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Web技術の未来がここにあるーーTechCrunch 50開催レポート

最優秀賞は“ささやき”を企業内で共有する「ヤマー」

IT、特にWeb技術を活用したサービスの分野では、世界中のベンチャーが日の目を見るチャンスをうかがっている。
ユーチューブ、トゥイッター…。次に成功を手にするのは誰か。
2008年9月8日からの3日間、
Web技術を使ってユニークなアイデアを形にしているテック系の関係者がサンフランシスコに集結。
50を超えるサービスを対象にした選考イベントが開かれた。現地の模様をリポートする。

Webを駆使した新しいサービスや会社のことを、最近では「テック」という言葉で総称する。テック系の話題は新聞や雑誌より、専門ブログで取り上げられることが多い。代表的なブログが「TechCrunch」である。

サンフランシスコ郊外に住むマイケル・アリントン氏がテック系のニュースを扱う専門ブログ、TechCrunchを立ち上げたのは2005年のこと。今では、ブログのサーチエンジン「テクノラティ」で常に、お気に入りブログの世界トップ2位にランクされている。TechCrunchで取り上げられるかどうかが、テック系ベンチャーやサービスの資金調達や株式上場の行方を左右するほど、大きな影響力を持つ。

一方、およそ10年前、ニューヨークのシリコンアレーで、ジェイソン・カラカニス氏がテック系のニュースを扱うタブロイド紙「シリコンアレー・リポーター」を創刊した。同氏は後にシリコンアレー・リポーターをダウ・ジョーンズに売却。現在はロサンゼルスを本拠に、人海戦術サーチエンジン「マハロ」を運営する企業を経営している。

アリントン氏とカラカニス氏。テック系に造詣の深い2人は、優れたベンチャーやサービスを選出するイベントを企画した。それが、年に一度サンフランシスコで開かれる「TechCrunch」である。初回の昨年は、最終選考に40社のベンチャーが残ったので「Tech Crunch 40」と題し、サンフランシスコ中心部の「パレスホテル」で開催。最終選考に53社が残った今年は「Tech Crunch 50」とし、倉庫街にあるサンフランシスコ・デザインセンターに会場を移して開かれた(写真1)。

画像:写真1

同センターは家具やインテリアが買えるショッピングセンターとして、サンフランシスコの市民には有名な場所だ。倉庫を改造した一部の建物がイベント・スペースになっている。そこに、世界各国のテックベンチャー、ベンチャーキャピタル、IT関連の報道機関が一堂に会した。

メイン会場前の展示エリアも熱気に包まれる

会場であるデザインセンターに入るとまず、「デモピット」が目に飛び込んでくる。プレゼンテーションが行われるカンファレンス・ホールの前に設けられた特設エリアだ(写真2)。有望ベンチャーが所狭しとデモ用のテーブルを並べ、各社の広報担当者が熱弁を奮っている。

画像:写真2

TechCrunch 50 の入場者は、初日に受付で3枚のトークンをもらう。デモピットの出展ベンチャーは毎日入替制になっていて、入場者はプレゼンテーションの合間にデモピットを訪れて、それぞれの日に一番と思ったベンチャーに1枚ずつトークンを渡す。3日続くイベント期間中に最も多くのトークンを集めたベンチャーは、最終日に表彰される仕組みになっている。

そのためデモピットは常に熱気に包まれている。自社のサービスの素晴らしさを説明しようにも、まずは入場者に足を運んでもらわなければいけない。そこでデモピットに出展している各社は、思い思いのやり方で入場者集めに奔走する。ポップコーンを弾けさせたり、チキンスープをふるまったり。デジタルなイベントであっても、人を惹きつけるのはやはり「食い気」ということだろう。

いつも思うことだが、海外で開かれるこの種のイベントは朝が早い。メインプログラムは9時の開始だが、7時30分には開場して、最終選考に残ったプレゼンターや参加者が朝食のパンとコーヒーを片手に歓談を始めている。それでいて、日中のイベントの後、アフター5は深夜までクラブで踊り興じながら名刺交換する。そんな日々が3日間も続く。TechCrunchのイベントをマラソンと形容した人がいるが、実に的を射た表現だと思う。

Web分野の成功者が、未来の成功者を審査

9月8日、時計の針が予定の9時から30分ほど過ぎた頃、米国国歌の斉唱でカンファレンスが幕を開けた。会場に設置されたWiFi(無線LAN)の調子が悪く、それを復旧するのに時間を要した模様だ。

TechCrunchでは最終選考に残ったベンチャーを、「若者層向け、文化」や「エンタープライズIT」など、ビジネス分野別に12カテゴリに分けて審査していく(表)。審査員は、それぞれのカテゴリですでに上場を果たしたり、地位を築き上げたドットコム企業のCEO(最高経営責任者)らが務める。成功者が、これから成功する者を審査するという構図だ。

表 TechCrunch 50 で設けられた、ビジネス分野別のセッション
セッション1 若年層向け、文化
セッション2 ニュース、ミーム(ネット上の流行やトレンド)
セッション3 エンタープライズIT
セッション4 広告、コマース収益化
セッション5 コラボレーション
セッション6 金融と統計
セッション7 モバイル
セッション8 言語、コミュニケーション・ツール
セッション9 リッチメディア(映像・音声など)
セッション10 ゲーム
セッション11 バーティカル(分野特化型)ソーシャル・ネットワーキング
セッション12 リサーチ、レコメンデーション

最終選考に残ったベンチャーに与えられるプレゼンテーションの持ち時間は8分。ベンチャーの経営者らは審査員や聴衆が見守る中、時間をフルに使って自社サービスを最大限にアピールする(写真3)。

画像:写真3

プレゼンテーションが終了すると、審査員がベンチャー経営者に質問をして寸評を行う。そして個々のベンチャーを採点する。評価の公平性を保つため、プレゼンする企業に出資している審査員は、その企業にポイントを投票できないルールになっている。

最終選考に残った53社の中から、審査員や聴衆から高い評価を得ていたベンチャーをいくつか紹介しよう。

スワイプ

通常のキーボードのパンチングの代わりに、タッチスクリーンに表示されたキーボードを指で一筆書きすることで文字入力できるテクノロジーだ。辞書を内蔵しており、一定の単語を予測変換する機能を備えている。現在、Windows Mobile、同XP、同Vista用のアプリケーションがリリースされている。

操作のデモが紹介されると、非常にスピーディーに文字を入力できる様子を目の当たりにした聴衆から喝采を博した。「Web2.0」の父と言われるティム・オライリー氏や、Twitter創業者のエバン・ウィリアムス氏など、審査員もかなり関心を持ったようだ。こぞってステージ上でスワイプを試し、自身のブログでその可能性について言及している。

モバイル環境で使うキーボードと聞いてアメリカ人がイメージするのは、十中八九Blackberry端末だろう。だが、あの小さなキーボードは文字の入力インタフェースとして必ずしもベストではない。

アップルのiPhoneやグーグルのアンドロイド携帯電話が発売され、ビジネス用端末としても普及が見込まれている。ビジネスシーンでは比較的多くの文字入力が必要になると考えられ、スワイプのようなテクノロジーへの期待は高まりそうだ。

現時点で未開発ではあるが、ローマ字入力と日本語辞書を備えれば、日本語環境でも問題なく利用できるはず。移動しながら片手でビジネスメールを書けるようになったら画期的である。

ビデオサーフ

リッチメディアのカテゴリで審査員を務めていた米国の著名テック系ブロガー、ロバート・スコーブル氏に「やっと、最低じゃないのが出てきた」と言わしめた、ビデオのサーチエンジンである。ユーチューブに代表されるビデオ共有サイトに登録された動画の内容を解析し、ユーザーの要求に合った検索結果を表示する。

グーグルにせよ、ユーチューブの検索機能にせよ、これまでは登録された動画に付けたタイトルやタグなどの文字情報をキーにして検索するしかなかった。ビデオサーフは検索エンジンが動画を解釈し、検索キーを生成する。動画の中の検索結果に該当する一部だけを頭出しして見ることもできる。

ガゾパ

日立製作所の社内ベンチャーが、グーグルに立ち向かわんとして開発した画像サーチエンジンである。世界中のWebサイトをクローリングして集めた画像の中から、ユーザーのイメージに近い画像を探し出す。

テキストだけでなく、画像やペイントツールで描いた形状を検索キーに使えるのが特徴だ。車の画像をキーにすれば、類似車種の画像を検索できる。デモでは、ガゾパが備えるペイントツールでTシャツの形を描いてTシャツの画像を検索してみせ、聴衆の関心をさらった。

日立はTechCrunch 50の期間中にガゾパのプライベートベータ版を一般公開した。ガゾパのサイトから利用申し込みをすると、数日から数週間後にユーザー登録用のメールが届き、ログインできるようになる。

日本からはガゾパに加え、頓知・株式会社の「セカイカメラ」と、リネン社の「オープントレース」が最終選考に残った。セカイカメラはiPhoneのカメラで撮影した画像と、関連する情報を結び付けて表示するiPhoneアプリ。オープントレースは、商品が手元に届くまでの環境負荷を、商品を原料までさかのぼって計算するWebサービスである。

エンタープライズ分野のシンプルなサービスが最高賞に

TechCrunch 50の最優秀賞に選ばれたのは、エンタープライズITのカテゴリでプレゼンテーションをした「ヤマー(http://www.yammer.com)」だった(写真4)。「今、何の仕事をしているか?」「何を探しているか?」といった短い会話を、ネット上でやり取りするサービスである(図)。インターネット上で家系図を作成するサービス「ジーニー」の運営者デイビッド・サックス氏が、もともと自社の社員間のコミュニケーションを円滑にするために考案したものを一般に公開した。

画像:写真3
 
画像:写真1

ユーザーは「メールアドレスのドメインが同じなら同じ会社の社員」と判断され、共通のコミュニティーで会話を交わせる。同僚に仕事を頼む、作業を円滑に進める、といった用途での利用拡大が見込まれる。

ヤマーは、言わば「トゥイッター」のビジネス版である。トゥイッターは有名なので知っている人もいるだろう。「今、××をしていますか」という“ささやき”を友人同士で共有する、グループウェアとメッセンジャーの機能の隙間を狙ったサービスだ。

最終選考に残った53社のソフトやサービスの中には、技術やビジネスモデルの面で、より洗練されたものがいくつもあった。それなのに、ヤマーのようなシンプルなサービスが最優秀賞を受賞したことは少し拍子抜けだった。

しかし、審査員が口々に述べていた「高度な技術やビジネスモデルを備えたサービスが成功するとは限らない」ことも真実である。シンプルなサービスは誰にも理解しやすい。イノベーティブとは言い難いが、一定の認知を得たサービスをビジネスに転用するという発想は、投資家にとって手堅い選択肢なのかもしれない。

それに、「隣の部署がどんな仕事をしているかわからない」というセクショナリズムの弊害は、万国共通の悩みのようだ。ヤマーの入賞は、その悩みを解消する救世主になってほしいという期待の現れのように思えた。

生中継で3万人が視聴グーグルやMSがスポンサーに

実はTechCrunch 50では、あることが危惧されていた。「DEMO」というテック系のカンファレンスが同時期にサンディエゴで開催されるので、来場者が二分してしまうのではないかとの心配があったのだ。だが、それは杞憂に終わった。TechCrunch 50の来場者数は事前の予想を超えて2000人に上った。さらに3万人を超えるインターネット・ユーザーが、TechCrunch 50のスポンサーであるUstreamが2台のカメラで生中継したカンファレンスの様子を視聴していた。

TechCrunchはもともと、アリントン氏が趣味の延長で始めたブログで、開設当初はこじんまりとした雰囲気だった。しかしTechCrunch 50では、マイクロソフトやグーグル、ベンチャーキャピタルのセコイヤ・キャピタルといった有名企業がスポンサーになっており、商業的な色合いが濃くなりつつある。それを象徴するかのような一幕があった。

イベント2日目のランチタイムのことだ。マイクロソフトがMSNマネーのプレゼンテーションをしていたとき、聴衆の一人が野次を飛ばした。それを聞いたアリントン氏は、「マイクロソフトは我々のスポンサーだ。スポンサーのプレゼンに文句を言うヤツは出て行ってもらう」と声を荒げた。会場は静まりかえり、報道関係者らは「スポンサーに気を遣い過ぎ」と批評していた。しかし、わずか3年で、世界中のIT関係者が注目するほどのイベントになってしまったのだから、仕方がないのかもしれない。

カラカニス氏はイベント終了後に参加者に送ったメールの中で、「Tech Crunchをテック業界のサンダンス映画祭にしたい」と語っている。俳優ロバート・レットフォードがサンダンス映画祭を始めて30年。彼の当初の想定を超えて映画ビジネスの主戦場と化している。TechCrunchにはスポンサーやベンチャーキャピタルと良好な関係を保ちながらも、「優れたネットビジネスを見つけ出す」という初心をいつまでも忘れないでほしいものだ。

【訂正2008/12/19】 記事掲載当初、「ジェイソン・カラカニス」氏の氏名を、「ジェイソン・カラニカス」としていたものを訂正いたしました。また写真1と写真2の画像が逆になっていたものを訂正いたしました。

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