプログラム本数を58%削減したり、バッチジョブを1000削減するなど大幅なスリム化の事例がある」。ところがこれまでのモダナイゼーションは、SI案件のようなプロジェクト型で実施してきた。「結果として、スリム化や最適化を提案しても、機能面で”現行踏襲”が前提になるケースが大半で限界があった」。そこでReshaping ICTでは富士通が顧客のシステム資産を預かり、運用・保守する中でモダナイズするという。「そこではソフトウェアライフサイクル全般を支援するINTARFRMなどを活用する」。

それでも、これだけだと既存システムのリニューアルに留まる。そこで2番目の「成長開発」、つまり事業の変化や成長に合わせて必要なシステムを必要なタイミングで開発する必要がある。そのために、要件定義の手法である「Tri-shaping」による開発要件の構造化や管理、プロジェクト運営機能や開発基盤をクラウドサービスとして提供することによる開発のクラウド化などを提供する(図2)。「要件を事業の目標レベルから可視化し、超上流から実現手段まで一貫して管理する仕組みを提供する。それによって優先度を見極めながら、当社の開発クラウドセンターや、システムのひな形であるテンプレートなどを駆使して、必要なシステムを短期開発する」。

図2 成長開発の仕組み。プロジェクト運営基盤や開発環境、テンプレートなどを用意する

図2 成長開発の仕組み。プロジェクト運営基盤や開発環境、テンプレートなどを用意する

使えるサービスやシステムを利用して短期開発

ちなみに開発クラウドセンターとは富士通が沼津に設置した施設。サーバーやストレージなどのシステム基盤や開発ツールがそろっているため、開発期間を短縮できるのがうたい文句。しかし当然ながら、なんでもかんでも新規開発するわけではなく、使えるサービスやシステムを利用して短期開発を目指すという。

最後の「ICT投資評価」は、企業が持つシステム資産がビジネスに貢献しているかどうかをチェックするもの。「ビジネスとICTのつながり、IT投資案件の優先順位付け、それにシステム全体の状態把握に基づく保守の優先順位付け、の3つが実施項目。例えばビジネスとICTのつながりでは、富士通のベテラン技術者がユーザー企業の営業や生産現場を観察。インタビューなども実施して、ICTがビジネス貢献できているかどうかなどの問題を洗い出す。その上で改善策を立案し、必要ならシステム開発を提案する。また保守の優先順位付けでは、Quality-Shapingと呼ぶサービスを提供する」。

この説明にある保守の優先順位付けは、ICT投資評価ではなくモダナイゼーションの一環に位置づけるべきようににも思える。だがモダナイゼーションはシステム同士を連携させるインタフェースや、画面や帳票などのユーザーインタフェース、あるいはICT基盤のモダナイズが中心。個々のアプリの内部ロジックの複雑さや規模=保守難易度は重視しないので、ICT投資評価の中に位置づけたようだ。この点も含めICT投資評価は、モダナイゼーションとも成長開発とも異なる、より投資対効果に重点を置くサービスだ。

Reshaping ICTに合わせ、自社の人材モデルもリシェイプ

Reshaping CTを提供するために、人材モデルの変更も検討している(図3)。富士通は現在、経産省が策定したITスキル標準を元にした人材モデルを運用している。現行のITスキル標準は、プロジェクトマネジメントやITアーキテクチャ、ITスペシャリストなど、どちらかと言えば個別のシステム開発・運用に必要なスキルに軸を置いた人材モデルだ。これだけでは既存システム全体のモダナイズや、ユーザー企業が気付かない問題をも視野に入れたシステム刷新には、必ずしも適さない。

図3 IT人材(SE)の人材モデルを変えていく。富士通が持つ「43万件」(同社)の情報を各人材に提供する

図3 IT人材(SE)の人材モデルを変えていく。富士通が持つ「43万件」(同社)の情報を各人材に提供する

一方で富士通は2007年から企業の現場に入り込んで業務やシステム上の課題を抽出し、問題解決を提案する”フィールドイノベータ”と呼ぶ人材像を定義し、育成してきた。今回の発表ではこれに加えて「ビジネスプロデューサやサービスインテグレータといった(ユーザー企業の視点から見た)ロール(役割)毎の人材像を策定。ビジネスに密着した形でのサービス提供を可能にする」という。つまりシステム構築に必要となる各種スキルを有するIT人材の提供から、事業視点でシステム全体の最適化や高度化を提案・実施する役割を負う人材の提供へ、というわけだ。

ここで「そんな高度なIT人材が存在するのか」、「既存のIT人材をそうした人材に転換できるのか」、という疑問が出てくる。当然、そうはいかず、例えばフィールドイノベータは2011年でまだ350人の体制。既存のIT人材の高度化を進めながら、経験やスキルを見て新たな高度人材を任命・育成するしかない。「新たな人材に関して、大事なのは目利きの力。製品やサービスに関するノウハウや情報、事例など、当社が有するコンテンツを適切に提供する体制を整えている」。

加えて開発系のIT人材が不要になるわけでもない。業務系システムの受託開発という従来の仕事は減少するにしても、モバイルソリューションやM2M、クラウド活用やソーシャル対応、ビッグデータ、Webマーケティングなど、新たなIT案件の拡大は見込める。一部報道ではすべてのIT人材(SE)をロールに基づく人材に転換するかのような見方もあるが、それは正しくないのだ。ただし、こうした案件をこなすIT人材に関わる方針については、今回の発表会では言及されなかった。

Reshaping ICT後の「ToBe」モデルが求められる

ここまで読んでいかがだろうか。個々の企業毎に状況の異なる既存ICT資産にスポットを当てるだけに、抽象的で分かりにくい面があるし、「INTARFRMやTri-Shapingなど、これまで個別に提供してきたサービスをうまくまとめただけ」に見えることも否めない。後述する課題もある。

しかし、ともすればスマートデバイスやクラウド、ビッグデータなど、関心を惹き付けやすい新しいITに関する製品や技術・サービスに焦点を当てがちになる中で、それらの新しいITを利活用するためにも既存の資産をリニューアルすべきという考え方と、そのためのアプローチを地道に整備する姿勢には好感が持てる。このことはIT Leaders 2011年10月号特集「企業ITのグランドデザイン」で示したこととも共通する。

一方でReshaping ICTにはもう一段、完成度のステージを高めるて欲しいなど課題もある。モダナイぜーションや成長開発の先にある「次世代のシステム像(To Be:あるべき姿)」を明示していないことがその1つだ。例えば変化対応力を高めるための疎結合化や、複数システムをまたがるビジネスプロセスの支援、企業システム全体を貫くデータ基盤。あるいはスマートデバイスを端末とするためのユーザー・インタフェースの抽象化、基幹系のリアルタイム化、ソーシャルメディアと基幹系連携、パブリックサービスとプライベートシステムの柔軟な連携など、今日の企業ICTへの要求項目は多い。仮にReshaping ICTに則った場合、こうした要求に応えられるシステムになるのか、現時点ではそのイメージは得られない。

透明性の高い料金モデルの提示、タイムフレームの明確化も重要だ。Reshaping ICTを利用する場合、富士通のIT人材の料金はこれまで同様、月額課金なのか。そうだとすると富士通側には時間をかけ、開発案件を増やした方がいいというインセンティブが働く。逆によくあるアウトソーシングのように年間、あるいは複数年で料金を固定すると、できるだけ何もしない方がよいことになる。難度は高いが、ユーザー企業と富士通双方にとってWin-Winになる料金モデルが必要だろう。

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