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「クラウド」を無視し続けることこそが経営の最大のリスクとなる

Cloud Computing: Anything as a Service By Tony Kontzer
翻訳 : 古村 浩三

SaaS(ソフトウェア・アズ・ア・サービス)やPaaS(プラットホーム以下同)、さらにIaaS(インフラストラクチャ以下同)といったいわゆる「XaaS」はITの世界で勝ち組になる可能性を秘めているサービスであり、IT産業そのものの形態を大きく変換するかもしれない。

3年前、病院の緊急医療部門や医師などのスタッフの管理・運営を行うシューマッハグループのCIO(最高情報責任者)に就任したダグラス・マネフィー氏は、彼のスタッフがアプリケーション開発や、システムのインフラをサポートするために費やしている時間の多さにすぐ気がつき、もっとましな方法があるはずだと思った。

CEO(最高経営責任者)の部屋に赴いたマネフィー氏は、「あなたはこの会社をソフトウェアの開発会社にしたいのか、それともソフトウェアを活用した先進の医療マネジメント会社にしたいのか?」という質問を投げかけた。

この質問がきっかけとなり、同社はクラウドコンピューティングというITの世界では新しいサービスに賭けてみることにしたのだ。すぐにセールスフォース・ドットコム社がクラウド形式で提供するオンデマンドのCRM(顧客関係管理)アプリケーションに契約。現在では、スタッフがかかわるビジネスプロセスのほぼ半分はクラウドで処理されているとマネフィー氏は概算する。「将来的にはどこにソフトが存在するかは問題ではなくなる」(マネフィー氏)。

多くのCIOは「自前のインフラ」にこだわっているが、その理由は単純なものだ。彼らは、クラウドはまだ重要な場面での使用に耐えないと思っているからである。

ITの責任者はクラウドについてはその信頼性だけでなく、クラウドの提供者にデータを委ねることを恐れていたり、実際のインフラのサポートに関連して詳細な情報が提供されていないことにまだ不信感を抱いている。

大手証券会社のメリルリンチはクラウドの市場がこの5年で95億ドル(約1兆円)となると予測しているものの、こうした不信感が市場の成長に待ったをかけている。

温度差の根源はCIOの思い

まだ黎明期のクラウドコンピューティングの世界に企業が立ち入るかどうかはIT部門のトップのリスクに対する寛容度にかかっている。信頼性や安全性、トータルのパフォーマンスに対してくすぶり続ける疑問があり、保守的なCIO(実はこれが大半だが)は今は斜に構え、技術が確立するまではたとえ小規模なアプリケーションでも他人のサーバー上で実現させようとは考えていない。

だが一方で今こそリスクを受け入れ、クラウドコンピューティングに両足をどっぷり浸ける大企業も着実に出てきている。専門チームにクラウドを検討させ、その利点を見つけ出そうとしている企業は増加しており、SaaSなどの「XaaS」が提供する代替案について経営上の評価がなされているのである。

シューマッハグループはクラウドコンピューティングにいち早く乗った企業であるが、マネフィー氏をそこに誘った決定的理由は技術の問題ではなく、実は自然災害であった。ちょうどCIOになったばかりの時にハリケーンのカトリーナが湾岸地帯を襲った。ルイジアナ州のラファイエットにある本社、データセンターは幸い直接の被害には遭わなかったが、新しいCRMをどうしようかと考えていた彼にとって、サーバーがまったく別の場所にあるクラウドは大変魅力的に思えたのである。

その18カ月後にセールスフォースがアプリケーション・プラットフォームの提供を開始したのを受け、彼のスタッフはサーバーやデータベース、開発ツールに関するベンダーのバックアップを得ながら、独自のビジネスプロセスをクラウドの上で驚くほどのペースで実現し始めた。

彼はまだ、ミッションクリティカルなシステムをクラウドに持っていくと決断していないが、その可能性は否定していない。「クラウドに対して全面的にコミットしているわけではないが、会社が発展していくのに呼応して、クラウドにより多くのプロセスを移行していくことになるだろうと感じている。例えば、請求業務や書類の画像化などはその候補だ」とマネフィー氏は話す。

早期開発と低コストを両立

世界各国の株式市場に技術とサービスを提供する米NASDAQ OMXの研究開発グループは、株式情報検索ツールをデスクトップ上でどの様に提供すべきかの検討を重ねてきていたが、結論が出ていなかった。それはコストの問題が解決されていなかったからだ。

半年前、担当副社長のクラウデ・カーボイス氏とスタッフがアマゾンとアドビ システムズの技術者とそれぞれ別に会合を持って話をしたところ、現状を打開できそうな新しい方法がありそうだと気がついた。アマゾンのクラウドサービス「S3(Simple Storage Service)と、同じくアドビの「AIR(Adobe Integrated Runtime)」を組み合わせれば、充分に安価な製品を提供できるのではと彼は確信した。

その後すぐ、NASDAQ OMXは「Market Replay」と呼ばれるダウンロード製品を株の取引業者や金融機関のWebサイトに向けて販売するようになった。これによりNASDAQをはじめ、ニューヨーク証券取引所やAMEX(アメリカン証券取引所)に上場している企業の過去30日間の詳細な情報をパソコン上で提供できるようになった。

クラウドを利用したことによって、彼のスタッフが技術者という枠を超えて、事業家という観点で何ができるかを考え始めたことが、彼にとって大きな収穫だと言う。「この業界では画期的なものを作り上げたと自負している。しかもこれまでは当たり前とされたサーバーに対する膨大な投資をすることなく、安価なサービスを顧客に提供できた」。

腹をくくりチャンスととらえる

フランスの大手ITコンサルタント会社、キャップジェミニのIT開発子会社ソゲッティ・グループでは、CTO(最高技術責任者)のマイケル・ボリール氏がイノべーションを皆で共有する道を探していた。彼はある時、IBMの「idea gem」というコンセプトを採用することを提案された。これは、いわゆるWeb2.0をうたうツールがリアルタイムのコラボレーション環境を作り出す仕組みだ。しかし、それを2万1000人の従業員を持つソゲッティで活用するために克服しなければならない技術的な大きな障壁があった。それほどの人数による同時アクセスを処理しようとすれば、ものすごく速いサーバー群と多量のネットワークへの太いパイプ、それに頑丈で安定したアプリケーションなどが必要となってしまう。

早期実現を目標としていたボリール氏だが、同社の官僚的な組織の中ではこの種のプロジェクトがなかなかスタートを切れないことも感じていた。そんなタイミングで、Web2.0技術を使ったコラボレーションツール「Lotus Connections」の上で必要なアプリケーションを開発し、アイルランドのダブリンにあるクラウドの施設でその運用を行うという提案がIBMから寄せられた時には、すぐそれに飛びついた。

この4月には、新環境を使っての72時間におよぶコラボレーションは何の問題も無く終了し、2000件におよぶ新しいアイデアが提案され、その内の60件については現実に推進プロジェクトとして取り上げられたと言う。

もし、これまで同様に自社のIT部門にシステムを構築させたとしたらどうなっていたかとの質問に、彼は「今日現在でも、どうやったら実現できるかについて議論をしていたことは間違いない」と答えている。

クラウドは充分なセキュリティと信頼性に欠けていると認識している多くのCIOに対してボリール氏はこう指摘する。「腹をくくりなさい。クラウドは脅威ではなく、もっと多くのチャンスを与えてくれる。そのチャンスをあまりに長く無視し続けることこそがあなたにとっての脅威となるのだ」。

表 クラウドコンピューティングに踏み込む前に考えるべき主要な項目
CEO(最高経営責任者)への質問
● 自社は新しい形式の情報システムに移行するリスクを受け入れることができるか?
R&Dチームへの質問
● 挑戦的なプロジェクトに取り組んだことはあるか?
CSO(最高セキュリティ責任者)への質問
● 「クラウド」にデータを委ねる際、最大のセキュリティ事項は何か?
ベンダー候補への質問
● データはどのように保護しているか?
● パフォーマンスと可用性を保証するSLA(サービスレベルアグリーメント)はあるか?
自社のスタッフ、そして自分自身への質問
● クラウドコンピューティングによるリスクを正当化するメリットがあるか?
● クラウドの適正な利用のため制限を強制することは可能か?

 本記事は米国の有力ITメディア「CIO INSIGHT」
(提供はZiff Davis Enterprise)の記事を翻訳したものです。
©2008 Ziff Davis Enterprise, Inc.

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