PR
第3回 精神的報酬を実感させ社外活動を奨励する
組織内のモチベーション向上策を考えるとき、職場環境は極めて重要なファクターになる。職場環境と言うと、利便性のよいきれいなオフィス、ゆったりとしたデスク周り、最新のPC環境、疲れたときにブレイクできる休憩室といったことを思い浮かべるかもしれない。確かに、そうしたハード環境を整えることは、組織内のモチベーションを高める重要な要因である。しかし、それだけでは十分ではない。人には、最高の機器や空間を用意してもすぐそれに慣れ、さらに高度な状態を望むという特質があるからだ。

図1 職場環境チェックリスト
そこで今回は、雰囲気や風土といった職場のソフト面に注目する。ビジネスでもスポーツでも、所属するチームによって人のモチベーションには大きな差が出る。自然にやる気が湧き出る風土の組織もあれば、どうもやる気が出ない雰囲気の組織もある。みなさんも、こうしたことを体感してきたはずだ。
モチベーションを高く維持している組織には、共通点がある。「互いに認め合う」「やりたいことをやれる」「刺激的な仲間がいる」「精神的報酬を得られる」「皆の目がいつも社外を見つめている」といった場になっている点だ(図1)。あなたが所属する組織はどうだろう。「ほとんど当てはまらない」という場合は要注意。以下を読み、新たな場の創造に取り組んでほしい。
認め合い共に成長できる場を
人は誰もが「認められたい」という自我の欲求を内に秘めている。上司として部下のモチベーションを高めるには、そうした欲求を満たす場を作ることが不可欠である。
「うちの支店の離職率は、ほかに比べて圧倒的に低いんですよ」。こう話していたのは、あるITサポート系企業の名古屋支店長である。ここ十年、名古屋支店には毎年2〜3人の新人が配属されてきたが、そのうち退職者はゼロ。みな、元気一杯で活躍しているそうだ。他の支店では平均して3割の新人が1年たたずに辞めてしまうというから、確かに高い定着率である。支店長にその理由を聞いて、筆者は大いに納得した。この支店には、互いを認め合い、担当する客先で起きる様々な課題をみんなで考え解決していこうとする風土ができているのだ。
名古屋支店の社員は客先からオフィスに戻るとまず、近くにいる同僚を捕まえてその日の出来事を5〜10分程度で話す。うまくいったことも失敗したことも伝える。聞き手はそれらをすべて受け止め、うまくいったことはしっかり賞賛する。失敗したことに対しては、その体験を次にどのように生かすべきかを自分なりに考えてアドバイスする。この支店では、こうしたフィードバックを通じてモチベーションを高め合っている。結果として、社員の定着率を高く保っているというわけだ(図2)。モチベーション向上を目指す組織にとって、大いに参考になる事例である。

部下に夢を語らせる
プロスポーツの世界で、「FA(Free Agent)制度」はすっかりおなじみになった。一定の成果をクリアしたことを条件に次のキャリアを選手自身が決められるFA制度は、チーム全体のモチベーションを高める施策と言える。実は、このFA制度は企業内のモチベーション向上にも有効である。与えられた目標を達成すればやりたいことに挑戦できる場は、部下をやる気にさせるだろう。
こう言うと、「人事制度はそうやすやすと変えられない」「組織としては、部下がやりたいことばかりやらせているわけにはいかない」と思うかもしれない。だが、「やりたいことをやれる」という言葉はもっと広義にとらえるべきだ。例えば、部下は「自分の夢を語れる」「志を聞いてもらえる」といったことからも「努力次第でやりたいことをやれるんだ」という意識を持てるものである。マネジャーやリーダーは、部下1人ひとりの夢や志を否定せず、しっかりと受け止めてやってほしい。
互いに認め合い、やりたいことをやれる場が組織のモチベーションを高めることは、米国の心理学者であるアブラハム・マズローが唱えた「欲求段階説」で説明できる。欲求段階説は、人を動機づける基本的欲求を5つに分類し、階層化した理論である。
5つの欲求とは、食欲や睡眠欲など身体を維持するための「生理的な欲求」、危険から自己を守りたいという「安全の欲求」、集団に帰属したいという「親和の欲求」、集団から価値ある存在と認められたいという「自我の欲求」、自分の能力を発揮して新しいことに挑戦したいという「自己実現欲求」である(図3)。マズローによれば、人間は低次の欲求が満たされるとその1つ上の欲求を抱くようになり、今度はそれを充足するために行動する。

現代社会において企業という組織に属する人のほとんどは、生理的な欲求と安全の欲求、親和の欲求を充足させていると考えてよいだろう。こうした状況では、自我の欲求や自己実現欲求、つまり「認められたい」「やりたいことをやりたい」という思いが有効な動機づけになるのである。
議論好きの集団を作る
周囲の仲間と議論を通じて刺激を与え合い、新たな価値を生み出す。そんな人と人との“化学反応”が日常的に起きる場は、高いモチベーションを醸成する(図4)。

あるシステムインテグレーション会社は数年前「労働集約型社員」に代えて「知恵交流型社員」の育成を目指す新しい評価制度を導入した。これは、同僚や社外の人と交わることで、どれだけ新しい価値を生み出したかを人事評価基準にする制度である。「100人規模の当社がいかにして150人、200人いる会社と肩を並べるか。それには社員同士が知恵と知恵をぶつけ合い、1人では生み出せない何かを生み出す風土を根付かせなければならない」という社長の熱い思いからだった。
従来にはない試みだけに、当初は新制度に対する反発もあったようだ。しかし、導入して2〜3年たつころ社内に化学反応が起き始めた。社員が現実に議論し合って出てきた知恵が、少しずつ新しい価値を生み出したのである。今では社員から「互いに刺激し合えるので、仕事が楽しい」というコメントが多く聞かれるまでになったという。
時には部下をルーチンワークから解放し、社内外の人と刺激を与え合う場を創造する。それもマネジャーやリーダーが担うべき重要な役割であると心得てほしい。
見えない報酬を可視化する
精神的報酬を得られる場であるかどうかも、部下のモチベーションに大きく影響する。

精神的報酬とは、金銭的価値では表せないご褒美のことだ。互いに努力しながら一緒に目標に向かっていく仲間や自分の成長を促してくれる取引先の社員の存在、仕事を通じて得られる知識やスキル、よい仕事をしたときに得られる周りからの評判、そして何よりこの仕事を一生懸命やることで獲得する自分の成長などが、この精神的報酬に当たる(図5)。
ただし、精神的報酬は経済的報酬と違ってなかなか認識できない。そこで、マネジャーやリーダーは精神的報酬を「見える化」し、部下がそれらを意識できる仕組みを作ってほしい。例えば、部下1人ひとりの成長を人脈や評判、スキル、意識などの項目に分けて記入する「成長可視化ノート」を作る。このノートにより、部下は自分がどのような精神的報酬を得ているのか、どうすればより多くの精神的報酬を得られるのかを目で見て確認できるため、モチベーションを高められる。
部下を「ゆでガエル」にさせない
みなが社内の出来事にしか関心を持たず、社外に目を向けない組織のモチベーションはおしなべて低い。「ゆでガエル」のたとえを引こう。
カエルを熱湯に入れると、当然のことながら熱さに驚いて飛び出す。しかし、はじめに常温の水を張った鍋に入れて徐々に熱していくと、カエルは水温の変化に気付かない。鍋の水が熱湯になったときにはカエルはもはや飛び上がれず、ついにはゆで上がってしまう。そんな話である。
社内にしか目を向けていない人たちの集団にひとたび身を置くと、このゆでガエルのように知らず知らずにモチベーションが減退してしまう。なぜなら、こうした集団では物事が予定調和的に進むので、創意工夫の必要がないからである。私は実際、本来は多様な価値観を備えていた人が“内向き”の組織に所属したばかりにゆでガエルになり、迫力のないつまらないビジネスパーソンに変わり果てた姿を数多く見てきた。
組織を率いるマネジャーやリーダーはぜひ、部下の目を外に向けさせてやってほしい。異業種交流や社外のセミナー、あるいは学生時代の仲間との飲み会でもいい。同じ組織の人間とは異なるものの見方をする人たちと接する機会に積極的に参加させてほしい。社外の風に触れた部下たちはきっと、新しい価値に目覚めてやる気を増すはずだ(図6)。

今回は、職場のソフト環境とモチベーションの関係について述べた。まずはマネジャーやリーダーが率先して行動を変革し、部下が高いモチベーションを持って働ける場を創造していこう。
大塚 雅樹 おおつか・まさき
JTBモチベーションズ 代表取締役社長
1961年東京都生まれ。86年、明治大学法学部法律学科を卒業しJTB(日本交通公社)に入社。91年、社内公募で市場開発室に異動しワークモチベーションの研究を開始。93年、JTBモチベーションズ設立と同時に出向、2004年に代表取締役社長に就任し現在に至る。著書に「やる気を科学する」(河出書房新社)、「明日の出社が楽しくなる本」(インデックスコミュニケーションズ)など。
- データセンター見積もりは「DC完全ガイド」
最新iDCやテクノロジ・製品情報が満載。iDC事業者・サービスカタログで見積もり資料請求にも対応 - レンタルサーバー比較検索「RS完全ガイド」
共用・専用・VPS、国内1600以上のレンタルサーバー/ホスティングから最適なサービスを比較検索 - クラウド比較検索「クラウドサービス完全ガイド」
企業に役立つクラウド関連記事、製品・サービス情報



